15-3
「さあ、やりましょう」
あっという間に広間が氷で埋め尽くされた・・・
本物の城に行ったことがないから規模が分からないけど、学校の体育館一棟と同じくらいか、ちょっと狭いくらいのように見えるし、そこそこ広い場所であることは間違いない。
それがほんの数十秒で氷の世界に変わってしまった。
氷城の魔王とか言っていた気がするけど、これに関係があることは間違いなさそうだ。
そして、とんでもなく寒い。
氷ができるっていうことは、それだけ空気が冷えているってことだろう。
この空間が冷凍庫みたいになっているなら当たり前の話だ。
まあ、どういう原理でこの現象が成立しているのかが分からないから、何とも言えないところだけど、間違いなく言えることは寒いってことだ。
ダウンが欲しい。いや、贅沢は言わないから毛布が欲しい。それも贅沢か?
「もっとも、戦える人員がいればの話ですけど」
魔王は小さく笑いながら、
「ここに来るまでにいた兵士たちは倒しましたし、裏で控えている者たちもこちらには来られないでしょう」
こういうことのために、裏で兵士が待機するスペースもあるだろうし、人員も構えているはず。
だけど、分厚い氷が謁見の間を覆ってしまっているため、裏から飛び出して来られない。
ここには俺たちしかいない。
「戦うなら容赦しませんわよ?立てなくなるまで叩き潰して差し上げますわ」
まるで悪役のようなセリフだな・・・
「あなた・・・!」
「ぐっ、何たることだ・・・!!」
寒さに凍える国王とその妃・・・そして俺。マジで寒い。
武器も持っていないようだし、このビビり様からして自分自身は大した心得もないんだろう。
「何もしない・・・いえ、できないならそれで結構。わたくしは寛大故、見逃して差し上げますわ」
寛大だっていうなら、兵士たちを倒さなくても良かったのでは・・・?
いや、死んだと決まったわけじゃないけど。
少なくとも、ここに飛び込んできた兵士は瀕死のはず・・・あいつ、結局どうなった???
「さあ」
魔王が右手を振る。
すると、一瞬で氷の剣が生成された。
まるで、魔法使いが杖を召喚するみたいに、ほんの一瞬で。
それを手に取って、
「自由にして差し上げます」
俺を拘束していた手錠を、その氷の剣で斬った。
「つめたっっっ」
剣先が接近したから分かる。やっぱり、氷は見せかけじゃない。
「わたくしと行きますか?それともここに残りますか?」
突然の二択・・・
「どちらでもわたくしは構いませんわ。ここに残るのも良いでしょう。でも、残ればどういう目に遭うか、分かりますわよね?」
まあ、勇者がどうこうの話の先は分からないけど、牢屋暮らしが近いのは目に見えてる。
かびた固いパンも臭い水も要らないし、湿気の寒さで埋め尽くされた空間になんか帰りたくはない。
「ま・・・行きますか」
「賢明な判断ですわ」
魔王が差し出す手を取り、ゆっくり立ち上がる。
「わたくしはマチルダ。マチルダ・ハイデルベルクですわ」
「小芝 彰吾、です」
こうして、俺は魔王と深く関わっていくことになるわけだが、この先のことはまだ、誰も分からない。




