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第八話 アール騎士団ただいま参上!

改めて言いますと、この小説は基本的にコメディーです



「異世界には我々には理解できない変わった人が多い」


異世界探検家のレポートより


第八話 アール騎士団ただいま参上!


 誠とララスの戦いから数日後。今日も誠は店番をしていた。ミラは仕入れに出かけ、ララスは奥で品物を整理しているので店先には彼一人だ。


「うーん、やっぱり異常はないな。どうなってんだか」


誠は客がいないのを良いことに、マニュアルに書かれていた『自分で出来るメディカルチェック』を実践していた。誠は自身の身体の変化に不安を感じていたのだ。しかし、どうやらそれは杞憂だったらしい。


「まあ良いか。悪いことは今のところ起きてないしな」


誠は考え込むことを止めて、マニュアルを閉じる。そして今度は茶色の厚い本を取り出した。誠はパラパラとページを開くと、本に書かれている単語を音読する。その本の表紙には『初歩から始める単語集』と書かれていた。


「イルト、イルト……」


自らに備わった中途半端な言語翻訳能力を恨みながら、誠は単語を読み上げていく。すると、集中している誠に誰かが声を掛けた。


「おーい、誠! アリスだ、返事をしてくれ」


「ああアリスさん。何か買いにきたんですか」


誠が顔を上げてみると、アリスが見慣れない二人の男を連れて道に立っていた。誠はその様子を見て、アリスたちを店に招き入れる。


「最近変わった噂を聞いたのでな。何でも誠が古代竜を倒したとかいう内容の。……まさか本当に倒したりはしてないよな?」


 アリスはどこから聞き付けたのかそう尋ねてきた。噂が伝われるのはどこの世界でも早いらしい。


「いえ……本当に倒しちゃいました」


誠は凄い形相で尋ねてきたアリスに申し訳ないかのように答えた。

 きっとアリスも引くんだろうな……。誠が漠然とそう思っていると、アリスは誠の予想を裏切り、満面の笑みを浮かべた。


「そうか! なら誠、まだ骨とか鱗は売ってないよな?」


「売ってないといえば売ってないですが……」


売るも何もない。竜自体を仲間にしたんだから。だが誠がそんなことを言うはずがない。


「良かった! ならその素材を売ってくれないか。古代竜の素材を使った剣を持つのは私たち武人の夢なんだ!」


「そ、それが……」


「どうした、まさかないのか……?」


アリスは顔を俯け、肩をすくめる。その表情は愁いに満ちていた。


「え、うぬ、ああっと……ところでそこにいる二人は誰なんですか?」


誠はアリスの負のオーラに溢れた姿を見て、そんな物はないとも言えず、無理に話題を逸らす。


「二人のことか? 何、私の部下だ」


「部下がいたんですか……」


どこかでアリスのことを下っ端だと思っていた誠。それだけになかなか意外な事実だった。しかしアリスはさらに衝撃的なことを口走る。


「私はこの街の騎士団長だから部下ぐらいいて当然だ」


アリスがそう言った途端、誠の時が止まった。そして誠はコマ送りのようにぎこちない動きで口を開く。


「な……なんだとおおーー!」


誠の渾身の雄叫びが街にこだまする。道行く人々はみな一斉に誠たちの方に注目した。


「いきなり叫ぶな! 私まで恥ずかしいだろう!」


「いや、アリスさんが団長ってありえないでしょ! イタいし弱いし、性格後ろ向きだし!」


 誠は興奮のあまりアリスに対して思っていることをすべてぶちまける。するとアリスは紫と黒の混じりあったような雰囲気を放ち始めた。


「わ、私はそんな風に思われていたのか……」


アリスは地面にしゃがみ込み、つぶやきながら文字を書き始めた。周囲の人々はそれを目にすると、見てはいけないものを見てしまったかのように目線を逸らして逃げて行く。その様子にアリスの後ろに控えていた騎士が頭から湯気を出して怒る。


「貴様ぁ! 団長はガラスの心を持っているんだぞ! 発言には気をつけろ」


「確かに悪かったですが、ガラスの心って……騎士なら精神的にも強くなりましょうよ」


「だまらっしゃい! ヘンリー、こいつを駐屯所まで連行するぞ!」


 男は誠の手に縄を掛け、連れて行こうとした。しかしそれをもう一人の男が止める。


「副団長、こいつは古代竜を倒したらしい猛者であります! 全員揃わないと勝てないかと!」


「ううむ、それもそうだ。おい、貴様。我々はすぐに戻ってくるからな。逃げるなよ!」


男たちはそういうとどこかに向かって走り去って行った。何故か一番大事なずのアリスを残して。


「どうした主よ。先程から騒々しいが」


店の奥から騒ぎに気づいたララスが出てきた。だが次の瞬間、彼女の目が驚愕によって限界まで見開かれる。


「そやつは何者だ。その負のオーラ、さては魔王か!」


「ただの人間だよ。性格が後ろ向きなだけで。あっそうだララス、この人を店の奥に入れてくれないか? ここにいられたら商売の邪魔になっちゃうから」


誠は盛大な勘違いをしているララスに説明をすると、アリスを店の奥に引っ張って行ってもらった。


「ふう、疲れた~」


誠は椅子に深く腰を沈めると、一息ついた。そうして穏やかな時を過ごす。だがそれはすぐに終了させられた。


「そこまでだクロサキ マコト! 我らアール騎士団が天に代わって貴様を討つ! トウウッ!」


いつのまにかお向かいの家の屋根にいた男たちが、そう高らかに叫ぶと道路に向かってジャンプした。さらに男たちが着地すると同時に、屋根から煙りが上がって紙吹雪があたりに舞い落ちる。


「さあ我らの正義の力を思い知れ! 総員突撃だあ!」


「え、あ、ちょっ!」


こうして誠はアール騎士団となぜか戦うことになったのだった……。



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