『対岸にて』
掲載日:2026/01/18
とりあえず読んでみてください。
Ⅰ
そのひとは
わたしの知らない季節──
たとえば
春の名残がまだ残る秋のような──
そのなかに ひとり立っていた
Ⅱ
風が吹くたび
そのひとの まわりの空気が
触れられない何かを孕んで
そっと揺れた
Ⅲ
わたしは ただ岸辺に立っていた
Ⅳ
向こう岸の灯が
ひとつ またひとつ
夜のなかに浮かび上がる
Ⅴ
それらは
わたしの言葉では
決して 名づけられないものだった
Ⅵ
わたしは ただ 耳を澄ませていた
そのひとの 眠りの気配が
波の音にまぎれて
かすかに届くような気がして
Ⅶ
誰かを 慕うということが もしも──
このように
遠くの灯を見つめることだとしたら
わたしは──
その灯のまわりに
ただ 漂っているだけなのかもしれない
読んでくださった方々、ありがとうございました。




