第六話 ドラゴンマスター誕生?
久しぶりの投稿です。最近忙しかったのでなかなか出来ませんでした。
「ドラゴンとの戦い。それは冒険の醍醐味である」
異世界冒険家より
第六話 ドラゴンマスター誕生?
ミラの店に謎の魔法使いが来た翌日、誠はドラゴンを倒すべく山に来ていた。
「このあたりか? 何もいないが……」
誠は地図を見ていた顔を上げて、辺りを見回した。ドラゴンの巣があるはずだった。しかし辺りはゴツゴツとした岩場があるだけで、それらしき姿は見えない。誠はがっかりすると手頃な大きさの岩に腰掛け、休憩を始めた。そして慣れない山道に身体は疲れなくても精神的に疲れたのか、心地好い陽気の中で誠はウトウトする。
「ふうあぁ~……っていかんいかん、こんなところで寝たらドラゴンに食われてしまう」
「その通りだぞ人間」
しばらくして誠が眠気を覚まして独り言を言うと、それに応える声がした。誠は後ろをソウッと振り向く。そこには赤い鱗に大きな口、そして巨大な牙を持つ生物がいた。
「ド、ドラゴオォォーン!」
誠は叫びながら岩から降りるとファイティングポーズを取った。ちなみに誠は丸腰だ。誠の場合武器は逆に邪魔だろうと言ってミラが貸してくれなかったからである。
「おぬし丸腰か? 舐めたものよ。古代竜ララスといえば昔は有名じゃったのだがのう」
ドラゴンは器用に人語で笑った。大きく開かれた口は誠など十人ぐらいまとめてひとのみにしてしまえそうだ。
「なんか予想してたより大物だ……」
誠はあまりにもスケールの大きな敵に圧倒されて腰が引けた。しかし今更逃げるに逃げられない。開き直って誠は戦う覚悟を決めた。そしてもう無我夢中でドラゴンの前足を殴りつける。
鈍い炸裂音がした。ドラゴンの鱗がひび割れ、血が噴出する。
「ウギャアア! 貴様何をした!」
ドラゴンは想定外の痛みに悲鳴を上げた。さらに誠に向かって殺気をぶつける。
「た、ただ殴っただけだ!」
誠はドラゴンの様子に恐れをなしながらもそう言いきった。実際にそうなのだから仕方ないのだが。
「馬鹿を言うな! そんな程度で傷ついてたまるか」
ドラゴンはそう叫ぶと一段と殺気を強めた。そして鋭い爪を振り下ろす。誠はドラゴンの殺気に立ちすくんでしまってその場から動けなかった。
「な、何ぃ!」
ドラゴンは驚愕した。自身の爪が誠の腕によって受け止められたからである。しかも、顔の前に突き出されたその腕は素人がとっさに出したもののようにしか見えない。素晴らしくありえないことだった。しかし、そのことに一番驚いたのは誰あろう誠であった。
「うおお! 何だこりゃあ!」
誠は恐怖で閉じていた目を開けると驚きのあまり奇声を上げた。そして後ろに飛びのく。その時ついでにドラゴンの爪は弾き飛ばされ、ドラゴンは後ろに尻餅をついた。
「あ、ありえぬ。どうして人間にそんな力があるのだ。それもこんな覇気のない奴に……」
ドラゴンは恐れという感情を生まれて初めて覚えた。古代竜ララスと呼ばれる彼女は、ずっと最強の存在だった。それゆえに恐れなど感じたことはなかったのだ。でも彼女のどこかはかすかに期待を抱いてもいた。誠が自分を超える存在であることを。彼女は最強ゆえに孤独な存在だった。だから、自分を超える存在によって孤独から解放されたいとも感じていたのだ。
誠はララスにできた隙を見逃さなかった。誠はララスの腹にパンチを決める。その不格好なフォームから繰り出されたパンチは、見た目に反して凄まじい威力を発揮した。
「キシャアア!」
ララスは咆哮を上げながら吹っ飛ばされた。数十メートルはあろうかという巨体が木の葉のように宙を舞う。そのあとでドシンとした揺れが辺りを襲った。
「今ならヤ○チャぐらい倒せるかも……」
誠は自分のしたことに半ば呆然としながらつぶやいた。誠からしたらずいぶん古いネタが入っていたのはきっと気にしてはいけない。
「もう怒った! 貴様など消しさってやる!」
ララスは砂埃の中から起き上がると悍ましいほどの叫びを上げた。さらに口を大きく開き、周囲の魔力を集め始める。ドラゴンの必殺技、ブレス攻撃の準備だ。もしこの攻撃を破られたらララスに打つ手はない。その時は負けを認めてやろうと彼女は思った。もっともほとんどありえないことだろうが。
「これはちょっとやばくないか!」
誠はララスの口から溢れる青白い光を見てすぐに逃げ出した。だがもう遅い。ララスは高笑いしながら無慈悲にブレスを放った。しかし彼女の心のどこかで誠がブレスに耐えることを期待している部分がないでもなかったのだが。
「耐えれるものなら耐えてみろぉ~!」
巨大な光の球が周囲の岩を薙ぎ払いながら一直線に誠目掛けて飛んでいく。誠は精一杯走って逃げようとしたが、無駄に終わった。誠の身体を青白い光が飲み込む。
「ははは、このララスにやはり人間が勝てる訳がなかったのだ! あーはっは」
えぐり取られた山肌。熱で溶けた巨大な岩の数々。それらを見てララスは自身の勝利を確信した。そしてご機嫌になったララスは悠々と巣のある方へと向かって行く。今日はやたらに強い人間勝ったことを祝ってご馳走でも食べようかと思いながら。ただし、誠があっさりと倒れたことにララスは心の奥底ではほんのすこし失望感を感じていた。しかし彼女がそれを表に出すことはまずないだろう。彼女はそういう難しい性格をしていた。
そう思っていた時、彼女の耳に聞き覚えのある声がした。
「あちゃあちゃあちゃ~! 熱い! 死ぬ~!」
誠は溶岩と化した地面から起き上がるとその熱さに悲鳴を上げた。さらに彼は熱湯風呂に落とされた芸人のような動きをしながら溶けてないところまでたどり着くと、足をふうふうする。
「……あはははは、負けた、負けたぞ人間よ。よし、こうなったらそなたを主として認めてやろう」
ララスは誠の様子を見て大笑いすると、そう言い放った。ドラゴンは何よりも力を尊ぶ種族だ。ララスが勝者の誠に仕えることを申し出たのはそれほど奇妙なことではない。さらに彼女自身が誠が大騒ぎしているのを見て、彼を純粋に面白い奴だとも思ったことも関係している。
しかし、それを聞いた誠は困ったような顔をした。
「う~ん、うちには君を飼えるようなスペースはないなぁ……。それに食費も掛かりそうだし」
誠は何とも所帯じみたことを言った。もちろん誠もドラゴンに乗れたら格好良いな、とかは思っている。だが実際に飼うとなると問題が山積みだろうと誠は思ったのだ。それを聞いたララスは一層腹を抱えて笑った。
「ぷ、ぷはは、小さなことを気にする奴だ。良かろう、これなら問題あるまい」
ララスはそう言うとぶつぶつと呪文を唱えた。やがてその巨大な身体を光が包む。
「よろしく頼むぞ主殿!」
光が収まると、そこには妙齢な女性の姿になったララスがいた……。
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