第8話:22:00、大手デパート防衛戦
ファンタジー最高!
……と思ってみても、現実世界が鬼畜難易度のダークファンタジーになるとか聞いてない!
責任者呼べ畜生!
今まさに命の危険まっしぐらだ!
動物としての骨格とか無視してるような、手足の先がナマケモノの爪みたいになってるクモみたいなサルが、大量に押し寄せてきてるんだよ!
なんだこいつら? キモいし強いし堅いしで、どうにもならねえ!
ポイントで拳銃選んだのが間違いだったか、大量にポイント消費した割には、弾を撃ち尽くしたらショップで弾を買わないといけなくて、次弾装填のヒマすらない!
ファンタジーだヒャッハー!
でも、最初はチュートリアルをお願いしますマジで!
あーもー、マジで最悪だ!
防火シャッター下ろしても、外壁伝って登ってきやがる!
俺は庇ってもらえたから運よく生き残ってこれたが、庇ってくれた人は…………。
ガッデム!
デパートの屋上は360度大パノラマだぜ!
下から外壁伝ってバケモノが這い上がってくるけどな!
ジーザス! 神は死んだ! 生きてたらゴメンよ!
俺はもうすぐ死んじまうからよ! 好き勝手言わせてもらうぜベイベー!
◯ァッキンサルども! 一匹でも多く道連れにしてやるぜーーッ!!
ヒャッハー!!
……あ、店員のお姉さん、引かないでください。マジすんません。マジメにやりますんで、どうか許してやってください。
あ、拳銃使います? 弾入ってないですけど。
…………ん? なんかあいつ、…………強くね?
22:00
警察署を経由して、大手デパートに移動する。
こんな状況でも、逃げながらチャットに書き込みしてるヤツがいるようで、東さんと西園さんからの情報でだいたい状況は掴めていた。
クモみたいに外壁を登っていくバケモノとか、どうすればと思うのだが。
……眷属のガンマン屍鬼は、武器をライフルに持ち替えていて、地上から外壁を登るサルを狙撃している。
…………こいつほんまなんやねん。
頭を撃ち抜かれて落ちていくクモザルを見上げると、心臓が止まりそうな光景が。
「…………っ!」
双葉さんが割れた窓(地上10階)から飛び降りて、空中でクモザルを斬り捨て、空中ダッシュで別のクモザルを斬り、二段ジャンプで別のクモザルを斬り、さらに空中ダッシュで元の位置に戻っていた。
よく見たら、一華さんも槍を外壁に突き立て、反動を利用して立体機動してる。
…………なにあの二人。ハラハラするんでやめてもらえますか?
三次元立体機動を、外壁を使うことで二次元だよみたいな動きしないでください。心臓に悪い。
……でも、あの二人があそこまでやれてるのなら。
それ以上のステータスを持つおれなら、無理やり似たようなことはできるか?
走っても跳んでも、慣性は殺せない。
ネコ型ロボットの不思議道具みたいなものがない限り、地面を走って外壁を垂直に駆け上がるとか、物理的に無理だろう。
けど、二人の動きを足したようなことは、できるかも……。
助走をつけて、跳ぶ。
空中で体をひねって、外壁を登るクモザルの背に着地するようにドロップキック。
壁を蹴って斜め上に跳び上がり、別のクモザルを鉈で斬り捨て、斧を振って外壁に突き刺してブレーキ、反動を利用して壁を蹴り、斜めにジャンプ、別のクモザルを斬り捨てる。
意外とやれるな。二段ジャンプと空中ダッシュは無理だったけど。
とりあえず、上の様子を見てくるか。
地上15階の大手デパートは、要市でも数少ない高層ビルで、屋上にいる守り手側にとって、外壁を登るクモザルは空を飛んでいるのと大して変わらない。
クモザルが屋上に上がる瞬間に、槍で突いて落とすくらいしか、先制攻撃ができていない。
下から見ると、次々とクモザルが屋上に登っているのが分かる。
どうしようもないけれど、地上からの援護はガンマン眷属のみで、立体機動している一華さんと双葉さんの姉妹がだいぶおかしいのであって、ほかの眷属は屋上で戦闘しているようだ。
ちょっと、急がないと。
鉈と斧を交互に外壁に突き刺し、腕の力と外壁を蹴る勢いで登っていくと、双葉さんが真っ逆さまに落ちていく。
悲鳴を上げそうになるが、下にいたクモザルを斬って、空中ダッシュで移動してまた斬って、二段ジャンプでまた移動して斬ってと、人間てなんだっけ? と首を傾げたくなってくる。
いや、今は屍鬼でレベルアップとネクロマンサーのスキルで身体能力も上がっているから色々できているのか。
ともかく、これ以上二人に心臓に悪いことをやらせないためにも、さっさと屋上に上がってしまおう。
何度目かのジャンプで屋上に到達。
そこでは、避難した人たちとおれの眷属たちが大量のクモザルとぶつかり合っていた。
