第三話 商売を考えよう
「異世界で商売するときは塩、香辛料、氷菓がオススメだ。ほぼ間違いなく成功できる」
元異世界の商人より
第三話 商売を考えよう
誠はミラの家のベッドの上でこれからのこと考え込んでいた。ミラはすでに酒に酔って寝てしまっている。
「救助が来るまで平均五年かあ……。それまで何とかしないとな」
誠はマニュアルに書かれていた文字に思わず唸った。異世界へ救助隊が来るまでには平均五年かかると書いてあったのである。つまり彼は五年もの間この世界で過ごさねばならないのだ。
「時間もあるし、ここは本気でミラと商売するとしようか」
誠は素早く端末を操作した。そしてマニュアルの『異世界で役立つ現代知識集』を表示する。
誠は表示された文字を食い入るように読み始めた。そうしてしばらく時が流れる。
「ふふふ、これで儲かる! 完璧だ!」
誠は頭の中で画期的な商売を思いついた。そして魔王のような高笑いをすると意気揚々とベッドに潜る。
翌日、爽やかに目覚た誠はミラに喜び勇んで『おれのかんがえたすごいしょうばい』のアイデアを披露した。だが……
「そんなことみんな思いついてるよ。ただ実現が難しいからやらないだけで」
「な、何だと……。この世界の商人はSYOUNINだったのか……!」
誠は絶望感に打ちのめされた。しかし考えて見れば当然である。この世界に来て間もない誠が画期的な商売なんて思いつける訳がなかったのだ。
「で、でも素人にしてはなかなかの発想やで。誠って賢いな、あはは……」
あまりにも落ち込んだ誠をミラは見かねて、無理にそのアイデアを褒める。なんとも白々しい声がまだ客のいない店内に響いた。しかしそのことが誠の闘志に火をつけた。
「やってやる、やってやるぞ。絶対画期的な商売を見つけてやる! そうと決まったらまずはリサーチだ!」
「待った! まだ何も仕事してないで!」
ミラが店から飛び出す誠を慌てて止めようとした。だが誠の耳には入っていないようで、そのまま誠は街に繰り出してしまった。
「街のこととか何も知らんのに飛び出してもうた。全く、どうなっても知らんで……」
ミラは呆れたように言うと開店準備を開始した。
★★★★★★★★
その頃、誠は早速困っていた。街の店が何を売っているのか調べようと看板を見たのだが、何故か文字は読めたのだが、名詞の意味がわからないのだ。おかげで調査がまったくはかどらない。
「なんでこんな中途半端にご都合主義なんだ。名詞の意味までわかればいいのに。何だよ、エラト販売中って。さっぱりわからないな」
誠はルー〇柴が書いたみたいに見える看板を解読することをあきらめた。しかたないのでミラの店に戻ろうとする。もっと文字について学ぶまでは大人しく店を手伝うことにしよう。そう思って帰ろうとした誠は帰り道がわからなくなっていることに気がついた。
「ここどこだ? さっぱりわからないぞ」
誠は辺りを見回すものの、似たような景色が続いているばかり。現代人の誠が中世風の建物の区別をつけることは難しい。彼は後先何も考えずに行動した自分を恨んだ。だが、そうして立ち止まっていてもどうしようもない。なので、周りの人に道を聞こうとした。
「すみません、ちょっと道を教えてくれませんか?」
誠は通りを歩いていた人の良さそうな青年を呼び止めた。青年は誠の呼び止めに応じてその足を止めた。
「ありがとうございます。あの、ミラ雑貨というお店の場所を教えてもらえませんか?」
青年は首を捻るとすまなさそうに答える。
「知らないなあ。ごめんね教えてあげられなくて」
「いえいえ、こちらこそ手間をかけてすみませんでした」
ミラの店は失礼だが、小さい店だ。知らない人が圧倒的に多いだろう。誠は地道に店を探すことにした。
少し歩いたところで誠は裏通りに入った。ミラの店が裏通りにあったことぐらいは覚えていたのである。そうして誠が裏通りを歩いていると、何ともステレオタイプなチンピラに遭遇した。太って腹の出た大男に、背の低い二人の三人組である。
「お前、誰に許可取って歩いてるんだ、ああん?」
「そうだここは兄貴の道だ。通りたかったら通行料払えや、こらぁ!」
背の低い二人チンピラたちは古きよき昭和の香りを放ちながら手を出してきた。大男はそれを見て踏ん反り返りながら誠を睨みつける。しかしながら誠は文字通りの一文無し。お金なんて持っているはずがない。
「悪いけれど今手持ちが……」
誠は頭をかき、後ろに下がりながら答えた。その答えに当然、チンピラたちはキレる。
「なめとんのか! ぶっ殺すぞてめぇ!」
「持ってないですむかボケぇ!」
背の低い二人のチンピラたちが殴りかかってきた。誠はそれをかわすと全力で逃げる。別に、今の誠ならチンピラに負けたりはしない。しかし、殴って怪我をさせると後々因縁つけてきて面倒臭そうだから誠は逃げるのだ。
「そこまでよ! 悪党ども! この正義の騎士アリス・キャンベラが成敗してくれる!」
誠の目の前の曲がり角から、痛々しいセリフを言い放つ少女が現れた。甲冑に身を包み、長い赤髪をなびかせる少女の姿は様になってはいる。だが、何となくお寒い空気が辺りを漂ったのだった……。
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