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第10話:9:00、市立要第一中学校奪還

 7月20日。夏休み前の終業式が行われている最中。

 一瞬視界が歪み、体育館の床が波打つような感覚。

 多くの生徒・教職員が平然としている中、立っていられないほどの歪みを感じて、床に座り込む。



・称号《適合者》獲得。

 ・適合者:世界改変の影響により変異した存在。

 お前は融合したこの世界に適合した。戦え。そして生き残れ。

 :全能力+10、ポイント10000獲得。



 頭に、中性的な声が響く。

 式の最中の壇上には、来賓の高齢男性。

 長々と語っていたその人が、急に倒れた。

 ざわつく中、高齢の教職員も倒れ、しばらくの後、突然周囲の人に襲いかかり、噛みつき、食い破って、血と死を撒き散らし始めた。


 悲鳴が上がり、体育館は一瞬でパニックの渦。

 誰も彼もが押し合いへし合い、入り口に殺到した。

 それと同じ頃、校門から堂々と二足歩行の武装した豚が侵入。

 何事かと止めに行った警備員と用務員を殺害、昇降口から校内に侵入し始めた。


 その、オークの集団と、体育館から逃げ出した生徒の集団がはち合わせして、殺戮が始まった。


 私は、先頭集団の悲鳴に反応して、火災用の非常ベルと防火シャッターのスイッチを押し込む。

 非常ベルの音に戸惑っているオークの隙を突いて、声を張り上げ階段で上へ上へと逃げる。

 最上階の4階に逃げてからは、何箇所かの壁にある防火扉も閉めて、逃げ延びた何十人かで協力して、教室から机と椅子を生徒会室の前に乱雑に積んでバリケードの代わりにした。


