しまい波電鉄
本国が戦争を始めて、一年経った。もともと貧弱な我が国は、いとも容易く物資不足に陥る。全国から金物が徴収されているようだ。海に無理やり敷いたこの鉄路も、いずれ消える存在だ。
近隣では家が毎日のように焼かれるのに、私がいるこの村は、無駄に澄んだ空の下に展開されている。
山と海の香りがする、風が吹く。そこに人間の火薬感はない。辺りには初夏の草木だけがある。
"とまれみよ"とだけ書かれた踏切の前で立ち止まると、必ずこの思考に陥る。当てもなく、なぜかここに向かいたくなる。
気を使う存在から解き放たれる、爽快感だろうか。春だろうが夏だろうが秋だろうが、冬だろうが、それは変わらぬようだ。
我に返ると、遠くからのんびりとした音が聞こえてきた。古臭さを感じつつも、磯風と戦うしまい波電鉄の最古参である。
大した速さでもないくせには、一番よく目にする。
私には、到底理解できぬ。何のためにそこまでするのか。結局は、なくなる存在なのに。
古い摩擦装置のせいで鉄粉を撒き散らしながら、そいつは走り去った。
のりでくっつけられたように動かない足を、私は無理やり動かした。
村の中心では、もう金物狩りが始まってしまっているはずである。
遠くに見えるあの鉄路の先には、広大な海が広がっている。その先に、何があるのか。
駅がないこの場所の人間には、一生わからないことなのだろう。
その踏切の少し先に、砂利の山がある。
そこに線路が引かれていた。磯風にあてられ、なす術なく朽ち始めた木の架線柱が、風で少し揺れた。
そして、また少し腐る。
「…行かなきゃなあ…。」
目を背けてはいけない。私の国はどこかと戦っている。
私に、夢物語を描く暇はない。…夢物語を描く暇…。
どこに向かうのかはわからない、どこから来るのかもわからない。海の向こうから列車が折り返して帰ってきた。車体に行先など書かず、その錆びた身体に鞭打って走る。軌道をねじ曲げることは、許されず。
日が沈み日が昇り、明星が隠れた日に、村は消えた。




