表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/13

第1話:1日目、10:00 世界改変

 人よ、我らが子らよ。

 我らは忘れ去られ、力を減らし、とうとう人の世を守ることができなくなってしまった。

 我らが愚弟は、確かに、彼の地に潜む、かの邪神を討伐した。

 しかし、遅かった。遅すぎた。

 我らが子らは、我らを忘れてしまった。

 我らが子らは、我らの声を聞けなくなってしまった。

 忘れ去られた(かなめ)は、時と共に風化し、その役を果たせなくなってしまった。

 守り継がれ残されたわずかな要だけでは、かの邪神の企みを阻止できない。


 ここに、かの異界は顕現し、融合す。


 この世界は地獄と化し、死者と化物が跋扈するであろう。


 しかし、人よ、我らが子らよ。

 絶望してはいけない。

 愛しきそなたらに、力を与える。

 人の枠を越え、この地獄と化した世界で生き抜く力を。


 生きて、勝って、進化せよ。


 我らが愛しき子らに、幸あれかし。


 9:50


 暑い夏の日。

 夜勤明けのだるい体を引きずるように歩く。


 今日は終業式。

 入学式の翌日に退学届を出したおれに、未だに連絡をよこしてくる担任の佐藤鈴先生に報いるために、バイト先から移動中。


 入学式当日に両親が事故死して、自暴自棄になりかけたおれの心を守ってくれた恩人の一人でもある。


『終業式の日だから、半日なの。式に間に合わなくてもいいから。遅くなってもいいから、顔を見せに来てちょうだい。私は待っているから』


 バイトで夜勤をする都合上、生活時間はろくに合わないのに、毎日電話やメールをくれる佐藤先生。


 どれほど救われたか。

 どれほど救われてきたか。


 でも、これ以上、佐藤先生の時間をおれのために使わせるのは忍びなくて。


 今のおれに関わると、大変なことになるかもしれないから。だから。






 夏の容赦ない熱気に体を焼かれながら、鬱々とした気持ちで歩を進める。


 バスでも使えば快適に移動できるのに、わずかな料金すら惜しんで、歩く。


 事故死した両親の保険と、事故を起こした相手の代理人が持参した示談金。それには手を付けず、コンビニバイトの深夜勤で食いつなぐ生活を続けてもうじき3ヶ月。


 両親の命の価値は、帯付きの紙切れ二束。


 愕然とした。

 だが、受け取らねば、おれ以外にも影響が及ぶことを示唆する地元密着型クソヤクザのドラ息子。

 一時激情に駆られ自暴自棄になりそうになったが、何人かの人たちに心を救われた。

 無念も怒りも理不尽も、あらゆるものを飲み込んで、コンビニバイトという社会の歯車の一つになって生きるのも、悪くはなかった。

 なにかをしていると、余計なことは考えなくて済むから。


 …………そのコンビニ店長、勝手におれの年齢を偽って夜勤させるのは、どう考えても違法だと思うんだが。


 ふと、顔を上げる。

 視界が揺らめきそうなほどの暑さに、違和感を覚える。




 10:00




 世界が、歪む。




 空が、渦を巻く。




 地面が波打ち、しかし一瞬で何事もなかったかのように元通り。




 目の前には、緑色の肌で頭に角が生えた小鬼。




・称号《適合者》獲得。

 ・適合者:世界改変の影響により変異した存在。

 お前は融合したこの世界に適合した。戦え。そして生き残れ。

 :全能力+10、ポイント10000獲得。




 なぜ、を問う前に、身の内から湧き出る衝動のまま駆け出し、




 殴り付け、蹴り飛ばし、首を踏み抜いた。 












・ゴブリンを倒した。

・経験値10、ポイント10入手。

・レベルアップ!

