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綜錬の剣 ―ドブ浚いの少年が世界樹に至るまで―  作者: とんび
第1章

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 牙に突き刺さった探索者が煩わしいのだろうか。

 一度大きく首を振って、大蛇は探索者を吐き出した。


「し、シルバーサーペント!?」


 吐き出された探索者はぴくりとも動かない。

 胴に空いた穴からとめどなく血が流れ出し、首もおかしな方向に折れており、恐らくもう絶命しているのだろう。


 シルバーサーペント。

 それは隣接領域に出現するというモンスターの一種である。

 頭部直下に体幅が広い――フードと呼ばれる部分があるコブラ型のモンスターだが、そのフードに紋様がある場合、亜種として脅威度が高く設定される。


 外縁部の脅威度『高』と、隣接領域の脅威度『低』には、実はかなりの開きがあると言われている。

 すなわちライたちの目の前に居るこの大蛇は、間違いなく格上のモンスターであるということだ。


「て、撤退を……」


 そう探索者の一人が呟いたのは、仕方のない思考だと言えるだろう。

 しかしそれは、撤退時の背後からの攻撃を、想定していない考えでもある。


「陣形ッ!」


 その弱気を挫くようにランベルトが大声で号令を飛ばす。

 探索者たちは切り替えてセリア他、治癒術師を防御するように布陣した。


「ぜああああぁぁぁぁああ!」


 それを横目に、ランベルトが突撃する。

 目標は目の前に居るシルバーサーペントを無視してレッドエイプだった。


 もしかすると、自身の部隊を壊滅させられた恨みもあるのだろうか。

 ライはその背中に漲る気の大きさが、今まで見たことが無いほどであることに気が付いた。


 ランベルトの大剣が、大上段から大きく振るわれる。

 空振り。直後に横に払う。

 その剣先がいくつかのレッドエイプをとらえ、刎ねられた首と腕、そして鮮血が舞った。


「これで五分だ! 簡単にはやらせねぇぞ!」


 ランベルトの怒号は、探索者に勇気を伝播させる。

 ライもまたそれに後押しされて、ランベルトを追いかけるようにしてシルバーサーペントの前に飛び出した。

 いつも通りの戦術。つまり防御的なライの時間稼ぎと攻撃力の高いランベルトによる削りという戦い方だ。


「……え?」


 しかし前に出たライは、レッドエイプの背後にある大岩の後ろから、別の大きな影がぞろりと現れるのを目撃した。


魔眼持ち(ゲイズフード)……」


 頭部直下の体幅の広い部分。フードと呼ばれるそこに、大きな目玉の模様がある。

 その特異個体は、隣接領域の脅威度『中』に分類されるモンスターだった。


 カラカラと音が聞こえる。

 ゲイズフードの尻尾が高く持ち上げられ、膨らんだそこが木の皿をこすり合わせた時のような音を立てている。


「ま、まさか……」


 ライだけが、その音がなんなのか気づいた。

 それを周囲に伝えるよりも先に、遠くからブブブという振動音が聞こえてくる。


 視線の先。

 気のせいではなかったことに、ライの背筋から血の気が落ちる。

 

 現れたのはロードマンティス。そして多数のソルジャーマンティスであった。


 そこからの戦いは、苛烈と言うにふさわしいものだったと言えるだろう。


 決定打は無くとも目や口の中を狙いシルバーサーペントが自由に動けないように立ち回るライ。

 殺すのに時間がかかる相手を完全に無視して相手を削るランベルト。

 探索者たちは治癒術師のガードと、ロードマンティス、ソルジャーマンティスを相手取っている。


 そうした中で、最も消耗を強いられていたのはセリアだった。


「はあっ、はあっ」


 前衛と比べれば体を動かすことのない治癒術師でありながら、彼女の息が上がる。周囲の聖気功を使いつくし、精神力でかき集めて治癒術を使用する。その消耗によるものだ。


 怪我人は敵の強さ、そして減らさなければいけない数の多さによって、途切れることは無い。更にゲイズフードの眼球の紋様が幻惑を生むために、その治癒にも聖気功を割かれているのだ。

 ソルジャーマンティスも、レッドエイプも少しずつ数を減らしている中で、探索者に死亡者が出ていないのは彼女のおかげだった。


「……ちきしょう、俺が……」


 徐々に不利に傾いていく状況に、探索者の意思が折れていくのが分かる。

 ライ自身はシルバーサーペントを一人で抑えるという大仕事を担い、それを完全に遂行していたのだが、状況を変えられないことに歯噛みするばかりだった。


「でりゃぁあああああ!」


 と、そこでロードマンティスをランベルトが斬り殺した。

 ゲイズフードが前線に出てこないことが理由ではあるが、余裕が生まれ始めている。


 だが。


 カラカラ、カラカラと。

 ゲイズフードがその尻尾の先にある構造物を鳴らして、焦る様子も無くチロチロと舌を出す。


 まだ呼び出せるモンスターがいるのかと、探索者たちは祈る気持ちだった。

 しかしそれを裏切るようにやはり重い羽音が聞こえてくる。


 再びのロードマンティスは、ソルジャーこそ五体程度の小さな群れだったが、探索者たちを絶望させるに十分な戦力であることに違いは無かった。


遅くなりました。すべてはSFLが悪い。


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