 ……そこからは、何もやれることがなかった。


 点呼を取ろうにも、教師は全滅、男子は……自分からオークの集団に突撃した者もいた。生存は絶望だろう。


 オークが防火シャッターを破壊して最上階まで到達するのに、どれくらいかかるだろうか。


 ……二人の姉を、思う。


 天才肌で、わずかな努力であらゆることを修める長女、一華(いちか)姉さん。


 存在自体にカリスマ性があり、自身の才能を引き出す努力を欠かさず、ストイックでありながら自身の魅力を引き出すのも上手い次女、双葉(ふたば)姉さん。


 努力の方向性も、自身の才能も分かっていない、何をしても中途半端な三女の私。


 私に力があれば、判断力があれば、勇気があれば、何か変わっただろうか。


 …………答えは、否。


 御剣家三姉妹の、出()らし。

 それが私の立ち位置。

 なにかしらの努力をしているポーズだけを姉たちに見せれば、褒められ、可愛がられる楽な役回り。


 憧れが目の前にあって、けれど、どれほど手を伸ばしても決して届くことはない。

 年齢差とかじゃない。二人の姉がこれまでに何をしてきたか、それを超えることができたか、という話。


 (未来)後ろ(過去)も、不出来な自分に絶望するしかなかった。


 二人の姉なら、この状況であっても、なにかを成し遂げることができたと思う。


 けれども、私は…………。




 生き残り、生徒会室に逃げ延びることができたのは、生徒会室メンバーを中心に、女子ばかりが40人ほど。


 今この状況を覆す手段は、ない。

 武器になりそうなものは、消火器と一緒にある災害救助用の斧が一本くらい。


 あの、オークどもが本格的に攻めてきたなら、防火シャッターだってどれだけ保つか。


 今はただ、息を潜めて、終わりを待つだけの身。

 すすり泣く声を、止めることもできずに、視界が歪む。




 …………誰か、助けてよ…………。




 膝を抱えて心の中で助けを求めても、応えるものはなにもなく。


 気絶するように眠りに落ち、悪夢を見たのか、誰かの悲鳴で見を覚まし、すすり泣きながら互いを慰めるという最悪な目覚め。


 彼女たちのように、泣ければよかったのかもしれないけれども。

 期待し、すがるような視線を無視して、目を伏せる。



 絶望の夜が終わり、絶望の朝が、始まったばかり。


 9:00


 要市立第一中学校。

 ほんの数ヶ月前まで通っていた母校だ。

 地獄のような一日を過ごした後輩たちの生き残りが、泣きながら誰かの助けを待っている。


 そう、思ってみても。

 心は冷えきり、()いだまま。

 ただ、燃え盛るような殺意があるだけ。


 感情が昂りすぎて限界突破し、逆に平坦になったのか。

 あるいは、人としての心とか、既に欠落したからなのか。


 実際のところは定かではないけれど。


 …………目の前の惨劇を見て、どうでも、よくなった。


「……クソが」


 要市立第一中学校に到着する。

 校門から見えたのは、校庭にいる大量の教職員らしき男性屍鬼と、男子生徒の屍鬼。

 それらを、そういうゲームでもあるかのように、無造作に殺すオークども。

 屍鬼たちも抵抗を試みるも、素手の屍鬼に対して、武器防具を装備しているオークどもでは、まるで勝負になっていない。


「もういい。もう抗わなくていい。《死霊操術》」


 校庭にいるすべての屍鬼を対象にして、死霊操術を実行。

 契約したすべての屍鬼をアイテムボックスに収納する。


「あとはおれが、おれたちが殺る」


 こちらに気がついたオークどもが、一華さんと双葉さんを見てか、鼻息荒く迫ってくる。


「バケモノどもは鏖殺(ミナゴロシ)だ」


 待機していた眷属たちを召喚し、100はいる武装オークどもの群れに吶喊(とっかん)する。

 日付が変わるとともに変化した鉈と斧は、オークが装備する金属製の盾や鎧ごと肥満体を難なく斬り裂き、兜ごと縦に両断する。


 騒ぎを聞きつけてか、体育館の方から紋章付きに加えて縁取りされた鎧姿のオークどもが姿を現す。



・オークナイト レベル22 タイプ:亜人・悪魔・戦士

 :二足歩行の豚のような容姿、肉の詰まった膨れた腹、太い手足は怪力を生み出し武器を扱い防具を身に纏う。

 悪食にして残虐。女性を攫い苗床にして増える習性を持つ。

 幾多の戦闘を勝ち抜き騎士の称号を獲得した上位種。

 戦闘系スキルを保持する強力な存在。

 ドロップ:騎士豚鬼の鼻、上質な豚肉ランダム部位10kg×5、所持武器防具、オーク印の精力剤(強)、オークチョッパー、騎士の証



・オークメイジ レベル18 タイプ:亜人・悪魔・術師

 :二足歩行の豚のような容姿、肉の詰まった膨れた腹、太い手足は怪力を生み出し武器を扱い防具を身に纏う。

 悪食にして残虐。女性を攫い苗床にして増える習性を持つ。

 魔法の才を持つ危険な上位種。

 ドロップ:豚鬼の鼻、上質な豚肉ランダム部位10kg×5、所持武器防具、オーク印の精力剤、宝珠の杖



・オークアーチャー レベル16 タイプ:亜人・悪魔・戦士

 :二足歩行の豚のような容姿、肉の詰まった膨れた腹、太い手足は怪力を生み出し武器を扱い防具を身に纏う。

 悪食にして残虐。女性を攫い苗床にして増える習性を持つ。

 弓の才を持つ上位種。

 戦闘系スキルを保持する強力な存在。

 ドロップ:豚鬼の鼻、豚肉ランダム部位10kg×5、所持武器防具、オーク印の精力剤



・オークガーダー レベル19 タイプ:亜人・悪魔・戦士

 :二足歩行の豚のような容姿、肉の詰まった膨れた腹、太い手足は怪力を生み出し武器を扱い防具を身に纏う。

 悪食にして残虐。女性を攫い苗床にして増える習性を持つ。

 盾の才を持ち守りに優れる上位種。

 戦闘系スキルを保持する強力な存在。

 ドロップ:豚鬼の鼻、上質な豚肉ランダム部位10kg×5、所持武器防具、オーク印の精力剤、オークシールド



・オークランサー レベル19 タイプ:亜人・悪魔・戦士

 :二足歩行の豚のような容姿、肉の詰まった膨れた腹、太い手足は怪力を生み出し武器を扱い防具を身に纏う。

 悪食にして残虐。女性を攫い苗床にして増える習性を持つ。

 槍の才を持ち攻めに優れる上位種。

 戦闘系スキルを保持する強力な存在。

 ドロップ:豚鬼の鼻、上質な豚肉ランダム部位10kg×5、所持武器防具、オーク印の精力剤(強)、オークランサー



 ナイト、ランサー、ガーダーが前衛、アーチャーとメイジが後衛という布陣で、4チーム20体。

 レベルも高く、バランスの良い配置。

 強敵だ、と思ってはみても、


 流鏑馬(やぶさめ)婦警の放つ矢はガーダーの盾を貫通しそのまま仕留める。

 ガンマン眷属のライフルはランサーの鎧を貫き一撃必殺。

 誰もおれの速度についてこれず、一振りごとに、ナイト、アーチャー、メイジを斬り捨て、4チームの後衛を根こそぎ仕込めてから、ようやくナイトの一体が後ろを取られたことに気づいたくらい。

 強化された眷属たちも奮戦し、全滅にかかった時間はほんの数分という結果だった。


 そのまま体育館に進軍し、あまりにもあんまりな光景を目の当たりにする。


 3匹のオークによる、死してなお、終わらない陵辱。

 命尽きた女生徒や女性教師たちは、死んでも終わりを迎えることがない地獄に突き落とされていた。


「………………《死霊操術》」


 南無三、と手を合わせる。

 それに合わせて、眷属となった女子生徒や女性教師たちをアイテムボックスに収納する。


 お楽しみ中だったオークどもは、おもちゃを奪われた子どものように激昂し、武器を持って雄叫びを上げた。



・オークキング レベル35 タイプ:亜人・悪魔・王

 :二足歩行の豚のような容姿、肉の詰まった膨れた腹、太い手足は怪力を生み出し武器を扱い防具を身に纏う。

 悪食にして残虐。女性を攫い苗床にして増える習性を持つ。

 幾多の戦闘を勝ち抜き王の地位を獲得した危険な上位種。

 戦闘系スキルを保持する非常に強力な存在。

 ドロップ:王豚鬼の鼻、極上の豚肉ランダム部位10kg×5、所持武器防具、オーク印の精力剤(極)、オークチョッパー、オークランサー、キングの王冠、キングの王笏、キングのマント



・オークジェネラル レベル27 タイプ:亜人・悪魔・戦士

 :二足歩行の豚のような容姿、肉の詰まった膨れた腹、太い手足は怪力を生み出し武器を扱い防具を身に纏う。

 悪食にして残虐。女性を攫い苗床にして増える習性を持つ。

 幾多の戦闘を勝ち抜き将にまで登りつめた優秀な上位個体。

 戦闘系スキルを保持する非常に強力な存在。

 ドロップ:将豚鬼の鼻、特上の豚肉ランダム部位10kg×5、所持武器防具、オーク印の精力剤(超)、オークチョッパー、オークランサー、将の証



「うるせえよクソブタが」


 王の名を持つオークも、おれの速度に対応できず一撃で首をはねられた。

 2体のジェネラルも、一華さんの槍で滅多刺しにされ、双葉さんの刀でバラバラにされていた。


 恨みは晴れても、心は晴れず。


 後輩たちの仇を討ったというのに、達成感もない。


 ただ、ただ、心が凪いでいた。


 風のない薄曇りの日の、わずかに見える太陽の光に体を炙られるような、逃げ場のない痛みに(さいな)まれている。


 だというのに、心は、凪いでいた。


 あまりにもあんまりな光景を見ても、ブタどもを鏖殺(ミナゴロシ)にしても、何も感じない。


 ただ、ただ、心が凪いでいた。




 ドロップアイテムを収納し、校内へと侵入する。


 そこら中に、戦闘痕……おそらくは、一方的な……が残されており、時折姿を見せる屍鬼たちは《死霊操術》で眷属にして収納する。

 各所で降りている防火シャッターをスキル《解錠》で開け、閉じられている防火扉は念のためそのままにして小さい非常扉をくぐる。

 生存者を探して最上階まで来る。

 各教室を一つ一つ確かめ、机やイスでバリケードを構築している場所に到着。

 記憶が確かなら、その先は生徒会室だったはず。


「誰かいるか? 救助に来た」


 バリケードの向こうで、ざわめきだした。


『……す、すみません。机やイスが……』


「問題ない」


 ドアを開けて出てこようとした生徒が、自分たちで構築したであろう目の前のバリケードを見て、焦った様子で声を上げていたが、おれにとってはまったく問題がない。

 全部アイテムボックスに入れてしまえばいいからだ。


「……あ、ありがとうございます。……その、平坂、先輩?」


「ああ。御剣(みつるぎ)三樹(みき)。……今度は、間に合った」



御剣(みつるぎ) 三樹(みき) レベル0 タイプ:人

 市立要第一中学校3年、現生徒会長。サイズはB。

 名家御剣家の三女。優秀な二人の姉と自分との差に絶望し、ひねくれてしまっている才女。

 努力しても姉には敵わないと嘆き、自信喪失してしまっているが、自分だけの才能があることに気づいていない。

 気がつけば、いつも助けてくれていた平坂(ひらさか)(たける)に好意以上の感情を抱いているが、当人同士は気づいていない。

 周りから見ると、バレバレ。

 好感度はA。(好き)

 素質:水・風・光・木

 適性:弓術士、狩人、スナイパー、侍



 もはや癖になりつつある《鑑定》スキルで、無事を確かめるつもりで見てみれば、ずいぶんおかしな内容になっていた。


 ……少なくとも、おれは三樹には嫌われているものだとばかり思っていたが。


「……間に、あった……?」


「……ああ。間に合わなかった人も、何人もいる。たくさん死んだ。本当に、たくさん」


 そう言って、壁際に寄る。


「あっ! …………えっ? …………あ、」


「間に合わなかった。二人は、強かったから、おれの眷属にして戦ってもらっている」


 末の妹に、死んだ二人の姉を見せるという異常事態にも関わらず、なにも、それこそ、何も感じない。


「それも、ふまえて、だ。生き残った後輩たちと、相談したい。いいだろうか」


 力なく、膝をつく三樹。

 慌てて駆け寄る、屍鬼となった二人の姉たち。


「よく、生きててくれた。…………ありがとう」


 ポニーテールに結った三樹の頭を、髪型を崩さないように気をつけて撫でる。

 そして、これだけは本心だと確信できる言葉が、ごく自然に口から出た。


 生徒会室に入り、ドアを閉める。


『…………わぁ、あっ、ああぁ、なん、なんで、姉さん、姉さん、あぁ、わあぁぁーーーっ!!』


 悲鳴のような泣き声が響くのを背に受け、胸を掻きむしりたい衝動に駆られる。


 それでも、心が凪いでいた。


 可愛い後輩が、泣いているというのに。



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