・シークレットクエスト達成。

・称号《最初の魔物殺し(ファーストキル)》獲得。

 ・《最初の魔物殺し(ファーストキル)》:お前は新たな世界の(ことわり)に準じ、真っ先に行動した。誰よりも速く、その意思を示した。

 :レベル+10、ポイント1億、全能力+30、スキル《アイテムボックス・無限》、スキル《成長補正・極》入手。

 ・・条件:世界改変後1分以内に魔物を1体以上撃破。










 暑い夏の日だというのに、心は冷えていく。


 生物の命を奪ったというのに、なにも感じない。


 ふと、踏みつけた小鬼を見る。

 そこには醜い小鬼の(むくろ)はなく、米1kgと書かれた袋と、小鬼の頭についていた短い角が転がっている。


「……《アイテムボックス》」


 口に出して念じてみれば、米の袋と角は消え失せる。


 称号《適合者》の影響か、何がどうなったのか本能的に理解できた。


 胸ポケットからスマホを取り出す。

 保護ケース付きの、何の変哲もないスマホ。


 ……ただしそれは、すでに変異していた。


 スワイプしてロックを解除すると、スマホの画面には


《E-フォン》


 の文字が。


 Evolution。つまり、この身が進化した証だと、このスマホが告げていた。



 レベルアップと入手した称号により、身体能力は飛躍的に上昇している。


 強化された聴覚が、捉えた。


 誰かの、悲鳴を。


 E-フォンを操作して詳細を調べたい欲求を抑え込み、走り出す。




 11:00


 ゲームやマンガの世界に敵として登場するバケモノどもと戦い、倒しながら移動して、一息つく。


 やってみて感じるのは、素手での戦いづらさ。

 ステータス上は大きな差があるために、バケモノ1体に苦戦などしない。

 しかし、攻撃のたびに、防御や回避のたびに、手足が、体が痛む。

 格闘技の経験があれば、なにか違ったかもしれないが……。


「…………なにか、ないか?」


 周囲の安全を確認してから、E-フォンを取り出しなにかないか調べてみる。




※E-フォン:レベルアップし進化した証。

 所有しているスマートフォンなどが変異し、融合世界で生き抜くために必要な機能を備える。

 スマートフォン等通信機器を所有していない場合、当人にふさわしい物品がE-フォンとなる。

 破壊されない。

 所有者同士に言語の壁が存在しなくなる。

 ・通神:E-フォンに登録した相手と通話ができる。

  縁が結ばれれば、※と交信することも可能。

 ・メール:E-フォンに登録した相手とメールをやり取りできる。

 ・カメラ:写真や動画を撮ることができる。

 ・フォルダ:写真や動画などを保存しておく場所。

 ・E(エヴォリューション)N(・ネットワーク)S(・サービス):E-フォンを使用したネット掲示板を利用できる。

  掲示板はコメントを書き込んだり、利用者と個別のチャットをすることもできる。

  また、新たに掲示板を立ち上げることも可能。

 ・ステータス:ステータスを表示する。

 ・ポイント:所有しているポイントを表示する。

 ・ショップ:各ショップにアクセスできる。ショップでは、ポイントを消費して様々な買いモノができる。

  ・各ショップ

   :道具・薬品

   :武器

   :防具

   :銃火器・車両・燃料等

   :衣類・生活雑貨

   :スキル

   :特殊

   :※売却

 ・ストレージ:衣類や武器など自身が身に着けている所有物に限り、最大10kgまで物品を収納できる。

 落ちているものを拾ったなどの取得物等は収納できない。

 ・アイテムボックス:スキル《アイテムボックス》を獲得した場合、スキルレベルに応じた量を収納できるようになる。

 カメラで撮った対象を収納したり、魔物を倒した後に自動収納も可能。

 ・クラスチェンジ:一定以上レベルが上がると、クラスチェンジできるようになる。

 クラスチェンジ先は個人ごとに違い、これまで取った行動や得た能力、ステータスなど、様々な要因によって多様に変化する。





 ショップの項目から、武器にアクセスしてみる。



・鋼のナタ 50ポイント

 :攻撃力+12 


・鋼の手斧 50ポイント

 :攻撃力+15、命中率−5%



 オススメ! とピックアップされている(なた)と斧は、扱いやすく威力もあって頑丈で壊れにくい。そして安いなど、猛アピールしている。

 鉄の剣などは攻撃力が10しかないのに、100ポイント以上と割に合わない気もする。


・鉄のスコップ 10ポイント

 :攻撃力+5


石頭(せっとう)ハンマー 15ポイント

 :攻撃力+10、命中−15%、器用さ−5


・大バール 30ポイント

 :攻撃力+10、命中−5%


・大ハンマー 40ポイント

 :攻撃力+20、命中−20%、器用さ−5、スキル貫通1


 他も見ていくと、ホームセンターで売っているような工具や道具はそれなりに攻撃力があって安いが、命中が低い傾向にあるようだ。ものによっては耐久値が高いとアピールされているが、そういうのは大きなバールなど重くて頑丈なものが多い。

 対して、剣などの武器は高い。細身の剣レイピアなんかは、クリティカル率が上がるが耐久値がゴミだ。しかも、鞘や体に固定するベルトなんかは別売りという不親切仕様。


 ……ムスっとしながら、武器を選ぶ。


・鋼のナタ 50ポイント

 :攻撃力+12 


・鋼の手斧 50ポイント

 :攻撃力+15、命中率−5%


 鉈と斧はセットで買うと鉈の鞘を固定できるベルトが付属し、斧の柄を差して運べるリング状の固定器具も付いている。お得。


 右手に鉈、左手に斧を持って、振ってみる。


 レベルアップと称号の獲得で筋力が大幅に強化されたこともあり、重さは感じない。

 柄の部分も握りやすく、手になじむ。

 防具も、つま先と靴底に鉄板が入っている安全靴とベルトで留める鉄のすね当て、指を保護しつつも動きを妨げない強化繊維のグローブに多重装甲のガントレット、防刃ベストを装備してそれでよしとする。


 多少動いてみて問題ないことを確認して、薬品の項目を見てみる。

 疲れと眠気をどうにかできないかと探してみれば……。



・回復薬 10ポイント

・魔力薬 50ポイント

・体力薬 20ポイント

・疲労回復薬 20ポイント

・眠気覚まし 10ポイント

・睡眠代替薬 40ポイント



 眠気覚ましと睡眠代替薬はデメリットがあるな……。


 迷ったところで選択肢はなく時間の無駄なので、体力薬、疲労回復薬、睡眠代替薬を購入する。

 ドリンク剤のような小さな透明ビンにコルクで蓋がされた、ラベル付きの液薬。

 中身の薬液は、不安を誘う強烈な色合いで、ラベルにはそれぞれの薬品名が漢字で書かれているだけで、それ以外の情報がないのも若干不安だが……。


 キュポンとコルク栓を引っこ抜き、飲み干す。


 睡眠代替薬は、飲む際に念じた時間の分と同じ時間の睡眠に相当する体力・疲労・眠気覚ましの回復効果があるという。

 普段の睡眠時間の6時間と念じれば、疲労と眠気がなくなり、だるさが消え、体力が回復したのを実感できた。

 体が軽い。

 即効性の液薬3本は、夜勤明けの疲れた体に非常にありがたい抜群の効果だった。


「……よし」


 小さくうなずき、移動とバケモノの殲滅を再開した。




・《迅速な魔物殺し(クイックキル)》:レベル+5、ポイント200万、全能力+5、スキル《迅速》入手。

 ・・条件:世界改変後1時間以内に魔物を50体以上撃破。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
心が病んでいたが故に、適応が早かったというのは、皮肉ですね( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