プロローグ
あらかじめ掲示しておきますが、この作品の更新は不定期です。その点をご了承下さい。
プロローグ
「どうしよ、明日までにはとても終わんないぞ」
西暦三一一二年。次元宇宙研究所と呼ばれる研究所。そこで一人の男が唸っていた。男の名前は黒崎誠、この研究所の平研究員だ。
今、彼の目の前にある空間ディスプレイには大量のソフトが表示されていた。明日までに彼が処理しなくてはならないソフトである。このソフトたちが彼を唸らせていた原因だった。
「これ終わらせないと主任切れるからなあ、でも終わらないよな、これ」
誠は仕事の量に絶望してため息をつく。彼の小さな研究室をどんよりとした空気が覆った。
「現実から逃げれたらいいのに……はあ」
誠が現実逃避に走り、二度目のため息をついた。そしてコーヒーを一口すすり、現実に戻る。彼が困った時にするいつもの行動パターンだ。
彼がコーヒーカップを置いたその時、研究所内にサイレンが鳴り、放送が流れ始めた。
「職員の皆様にお知らせします。ただ今研究所内の次元が大変不安定となっております。つきましては避難場所への方をよろしくお願い致します。繰り返します……」
「マジか。こんな時にかよ。俺もついてないな」
誠は放送内容に悪態をついた。なにせ、これで彼の仕事が間に合う可能性がほぼ無しになってしまったのだから。しかし、なってしまったものは仕方がない。誠は荷物をまとめて避難場所に行く準備をする。
「主任にどうやって謝ろうか。あの人ヒステリックだからな……」
誠は仕事を間に合わせることを潔く諦めた。さらに上司に謝る算段をつけはじめる。
彼はそうして上司に対する言い訳を考えながら、研究室のドアを開けた。研究室の今時珍しい木製のドアが誠の手でなめらかに開かれる。
「あれ、どこだここ……」
ドアを開けた誠の目の前には深い森林が広っていた。木々が生い茂り、小鳥の鳴き声なども聞こえる。今時地球のどんな奥地にもこんな場所はない。もちろん研究所の中にこんな場所はない。誠は後ろを振り返った。研究室や研究所の影も形もない。ただ前と同じ森が広っているだけだった。誠はあまりに突然の出来事に言葉を失う。しかしすぐに比較的冷静に戻った。
「まさか俺がトリップすることになるとは……」
誠はすぐに思い当たる現象があったのだ。
異世界トリップ。一般的にはありえないとされる出来事だろう。
しかし彼の所属する研究所では滅多にないが、ありえないことでもなかった。
彼はしばらく思考を停止させた後で、手に持っていたかばんから端末を取り出した。ちなみに彼の持っているかばんはたくさんものが入る無限容量かばんだ。
「マニュアルが確かあったよな……。あっこれだこれだ」
誠は端末の膨大なデータの中からあるマニュアルのデータを選び出した。彼の研究所はあらかじめこういう場合に備えてマニュアルを用意しているのだ。
誠はそのマニュアルを見るべく端末の画面を切り替えた。画面に異世界対応マニュアルという文字がデカデカと表示された……。
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