5
急に涼しくなった・・・?
朝一だから?
そりゃそうだけど、陽は昇ってるし、天気も悪くない。
風が吹いてる?
そこまで強く吹いちゃいない。風で体が冷えることはなさそう。
薄着だからか?
秋冬の装備だし、そこそこ厚着してるほうだ。
それでも冷える何か・・・?
「ま、まずい」
「お、おい!火を消せ!」
「は?」
三人の様子がおかしい。
「荷物も片付けろ!急げ!」
明らかに焦ってるな・・・
「急に何もかも片付くわけないでしょうよ。どうした、急に」
「魔王だ・・・魔王が来る!!」
えっ・・・来るの?魔王さんが?
「またまた、そんな急に来るもんじゃないでしょうよ」
いくらフラグ立てたとは言っても、そんなすぐに来るもんじゃないですよ、普通は。
「辺りが急に冷えるってことがその証拠なんだよ!」
「・・・ほお」
この冷え込みは魔王起因なのか・・・?
それはどういう風になってるのか気になるところだけど。
「ほら、急げ!!」
「まだ死にたくないんだよ!」
「そりゃ俺だって死にたくたいけど!?」
―――騒がしいと思えば
「!!」
どこからか声が聞こえる・・・
女の声・・・!
―――そこにいたのね
振り向くと、
「ふぅん、あなたがそうなのね」
とんでもない美人がそこにいた。
色白で、ブロンドのロングヘア―。
青空みたいなスカイブルーの瞳と長いまつげ。
すらっとしたスタイルで、まるで舞踏会にでも行くのかってくらい綺麗なドレス。
まるで欧米のモデルみたいだ。
ひと際目立つのは頭に生えた大きい角だろう。
根元が紫で、先端に向かって青くなっていく美しいグラデーション。
自分の力を誇示するみたいに、彼女の頭から生えている。
こいつはすげぇ・・・
これが魔王か・・・
「面白いことをしてるわね」
まるで街角で友達と出会ったような足取りで、こっちに歩いてくる。
「何をしているのかしら?」
明らかに俺をターゲットにしてる。それだけは分かる。
「火を起こして、何をするのかと尋ねているんだけど?」
いつの間にかすぐそばにいた。
俺の左横でしゃがんで、焚火を見ている。
「そっ、そっすねぇ・・・」
緊張・・・いや、動けないのか、俺?
動けないだけじゃない。言葉も満足に出てこない。
これはアレだ。ビビってるんだ、たぶん・・・
「ま、魔王よ!!」
兵士三人が槍を構え、その切っ先を魔王に向けた・・・!
「ここは純粋種の領域だ!!即刻立ち去れ!!」
「応じない場合、身の安全は保障しかねない!!」
おお、一生懸命牽制してる・・・
あんたらも相当ビビってるんじゃないの?
「・・・ふっ、ふふっ」
魔王はゆっくりと立ち上がり、
「はっはっは!」
高らかに笑った。
「何を言うかと思えば」
ゾッッッ!!!
背筋が凍るとか、稲妻が走るとか、雷が落ちるとか。
こういう時、そういう表現をすることがある。
今まさにそれを実感してる。
「わたくしを前に逃げず、武器を構える。褒めて差し上げますわ」
でも、と魔王は右手人差し指で兵士たちを指し、
「武器を持つ手も、膝も笑っている」
あ、それは俺も気になってた。
俺も大概だけど、あいつらも結構ビビってるんだよなぁ。
槍の切っ先もブレブレだし、まるで生まれたてのヤギの子供かってくらい足が震えている。
こりゃあ、明らかにビビってるのが素人でも分かる。
「その程度でわたくしを追い返そうだなんて、笑わせてくれますわね」
あの、申し訳ないんですが、俺は笑えないです。
それよりも早く立ち去りたいんですが。
「選ばせて差し上げますわ」
右手で前髪を軽くかき上げて、
「ここでわたくしと刃を交えて死ぬか、逃げて生き延びるか。二つに一つですわ」
また急に冷えてきた・・・?
どういう現象だ、これ?
「た、隊長・・・!」
「て、撤退するぞ!」
逃げるらしい。
「し、しかし勇者はどうするんです!?」
勇者・・・?
何のこっちゃ?
「今は退くしかなかろう!!」
兵士三人組は走り去っていった・・・
「まあ、随分と情けない兵士だこと。でも、賢明な判断ですわ」
そう、賢明だ。
あいつらが言った内容がその通りだったら、俺の隣にいる美人は相当強いことになる。それこそ、その辺をメチャクチャにすることも造作もないくらい。
こんなところで命を捨てる必要なんかない。
ただの仕事で、しょうもない。
「さて」
魔王はまたしゃがみ、
「これから何をするのかしら?」
ワクワクした瞳で、俺を見てくる。
俺はここで死ぬ、かも・・・?




