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なんだ?この状況・・・
焚火してコーヒー飲もうとしたら、なんか魔王がやってきた。
兵士たちを追っ払ったら、湯沸かしに興味を抱いている。
いや、正確に言うと、俺がしていることに興味があるってのが正しそうだ。
どっちにしても、まともな状況じゃない。
「とりあえず・・・」
ケトルから湯気が出ている。
「湯が沸いたので」
「ふむふむ」
「コーヒーを淹れます」
この美女・・・いや、魔王。
とんでもなく強いって話らしい。
機嫌を損ねないようにしないと、俺も危ないかもしれない・・・
人生で初めてだよ。こんな緊張感のある目覚めの一時間はよ・・・
「コーヒーって何かしら?」
「・・・知らない・・・っすか?」
「ええ」
コーヒーがないのか・・・
まあ、ここは異世界って話だし、無い可能性はあるか。
似た物はあるかもしれないけど、今はそんなことはどうでもいい。
魔王の機嫌を損ねないようにしないと。
「カップに粉を入れまして」
表に出したままにしていたコーヒー粉末の封を切って、カップに入れる。
本気のコーヒー好きなら自分で豆を準備して、焙煎して、その場で挽くんだろうけど、俺はその領域に達してない。
興味はあったし、何なら手挽ミルも買ってはいるものの、気持ちがそこに追いついてないっていう感じ。
つまりは宝の持ち腐れというやつである。
「ここに湯を入れてかき混ぜる」
カップに湯を入れてスプーンで混ぜる。
そしてそれを、
「どうぞ」
魔王に差し出す。
「いただいていいのかしら?」
「どうぞ」
でないとどうなるか分からん・・・
「では、いただきますわ」
カップを取る手・・・指が長い。
「・・・ふむ」
一口飲んで、
「なかなかおいしいですわね」
「ほお」
「初めての味わいですわ」
やっぱりコーヒーって物自体がないのか。
名前を聞いて分からないってレベルだし、その辺りは分からないでもない。
名前違いで物自体はあるってケースがあると思ったけど、そういうわけでもないらしい。
「少し苦いですけど、甘味がある分飲みやすいですわね。何かで甘みを足しているのかしら?」
「そりゃあ砂糖だ。シュガー」
「ふむ・・・」
もう一口飲んで、
「口当たりも柔らかい」
「それは・・・乳成分かな?よく分からん」
「ふぅん」
どういうリアクションなのか分からんなぁ。
「気に入りましたわ」
魔王の表情が明るい。
おいしい物を食べて喜ぶ子供みたい・・・とか言うと消し飛ばされるんだろうか?
「・・・む」
突然、魔王の右肩に生物が現れた。
「なんだ、それ・・・?」
パッと見は何かの獣・・・っぽい。ただ、それが何かってのは分からない。ヒツジっぽいように見えるけど、他にも混ざってるような・・・
「この子はわたくしの使い魔ですわ」
一種のゆるキャラみたいに見えるそいつは、どうやらそういう存在らしい。
いよいよファンタジーだな・・・今更ですけど。
「一度戻りますわ」
魔王は立ち上がって、
「あなた」
俺を見下ろす。
「あ、はい」
「ここから早く離れたほうがいいですわよ。純粋種がやってきますわ」
「・・・ほお」
純粋種とは?
そういえば、逃げていった兵士連中もそういうことを言ってたような・・・
「ご馳走様」
「あ、どうも」
空のカップを受け取った。
いつの間にか全部飲んでた・・・俺が使い魔に気を取られてるうちに?
「また会いましょう」
魔王が森へ去っていった。
「・・・どっと疲れたな・・・」
とりあえず生き残った・・・




