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「改めて自己紹介しておきましょう。わたくしはマチルダ・ハイデルベルク。魔族の長よ」
魔王の名前はさっき聞いたけど、魔族っていう種族は初めて聞いたな・・・
「小芝 彰吾です」
魔族がどういう存在なのかは分からない。
とりあえず、今はこの流れに乗っておくか。
「コシ、バ ショウ、ゴ?ショウゴが名前かしら?」
「よくお分かりで」
「なら、ショウゴと呼ぶわ。あなたもわたくしのことは名前で呼んでもらって結構よ」
「それは・・・畏れ多い」
見ず知らずの・・・っていうより、魔王相手に名前呼びは怖い。
御者台にいる執事に斬られるんじゃないか・・・?
一応、腰に剣を携えていたし、警戒しておくに越したことはないよなぁ・・・
「とりあえず、無事で良かったわ」
魔王は長い脚を組んで、大きく息を吐く。
「無事かどうかは怪しいですけども」
命はあるから無事と言えば無事なんだろうけど、ろくな飯も滞在環境もなく、寒さに耐える牢屋生活。無事なのかどうなのか考えたいところだ。
「五体満足でいるんだから、無事と見ていいでしょう」
「・・・まあ、そうですね」
そりゃまあ、そうだよなぁ。
謁見の間で吹っ飛ばされた兵士もそうだし、城の外で転がっていた連中もそうだけど、あそこまで痛めつけられたわけじゃない。
五体満足なら無事って話は妥当だろう。
個人的にはもう少しメンタルのほうも気に掛けてほしかったけど、それはもう贅沢か。
「ショウゴ。あなたが今置かれている状況は分かっているかしら?」
本当に名前呼びか。
ストロングメンタルなのか、それとも気遣い故か・・・たぶん、前者だろうけど。
「いや、特に。あそこが純粋種だか何だかの国で、勇者がどうこうって話があったくらいかな?」
基本的に牢屋から出ることがあまりなかったから、謁見の間でのやり取りと、ボブの話くらいでしか情報が得られなかった。
「ふうん・・・なるほど」
魔王はあご下に軽く手を当てて、
「なら、しっかりとこの世界のことを教える必要があるわね」
「そうしてもらえると助かりますけど」
「けど?」
魔王の鋭い眼光が俺を捉える。
「いや、助けてもらっておいて・・・いや、そもそも助けられる理由が分からない・・・いや、それは一旦置いておこう。助けてもらっておいてなんですけど、ここまでしてもらう理由がないので」
目の前にいるのは仮にも国王。
そんな立場の人間に出会ったこともないし、この地に所縁もない。
こっちに来てすぐに出会ったことは間違いないけど、それだけで国一つに仕掛けるのはリスクが大きすぎる。
何かしら理由がなければ、こうはならない。
「理由、ね・・・そうね」
魔王は少し間をおいて、
「単純な好奇心、かしら」
本当に単純な理由だった・・・
「いくつかある中で、一番強いのがそれよ。他にもあるけど」
「は、はあ」
好奇心は大切だよな。それは分かる。
他にもあるならそれはそれでいいんだけど、仮にそれだとしても、他国に攻撃を仕掛けてまで助ける理由にはならないように思える。
「言いたいことは分かるつもりよ。ただ、あなたのような人物はこの世界にとっては脅威になり得る」
「きょ、脅威、ですか」
脅威って、聞き間違えじゃなきゃ、恐れられるってほうでいいんだよなぁ・・・?
「あなたのような人物・・・異世界人は、わたくしたちにはない力を持っている可能性があるからね」