円陣を組み、全方位から攻めてくるクモザルを数人がかりで撃退し、ケガしたり疲れたら円の内側で待機してる人と交代して対応していた。
おれの眷属たちは常に動きまわり、クモザルが円陣に近づくのを少しでも食い止める役割をしていた。
……なんか、槍振り回してヒャッハー言ってる奴もいるが……。
あれには近寄らんとこ。なんか怖いし。
人を獲物扱いしてるはずのクモザルも近寄らんとか、相当だぞ。
・スパイダーモンキー レベル8 タイプ:獣
:手足の先が鋭利な一本の爪になっているサル。計4本の爪を駆使して、垂直の壁や岩場を登り降りする。
雑食。家族単位で群れを形成し、集団で狩りを行う。
ドロップ:蜘蛛猿の爪、蜘蛛猿の毛皮、ランダム毛皮、蜘蛛糸
今日一日で遭遇したバケモノの強さとレベルに幅がありすぎて、レベル8は相当低いと勘違いしてしまいそうだが、レベル0の一般市民からしてみればヒグマに遭遇した以上の脅威だろうか。
残るクモザルを素早く殺処分し、上がってくるクモザルを掃討する。
「…………た、助かった…………?」
眷属たちが倒したクモザルをアイテムボックスに収納していると、槍を振り回していたヒャッハー野郎が呆然と呟いた。
「失礼します。そちらの方々は、あなた様のお仲間でございましょうか? そちらの方々をここに向かわせてくれたのですね」
スーツ姿の高齢男性が声をかけてくる。
「ありがとうございます。おかげさまで生き延びることができました」
高齢男性が腰を折って礼を述べてくる。
別になにも言っていないが、眷属たちが集合してきたことで、おれが眷属たちに指示したと判断したのだろう。
間違っちゃあいないが、関わって時間を取られるのは面倒だ。
「それより、これからのことを考えた方がいいぞ。ここに残るか、街のあちこちに立ち上がった避難所に身を寄せるか」
「それに関しまして、」
「付き合わんぞ。今も、この街のどこかで大量のバケモノに襲われてるやつがいるだろ。それに、礼なら、数分おきにチャットにコメントしてるやつに言えばいい。逃げ隠れしながら面白おかしくコメントしてるやつがいて、その情報をもとにここに来たから」
眷属たちをアイテムボックスに戻して、外壁の方に行く。
地上15階。深夜に見下ろす景色は、地獄のようだった。
明かりの点いた場所、消えた場所、火の手が上がる場所、がれきと化した建物、闇の中蠢く群れ、離れていてもかすかに聞こえてくる悲鳴と断末魔。
地獄が、そこにあった。
「戦って生き延びたなら、レベルアップしてるやつもいるだろ。E-フォンと念じれば、自分だけの進化した証が現れる。それのチャットから最新情報を拾って、これからのことを相談すればいい」
地獄が、たしかにそこにある。
けれど、戦い、生き延びている人もいる。
それならまだ、なんとかなるだろうか。
こんな世界で、生きたいかどうかは人によるかもしれないが。
死んでも、終わりが来るとはいえない、条理の捻れた世界になってしまっている。
「貴重な情報、痛み入ります。私どもは、あなた様の足かせになりたいわけではありません。道を示していただけただけで、十分でございます。ですが、あなた様はいかがなされます?」
両親が死んでから、他人など、ニンゲンなど、どうでもいいとさえ思った身だけれども。
今、男性から向けられる、おれの身を案じる気持ちが、どこか心地よかった。
「いかがもなにも、バケモノどもは鏖殺だ。それ以外になにがある」
「…………猛き炎の如く荒々しき御霊が、鎮まる日が来る事をお祈りしております。……では、ご武運を」
胸に手を当て、深く腰を折る男性。
進むべき道を、倒すべき敵を見つめて、屋上から飛び降りる。
身をひるがえし、外壁に鉈と斧を突き立て足でブレーキしながら下がれば、地上15階からの降下もなんなく着地。
地上で待っていた一華さんと双葉さん、ガンマン眷属と合流する。
…………なぜか、一華さん双葉さんの二人が、ぎゅっと抱きしめてきた。
……少し……怒ってる……? でもなんか、心配?
いや、心配なのはこっちの方だって。双葉さんとか、身投げしたみたいに落下しただろうに。空中ダッシュや二段ジャンプをこの目で見ても、心臓が止まりそうだったんだから。
二人に抱き着かれながら、ガンマン眷属に頭をぐしゃぐしゃにされる。なでられているのかこれは。
だから、お前はなんなんだって。
……まあ、いいさ。これからやることは変わらない。
バケモノどもは鏖殺だ。
この命、燃え尽きるまで。
世界改変後、初めての日付変更。
この、地獄のような世界で、それでも人は、大きく数を減らしつつも、しぶとくたくましく生きていく。
命尽きる、その日まで。




