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「ようやっと落ち着いたな・・・」
また山に来た。
久しぶりの休日。
仕事も一通り片が付いたから、持ち帰りもない。
プライベートをかき乱してくるヤツもいない。
今日も誰もいない。
今、この世界には俺一人しかいない。
静寂っていうのはこういうことを言うんだ。
「よっ」
ぱちぱちと焚火が燃えている。
太目に割った薪を一本、火ばさみで焚火にくべる。
「焚火をいじるのも楽しいんだよなぁ」
夜風に当たりながらの焚火の温かさ・・・これが染みるんだよなぁ。
一生、この時間が続けばいいのに。
なんて思っていると、
「・・・誰だよ」
スマホが鳴った。
「・・・マジかよ」
画面にうちの課長の名前が表示されていた。
せっかくの一人時間が台無しだ。
とりあえず無視を決め込む。
着信が切れた。
諦めたかと思ったが、すぐに着信が。
こりゃあ、鬼電コースだな・・・
「・・・やれやれ」
これは出なきゃ、次の出社で仕返しがくるやつだな。
「もしもし」
『もしもしじゃねぇよ!!さっさと出ろ!!』
おや?スピーカーにしてたかな?
なんて思うくらい、凄まじい怒鳴り声だ。
まあ、いつものことだが・・・
「用件はなんですか」
『お前、この間の件、まだ決着がついてないだろ!!どうなってる!!」
この前の件・・・っていうと、決まったプランをひっくり返されたアレか。
結局、アレは向こうが勘違いしてるってことになるんだけどな。
契約書も交わしているし、お互い押印をしている。
その上でひっくり返してきているのは向こうなわけだし、
「あれはあれ以上にはならないですけど。決着というか、こちらの手落ちはないわけですし」
『うるさい!!お前に意見なんか求めてないんだよ!!』
「・・・はあ」
意見というか、きっちり状態を説明しただけなんだけども・・・
『とにかく、さっさと仕事を片付けろ!!』
「・・・俺の解釈違いかもしれませんから一応確認しますけど、今から仕事しろって言ってます?」
『当たり前だろ!!』
ほら、出た。
「こんなこと言うのもアレなんですけど、休みなんですけど、俺」
今日は会社休日・・・仕事をしなくてもいい日なわけだが、
『関係ないわ!!』
ですよねー。あんたはそういう人ですよねー。知ってる知ってる。
『お前みたいなヤツでも雇ってるんだ!!少しでも貢献してもらわんと困るんだ!!』
お前みたいなヤツ、か。
『お前みたいなヤツでも雇ってもらってるんだ!!会社のために休日返上で働け!!』
まあ、自分でもできる方じゃないとは思ってはいる。
お前みたいなヤツでも雇ってもらっている。その点に関しちゃ、百歩譲って受け入れてもいい。
『それができないなら辞めてしまえ!!お前の代わりなぞいくらでもいるんだからな!!』
あ、この感じ。たぶんアレだわ。
「あー、分かりました。じゃあ辞めますわ」
『ああ!?』
カチンと来るとか、プツンと切れるとか、なんとなくそういう感覚。
「じゃ、そういうことで」
『あ!?おま―――」
通話を切って、そのまま電源も切る。
そして、
「もうどうにでもなぁぁぁあれェェェェェェェェ!!!」
スマホを思い切り、テントに向かって投げつける。
これで自由だ。
無茶苦茶言う取引先も。
無能な上司も。
よく分からない女も。
全部切った。
これで自由になった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
空気がうまい。
自由の味だ。




