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綜錬の剣 ―ドブ浚いの少年が世界樹に至るまで―  作者: とんび
第1章

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 遭遇は突然だった。


 主力部隊は消耗を避けるため、大森林入り口から一直線に外縁部奥に移動。その後隣接領域に近寄り過ぎない範囲で探索を開始した。

 いくつかのモンスターを討伐し、隆起部を越えて窪地の底に辿り着いた時に、木々の上からそれは現れた。


「ジジ……ッ! ジジジジ……ッ!」

「ぎゃあっ!」


 鳴き声とも違う、口吻部をこすり合わせるような不快な音を立てながら、巨大な鎌が振るわれる。肩口を切り裂かれた探索者が、鮮血をあげて倒れ込んだ。


「ロードマンティスだ!」


 カマキリに似た、昆虫型のモンスターである。

 外縁部での脅威度は単体なら中。ソルジャーマンティスと言うこれも単体なら脅威度『低』のモンスターを多数引き連れており、その数に応じて群れ自体の脅威度が前後する。


「ソルジャーが二十体以上いやがるぞ!」

「こいつ、リックをやりやがったヤツだ! ぶっ殺してやる!」


 幾人かの探索者がロードマンティスに切り込んでいく。

 ライはそちらは任せ、ソルジャーマンティスの討伐を優先することにした。


「ギチチチチッ」


 気の知覚はできている。体内に満ち、自身の動きを助けていることが分かる。

 だが、どれだけ剣を振るっても剣に気が乗らない。

 ソルジャー自体の脅威度は低い。だからこそライには丁寧に剣を振るう余裕があったが、やはり駄目だった。


「くそっ……」

「ライ、ロードの方に行け!」


 ソルジャーを斬り殺しながら思わず悪態をついたライに、ランベルトから指示が飛ぶ。

 防御的に立ち回れば、ライの実力はランベルトにも匹敵する。ライが時間を稼ぎ、ランベルトが敵戦力を削れるだけ削るという考えのようだった。


「せあっ!」


 ロードマンティスの腕部の大鎌に苦戦する探索者たちと入れ替わるように、ライが切り込む。

 外殻は堅く、薄い切り跡が残るのみ。関節部は狙えなくもなさそうだが、動きが素早く大鎌の攻撃範囲が広いため中々隙ができない。


「火炎魔法を準備する! 頼むぜ!」


 後ろからそんな声がかかった。

 唯一魔法が使える探索者の声である。

 火炎魔法なら十分な打撃になるだろうと、ライはより防御に意識を集中した。


 幾度かの交錯。

 互いに決め手を欠いたまま、一度間合いを取った。


「ちっ……」 


 大鎌に対しライは一度受け太刀をしてしまった。

 その失敗は、重い衝撃が伝わったことによる手の痺れへと帰結した。


――痺れが引くまで剣は振れないか。


 そう思った次の瞬間、背後から怒号が飛ぶ。


「魔法を使うぞ! 離れろ!」

「くらえっ! 火炎よ!爆ぜろ!」


 探索者の声に合わせて、火花が散る。

 伝播でんぱしていく魔力が、その過程にある空間の法則を歪め、予兆として表れているのだ。


 そして、ロードマンティスの足元から、ゴウと音を立てて火炎が立ち上った。


「ギチチチィ!」

「シャアァァァ!」


 いくつかのモンスターの断末魔の声が聞こえる。

 しかし光と熱が去った後に残ったのは、ソルジャーマンティスの焼け焦げた死体のみだった。


「に、逃げやがった……!?」


 頭上から聞こえる羽音の方に視線を向ければ、飛び立って去っていくロードの後ろ姿が見える。


 それを見送っているさなか、ふとライはかすかな音を耳にした。

 あまりにも遠くから聞こえるそれに彼が気づけたのは、偶然に過ぎないだろう。

 カラカラと鳴る、木の皿同士が重なった時のような、そんな軽い音だった。


「……なんだ……?」


 ロードの姿が見えなくなるより先に音は聞こえなくなった。


 ライは不可思議な音に首を傾げながらも、確認の術もないため、それ以上気にしないことにした。

 

 そしてほどなく戦闘は終了し、討伐結果の確認が始まる。

 討伐できたのはソルジャーマンティスが十体ほど。

 まだロードマンティスの兵隊は十体以上が残っている計算である。


 今回の戦闘が急な襲撃で始まったこともあり、今後も同様のことが起きる可能性は高い。それが探索者たちの統一見解だった。


 警戒と緊張が強いられることになる。

 そのことに暗澹(あんたん)たる気分になった探索者は一人や二人ではないだろう。


 しかしそれでも進まないわけにはいかない。

 討伐を進めなければ、事態の解決は見込めないのだ。




 そうして合同パーティは先へと進む。

 探索は日が中天を過ぎ、傾き始めたあたりで折り返して帰路に入る。


 その日二回目の異常個体群との遭遇は、その帰路に入って少しした辺りでのことだった。


 昼頃の休息と、帰路についたことによる気の緩みのせいだろうか。

 先陣を歩いていた探索者は、モンスター発見時の初動がわずかに遅れることとなった。


 それは奇襲ではなかった。

 けれど、鎌首をもたげた巨大な蛇型モンスターの俊敏な噛みつき攻撃が、先陣の探索者の胴を捉えてしまう。

 鎧の噛み砕かれる音と悲鳴。そして鮮血。

 その背後で、レッドエイプたちがキキキと嘲笑の笑みを浮かべていた。


 ライたち合同パーティは、脅威度『高』の魔物の混成異常個体群との戦闘に、一人欠けた状態で挑むこととなった。


よろしければ、ブクマ・評価をお願いいたします。


【連絡事項】年末年始、帰省のせいで執筆環境がイマイチになるので、現在のエピソードが終わったら一旦書き溜めのために一週間ぐらい休載します。

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