表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
綜錬の剣 ―ドブ浚いの少年が世界樹に至るまで―  作者: とんび
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/29

21


 三人での探索は、三日の慣熟訓練を行ったのちに開始された。

 ライとセリアは探索しながら慣らしをやればいいと提案したが、それはランベルトにより却下されている。


 戦闘に関しては無鉄砲な動きをするランベルトも、準備に関しては流石に騎士ということもあって対照的に慎重である。彼に言わせれば「自分は慎重じゃない」らしいので、正規の戦力ならではの文化ということなのだろう。


 ちなみに、ランベルトの戦い方は獣じみた吶喊(とっかん)と突撃が主である。

 彼によれば無鉄砲に見えるそうした戦法も考えあってのことらしいが、近接戦闘術を身に着けているライはまだしも、セリアは胡散臭そうな視線をランベルトに浴びせていた。


 彼らが探索領域として決めたのは、最外縁部と外縁部の境界域である。

 そこから外縁部に向けて少しずつ移動しながら、遭遇できればモンスターを、勝てそうな相手なら異常個体群も戦闘の対象に入れて探索していく。


「手慣れたもんだな、おい」

「まあ三年くらいやってきたからな」


 素材採取をちょこちょこと行うライに対し、ランベルトが声を掛けた。

 ランベルトは五十日ほど前にこの街に来たところで、セリアはその少し前とはいえ同時期であるらしい。


 二人はモンスターを狩ることができるパーティに最初から入っていたこともあり、ライと比較して素材の目利きや採集の腕は落ちるようだ。


「私も、少し勉強しようかしら」


 治癒術師は戦闘に参加することは少ない。文字通り生命線であるため、荷物も少なく、疲労を極力させない方針であることがほとんどだ。その上で、日銭を稼ぐために進行速度を落とさない範囲で手際良く採取を進めるライを見て、考えが変わったようだった。


「セリアは金に困ってるのか?」

「ええ、ありていに言えばそうね」


 ライの直截(ちょくさい)な質問に、セリアが苦笑して返す。

 ライとランベルトのパーティに参加した理由も、路銀が心もとなかったという一面もあったようだ。


「治癒術師なんて引く手数多だろうに、金が無えなんてことがあんのか」

「うるさいわね、色々あるのよ」


 そんな雑談をしながら、一行はじわじわと先に進んでいく。

 いくつか藪を越えると、少し開けたゴロタ石がいくつも転がる低地、その中心にぽつんと木が生えているところに出た。


「ありゃあトゥレントだな。しかも動くやつ」

「俺は初めて見た。強いのか?」

「まあ雑魚だな」

「なら折角だ、()()()()


 ライはランベルトとそんな会話を交わして、前に出る。


 ライが近寄ると一抱えほどの太さの幹をした木が、その根をわさわさと動かしながら移動を始める。

 擬態を見破られ、攻撃態勢に入ったようだ。


「六腕のビーストトゥレントか」

「ちょっと、大丈夫なの?」


 一人でモンスターに向かうライを見て、セリアが心配そうな声を上げた。


 ビーストトゥレントとは根を使って移動できるタイプのトゥレントのことである。またトゥレント種は攻撃に使える腕(枝)の数で脅威度が変わるのだが、平均が四本腕であるため、通常よりやや強い個体と言うことになる。

 セリアもこの辺りの知識を持っていたため、ライ一人で良いのかと思ったようだ。


「全然問題ないと思うぞ」

「それ、適当に言ってないわよね?」

「当たり前だろ、慣熟訓練じゃ大した戦闘は無かったが、最初の日にあいつとは手合わせしてんだ。ほら見てみろよ」


 視線を向けると、ちょうどライが一本目の腕を切り飛ばすところであった。

 直後に飛来する他の腕を器用に避け、あるいは打ち払い、一度間合いを外して体勢を立て直す。

 まったく危なげのない戦闘である。


「彼……天才ってやつなのかしら」

「あいつは天才なんかじゃねぇぞ?」


 セリアの呟きに、ランベルトはそう返した。

 そして「もう必要なさそうだな」と言いながら、念のためと言って抜いていた剣を地面に突き立てる。


「あれで天才じゃないって言うの?」

「ああ。もちろん天才ってのをどう定義するかにもよるが」


 ランベルトはその辺の石に腰を下ろす。

 セリアがそれを見て唖然としても、どこ吹く風でもはや観戦モードだ。


「天才は凡人が基礎って呼ぶもんは当然のように身についてて、その上でセンスで戦ってるようなヤツのことを言うと思うんだが……そういう点で、あいつに天才性は無いな。あいつにあるのは基礎だけだ」

「基礎、ねぇ……」

「その基礎の習得レベルがあの齢にしちゃ異常なんだよ。まるで熟練の戦士だ。よほど厳しい師匠に育てられたんだろうぜ」


 ランベルトの語りを聞いて、セリアは改めてライの戦闘に視線を移す。


 トゥレントの幹に斬りかかって剣が弾かれ、反動でたたらを踏むさまは、確かに凡庸な部分としてセリアの目に映る。

 しかしながら、ライを打ち据えようとがむしゃらに振られる腕が、その体に届くことは無い。鞭のようにしなるそれは、とても目で追えるような速度ではない。にもかかわらず、彼が一歩ないしは半歩動き、身を捌き、剣を振るだけで無効化される。


「凄い……」


 自分は金のため、ライは訓練のため、ランベルトは先遣隊の臨時パーティとして。

 人生掛けて探索するような者は誰も居ない、誰もが腰掛けのようなメンバーである。

 であるにもかかわらず、もしかしたら思ったより凄いパーティになるかもしれない。


 ライに完封され、枝と根を無残に切り刻まれて倒れ伏すトゥレントを見ながら、セリアはそんな予感を持つのであった。


よろしければ、ブクマ・評価をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