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「それで、ディアナさんよ」
パーティ登録の用紙などを準備しているディアナに対し、おもむろにランベルトが言った。
「なんですか?」
「メンバーをもう一人か二人、紹介してくれねぇか? 地固めからやるつもりだし奥にいくつもりもねぇが、今の大森林に二人じゃ心もとねぇ」
「確かに、そうですね……」
少し考え込む。
その後ディアナは、決心するように一つ息を吐いた。
「……分かりました。一名候補がいらっしゃいますので、明日もう一度来てもらえますか?」
彼女の言葉に満足そうに頷いて、ランベルトはがっしりとライの肩に手を置いて掴む。
「承知した。じゃあライは俺と外、行こうぜ?」
「探索か?」
「んなわけあるかよ。お前の実力も知りたいし、手合わせしようぜ」
犬歯を見せる獰猛な笑顔。それを見て、ライも口角を吊り上げた。
大森林の探索を始めるのがお預けになりそうな流れだったため、体を動かす機会があることに喜んでいるのである。
しかもランベルトは騎士だ。相手にとって不足はない。
「探索に行く人の迷惑にならないように。あと怪我も」
勝手口に向かう二人に、ディアナはそんな言葉をかけて送り出した。
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翌朝。
ライがギルドに行くと、入り口前でランベルトが立っていた。
「何してるんだ?」
「てめぇを待ってたんだよ。俺だけ先にお仲間候補に会っちまったらおもしろくねぇだろ」
面白いかどうかを気にするランベルトをライは理解できなかったが、別に悪い行動というわけでもない。片眉を一瞬吊り上げて怪訝の意を示したのち、バンバンと背中を叩くランベルトに押されて、探索者ギルドへと入った。
ギルドの受付では、今日もディアナに迎えられた。
二人に気づいた彼女は受付台の上に「離席中」の札を置き、受付から外に出てくる。
「待ってたわよ、二人とも。待ってくれてるから、こっちに来てちょうだい」
言われ、ぞろぞろとギルドホールの隅にあるテーブルに案内される。
そこで待っていたのは、フード付きの白いローブに身を包んだ女性であった。
「彼女はセリアさん、最近チームから抜けてフリーになった治癒術師よ」
ディアナの紹介を受けて、セリアと呼ばれた女性が少し頭を下げる。
促され、ライとランベルトは四人掛けのテーブルの、セリアの対面の位置に腰を下ろした。
「ディアナは座らないのか?」
「あのねライ君、これもギルド職員のメンバー仲介業なの。仕事中なのよ、私」
そう言ってドヤ顔で人差し指を振る。
その振る舞いはあまり仕事中の人間には見えなかったが、ライは気にせずセリアに向き直った。
「俺はライと言います。パーティを組んでくれるんですか?」
「はい。これからどうするか悩んでいたんですが、ディアナさんの強い勧めもありましたので」
俯き加減で、ぼそぼそとそう口にする。
薄い金の長髪を高い位置で結い上げているが、少々結びにほつれが見える。目元にも隈があり、あまり体調が良さそうには見えなかった。
「ランベルトだ。フリーの治癒術師ってのも珍しいが、女の探索者ってのもほとんど見ねえよな。あんた、実力は?」
ランベルトの不躾な物言いに、セリアは少し眉間に皺を寄せる。
そして彼の問いを無視して、ディアナに視線を向けた。
「ディアナさん、この方たちの人となりを教えていただけますか?」
「え? ああ、ええっと、そうね」
当人の目の前で第三者に人格評価を依頼する。そのセリアの振る舞いは、ありていに言って失礼に失礼を返すようなものであった。
不快気に鼻を鳴らすランベルトにも、セリアは無視を決め込んでいる。
ライはそれらを前にして「なんで二人はいきなり喧嘩を始めたんだ?」と思っていたが、ディアナがいるから大丈夫だろうと気楽に構えていた。
「まずはランベルトさんですが、王国騎士団所属の小隊長で、後見は第三王女様です。性格は……なんというか見ての通り豪快ですが、剣の腕は確かです」
「見た目は騎士様だけど、デカい獣みたいなやつなんだ」
ディアナの説明を受けて、ライが補足する。
昨日の手合わせで感じた彼の率直な感想だった。
「はぁ!? てめぇ言わせておけば……!」
声を荒らげながら、ランベルトはその大きな掌でライの頭部と上からむんずと掴み、ぐりぐりと揺する。
それをライが無感情に払いのける様子は、年の離れた兄弟のようでもあった。
その光景を見て、思わずと言った風にセリアがくすりと笑みを漏らす。
「あはは……まあ、見ての通り、口調は乱暴ですけど悪人ではないですよ。腐っても騎士ですから。それに、さっき言った剣の腕ですが、レッドエイプ十体に襲われても、死人を出さずに部隊を帰還させられるくらいです。折り紙つきですよ?」
「そうですか……了解しました。それで」
セリアの視線を受けて、ディアナも笑みを漏らす。
「ライ君は……見ての通りです。素直で気の利くいい子ですよ」
「みたいですね」
年が離れているのは事実だが、ここまで年下扱いされるのもライとしては不満である。
ただそれを言葉にするのも負けた気がして、顔一面を渋くさせるのが、彼の精一杯の抵抗だった。
「……分かりました。では、このパーティに入らせていただきたいと思います。改めまして、セリア・マクレールと言います。よろしく」
最初の暗い表情と違い、少し笑みを浮かべながらセリアが手を差し出した。
ライとランベルトと順に握手を交わし、こうして新たなパーティメンバーが加わった。
その後、ランベルトは怪我で療養中の部下に報告をしてくると言い、ギルドから出ていった。
結成祝いに飯でもと言っていたので、恐らくまた戻ってくるつもりなのだろう。
「ライ君はこれからどうするの?」
「うーん、最外縁部で飯代でも稼ごうかな。たぶん、勝手に奥まで行ったらランベルトが怒るだろうし」
ライがそう言うと、ディアナがニコニコと笑みを浮かべる。
「それにしても……あなたたち昨日の今日で急に仲良くなったわね」
「昨日の手合わせでな。どうやら実力を認められたらしい」
「へぇ、凄いじゃない。騎士団でもきっと指折りよ、あの人」
「そうなのか?
「ええ、私が言うんだから間違いないわ」
それがどれだけの保証になるんだとライが苦笑を浮かべると、ディアナも声を上げて笑った。
「それで一応だけど、最外縁部まで異常個体群が侵食してきてるかもだから、行くにしても気を付けてね」
「異常個体群?」
「ガレナウルフみたいなやつらのことよ。そう呼ぶことになったから」
「分かった」
ディアナとそう会話を交わして、ライは一応依頼表を見ていくことにした。
「では私もご一緒していいですか?」
セリアが言うので、その後ライは彼女と二人で最外縁部の浅い場所の探索を少し行った。
夕方戻ってくると、ランベルトには勝手に行くなとやっぱり怒られてしまうのであった。
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