第3話:15:00、市立要第一小学校防衛戦
お前は意思を示した。
お前は道を示した。
その尊き意思に敬意を表する。
今はただ、見守るしかできない身なれど。
いつか必ず、お前の助けになろう。
その時まで、生き延びてくれ。
E-フォンが震える。
なにかを知らせてくれているのだと直感に従い、移動しながら操作する。
・通神
・メール
・カメラ
・フォルダ
・ENS
・ステータス
・ポイント
・ショップ
・ストレージ
・アイテムボックス
◯・クラスチェンジ
画面に表示さてれているアプリの中で、クラスチェンジに赤マーカーが付いていた。
・戦士
・剣士
・人斬り
・狂戦士
・野盗
・強盗
・斥候
・墓守
◯・ブリーダー オススメ!
並んだクラスチェンジ先を見て、ぶふっと噴き出す。
見事なまでに物理一色。
それどころか、人斬りとか野盗とか強盗とかやべーものも候補に挙がっている。
その中で異色なのが、ブリーダーだ。
なぜか、オススメ! と赤マーカーもついているブリーダーの詳細を見てみると、取得できる技能は
・ファーム
・経験譲渡
の2点だけ。解説を見ればなにか分かるかと思えば……。
・ファーム:アイテムボックスと紐付けすることで、アイテムボックスの容量限界までボックス内に魔物を収納することができる。
育成系スキルと組み合わせると、ボックス内の魔物も経験値とポイントを得ることができる。
・経験譲渡:スキル所持者が得る経験値とポイントの一部を、対象に分け与えることができる。
「…………んんん?」
正直、何がオススメなのかまったく分からないが、オススメと表示されているのだから、おれに必要なものなのだろう。
どこか釈然としないままに、ブリーダーにクラスチェンジしてみる。
・《ブリーダー》にクラスチェンジ!
・ファーム
・経験譲渡
を取得!
クラスチェンジはした。
その感想は、…………で? って感じだ。なにも変わったようには感じない。
首を傾げながらE-フォンを見ると、
◯・テイマー
◯・トレーナー
と、さらなるクラスチェンジ先が表示されていた。
テイマーはモンスターテイム、つまり、魔物を仲間にするスキルが使えて、トレーナーはテイムした魔物に経験値を分け与えることができる育成が使える。
「…………これは…………」
直感に従い、まずはテイマーにクラスチェンジする。
その後、トレーナーにクラスチェンジ。
・《テイマー》にクラスチェンジ!
・武器適正(槍)
・武器適正(鞭)
・武器適正(弓)
・防具適正(軽鎧)
・モンスターテイム
・意思疎通
を取得!
・《トレーナー》にクラスチェンジ!
・育成
・成長強化
・広域育成
を取得!
さらに表示されていたクラスをよく見ずに選択、クラスチェンジする。
・《ネクロマンサー》にクラスチェンジ!
・武器適正(杖)
・武器適正(鎌)
・防具適正(法衣)
・防具適正(軽鎧)
・死霊召喚
・死霊操術
・死霊育成
・死霊強化
を取得!
「…………あれ?」
…………しまった、やらかした。
と、思ったら、E-フォンが震えた。
何事かとクラスチェンジ画面からホーム画面に戻ると、
・通神
・メール
・カメラ
・フォルダ
・ENS
・ステータス
・ポイント
・ショップ
・ストレージ
・アイテムボックス
・クラスチェンジ
・ファーム New!
とファームのアイコンが追加されていて、その内容が、えらいことになっていた。
1374/9999E
なにこれいみわかんない。
思考停止して、我に返り、深呼吸。
1374。これが、現在ファームにいる魔物……の、数……え、なんかまた増えた。
1792/9999E
えっ、えーと、なになに? ファーム内にいる死霊操術で操作できる屍鬼が1374人で、ゴブリンとかのゾンビやゴーストみたいな死霊を足した総数が1792体ってことな。
その中から人間というか屍鬼に限定して、強い順に並べ替えして、上位10人を召喚。それ以下はレベル0の一般市民の屍鬼で一気に弱くなるから候補から除外。
全員若い男性かと思いきや、男女比率が4:6でちょっと驚いた。
ファーム内で確認できるステータスを見ながら適性を確認する。確認できる情報は潜在的なものもあったので、それを踏まえながらショップで武器や防具を渡していく。
装備しろと命じないと武器防具を身に着けてくれないところを面倒と思いながら、……いきなりボロボロの服を脱ぎだした女性の屍鬼から速攻目を離して、同年代くらいの男子の体の状態を確認してみる。
死因に関わるようなケガは特にないところを不思議に思いながらファームなどの説明を見ていくと、
・ファーム
・ファーム内の魔物は自動で回復する。
・ファームに登録している魔物が撃破された際、自動で帰還することを選択できる。
・育成系スキルと組み合わせると、ボックス内の魔物も経験値とポイントを得ることができる。
屍鬼は再生スキルを持っているので、時間さえあればダメージも回復する。
スキル《死霊強化》で、屍鬼は強化されるし、ファーム内でも屍鬼やゾンビやゴーストなどにも経験値が入る。
なるほど。オススメの意味がよく分かった。
10人全員が服を着替え武器防具を装備したのを確認する。
8人は剣とか斧とか薙刀だけど、1人は弓で1人は拳銃。
拳銃とか自分で用意しておいてなんでやねんと思ったが、器用さが高くスキル《銃装備》や《早撃ち》や《命中補正1》とか持っているから、エアガンとか撃った経験があるのだろうか。
1人だけ西部劇みたいな帽子とチョッキとズボンな服装で屍鬼特有の青白い無表情でありながら、拳銃の先でカウボーイハットをクイと上げたりしてカッコつけたりしてる。
……こいつほんまなんやねん。
数秒、思考停止。
気を取り直して、号令をかける。
「目標は要市立第一小学校。バケモノどもは鏖殺にしろ。人間には手を出すな。ただし、攻撃されたら反撃は許可する。行くぞ。……いや、先に行ってる。追いついてこい」
ステータスの違いから眷属たちを置いてけぼりにしてしまう。
仕方なしに声かけして先行するが…………。
パカラッパカラッパカラッ!
あっさり追いついて並走している眷属が1人。
弓装備した道着姿の婦警さん(屍鬼)が、人魂っぽいのが浮かんでる半透明の馬に乗って、追いついてきていた。
えっ? なにその馬おれ召喚してないんだけど……。
流鏑馬? レベル上がったら召喚できるようになった? なにそれうらやま。
いきなりあれこれできるようになって頭がついてこないが、眷属たちを置いてけぼりにしてあとから合流させるよりは、ファームに戻して現地で再召喚した方がよほど効率がいいことに気づいていったん戻ろうとするも、E-フォンを操作してみると多少であれば離れていても死霊操術の効果でファームに戻すことができるようだ。
15:00
眷属を戻して半透明な馬と並走し要市立第一小学校へ突入。
広い校庭には、小学生と思わしき体の小さな屍鬼や用務員や教師と思われる屍鬼も徘徊していたが、敵は昇降口に集中していた。
生存者たちは広い校庭を放棄して、昇降口に机やイスでバリケードを築いており、一度に攻めてくる敵を制限していた。
窓ガラスを割って侵入とかしていないのは、この場にいる敵の数が少ないからのようで、教師と高学年の生徒を中心になんとか防衛できている。
ただ、後方で待っている敵は苛立っているようで、不満を訴えるように唸り声をあげていた。
小学校の敷地に入ると同時に眷属たちを召喚して、その敵……二足歩行の犬コボルト……の背後から襲撃をかける。
弓矢と拳銃の先制攻撃でこちらに気づくが、その時にはおれが1人突出してすぐにコボルトの集団に斬り込み、斬り捨て、突破して、集団を2つに分断した。
遅れて駆けつける10人の眷属は、前衛4後衛1で2つのチームに分かれて進軍し、分断されたコボルトどもに襲いかかる。
ネクロマンサーのスキルで強化された眷属たちは、コボルトを一撃必殺で次々と撃破していく。
眷属の屍鬼が魔物を倒してもドロップアイテムに変化しないことを確認したので、分断された片方に突撃し斬りまくってドロップアイテムを回収していく。
・コボルト レベル4 タイプ:亜人・獣
:二足歩行の犬。様々な種類がいる。高速移動時は四足走行。
肉食。ヌシを中心に群れる習性を持つ。獣同様に爪と牙と速さが脅威で、武器を使う個体もいるため単体の強さ以上に侮れない。
ドロップ:犬鬼の尾、ランダム毛皮、ランダム革製品、ランダム衣類、所持武器防具
分断された群れの片方を潰した後は、眷属たちと合流し速やかに殺処分を終えた。
「……ふぅ」
「…………きみは、…………誰だ?」
戦い終えて一息つくのに合わせて、男性教師が声をかけてくる。
「おれは」
「あっ! ま、まだ、向こうに!」
名乗ろうとしたところで、周囲を警戒していた生徒が声を上げた。
指差す方を見てみると、校庭をうろついていた生徒の屍鬼や教師・用務員と思われる大人の屍鬼が寄ってくるところだった。
「……ふむ、《死霊操術》」
多少距離があってもちゃんと見えていれば死霊操術は可能らしく、生徒の屍鬼はすべて動きを止めた。
問題は大人の屍鬼のようで、
「処分する。目をつむっていろ」
もはや一般人の屍鬼は相手にならず、殺処分と収納を終えて戻るのに1分もかからない。
「改めて。おれは4年ほどまで在籍していた卒業生だ。当時の先生は……、もういないかもしれないが、ここの今の責任者は誰だ?」
おれが問うと、最前線で声を上げていた中年男性教師に視線が集まる。
「わ、私か?」
「今後どうするか、ここを避難所にしてたてこもるか、他に避難を求めて移動するか、よく相談して早めに決めたほうがいい。おれは行くところがあるから、すぐにここから離れる」
「あれ? 平坂先輩? ……で、合ってます?」
高学年の女子が、ひょこっと顔を出して声をかけてきた。
「えっ? ……誰?」
「あー、分かんないですよねー。お姉ちゃんが、姉が、要第一中学2年で、先輩のことはあたしが勝手に知ってました。平坂先輩は、困ったときに手を貸してくれる優しい先輩だって」
「………………」
「やっぱり、行っちゃいます、よね」
どうしたものかと返事できずにいると、暗い表情でうつむく女子。
どうしょうもないほど、不安だろう。
だが、おれにできることは特になにも……。
「武器、防具、弓矢とボウガンと銃、水と保存食、双眼鏡と暗視スコープ。教師、ボケっとしてんな。点呼指名して役割分担。物資持ってけ。バケモノ倒した奴は、E-フォンと念じろ。スマホとかが生き残るための手段に変わってるから。得た情報は共有しろ。ここにいるなら守りを固めて、防犯カメラなんかも利用しろ。……またあとで来るから、生き残れよ」
E-フォンを操作して、ショップからあれこれ買ってその場に置く。
「まずは行動しろ!」
パンパンと手を叩き、行動を促す。
今は、なによりもまず行動だ。
時間が惜しいとばかりに走り出せば、
「助けてくれて、ありがとうございます!」
さっきの女子を中心に、何人かの声が走り去る背中にかけられた。




