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ライの時間は少しずつ進んでいった。
日々大森林の最外縁部で素材を集め、日銭を得る。
それだけのことでも変化はあった。
例えば最初に教えてもらった以外の素材だ。
ごく稀に見つけられる有用な花や実、そうしたものを覚え、時折見つけては報酬の足しにした。
また最初に学んだ猩々苔・リミナ草・夜見茸の三種は、それなりの範囲を探さないとまともな収入にはなりづらい。けれど今日採取を行ったエリアで明日同じ量が採取できるかというと、当然そんなことは無い。
畢竟、ライはどんどんとエリアを移して採取をすることになった。毎日それらを採取するために、最外縁部とはいえ相当な範囲を探すことがライには求められた。
彼は走った。
とにかく広い範囲を探すために、たまにホーンヘアなどのモンスターを見かけても無視し、走りに走って日々の銭を稼いだ。
彼にとって、借金を返す指標となるモンスター狩りよりも、日々食事をして宿に泊まる方が一大事だったのだ。
『あなた、まずたくさん食べて体を大きくした方が良いんじゃない?』
ディアナにそんな指摘を受けたのも、彼がそうしている理由の一つでもある。
ドブ浚いの貧栄養下で過ごしてきたライは、同年代と比べても体が小さく体力も無い。
食べることが現状を改善する一手である、というのはライにとって目から鱗な話ではあった。しかし、腹一杯食べられる幸せが明日につながると言われて、そうしない理由はライには無かった。
まあとはいえ逐一食事を買っていては成長途上のライの腹を賄いきれはしない。
その一助となる話もまた、ディアナとの会話の中からもたらされた。
『あなたが今探索してるのは豊かな大森林でしょ? 買取に回せなくても食べられるものは一杯あるはずよ』
そのディアナの言葉に、ライは確かにそうだと納得しきりだった。
ライもドブ浚いをしていた頃、何も日銭だけで腹を満たしていたわけではない。
ドブネズミや虫を捕まえては、何かの作業で使った焚火の残り火を使わせてもらって、糊口を凌いだことは一度や二度じゃない。
焚火は毎日使える訳ではないし、後片付けを引き受ける代償として使わせてもらっているため労力が全く必要ないわけではない。ただそれでも普段より多くの食い物にありつけるのだから、同類のドブ浚いも含め、その日はちょっとしたお祭りになるくらいだった。
そんな風に、食べるためだけに採って食べればいいと。
ディアナはそう言っているのである。
その日以降、ライは火打石と自身の食糧用の革袋を購入して大森林に臨んだ。
木の幹のたもとに這う小さな蛇はよく見かける。
大岩の下の地面が湿っていればモリガニがいるかもしれない。
イボガエルも地面が湿っているエリアならちょくちょく見かける。
樹液に集う虫もいるし、ちょろちょろと動くトカゲを見ることも稀じゃない。
植物類は意外にも何かにつけ買取額が付くため対象外だったが、そうした小動物を見つけては採取して、ライは腹を満たすことを覚えた。
本当に、少しずつ。ライは前に進んでいっていた。
水筒や、苔を岩からこそげるための木べらを買った。
ヘビを捌く手際も良くなったし、どうしても疲れていたらその血と心臓を摂取することも覚えた。
大森林の悪路を走ることもだんだんと苦しくなくなっていった。
ただ、それらのことが大きな障害も失敗もなく進んでいっていたからだろう。
彼は一つ、大きなミスを犯すことになった。
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