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綜錬の剣 ―ドブ浚いの少年が世界樹に至るまで―  作者: とんび
第1章

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 ライは探索者ギルドで受付をし、特に依頼票も持たずに大森林へと入った。


 装備はいつもの鋼の剣一本で、防具は無し。

 すでに昼過ぎで、陽が落ちるまでのわずかな時間、大森林でただぼんやりとするための目的の無い探索だ。


 最外縁部は、半日で行き帰りできる範囲なら、ライにとって勝手知ったるものである。

 モンスターの出没がほとんどない場所に向かい、その一角の大岩の上に腰を下ろす。


 そこで息をついて、つい採取できる素材に視線が行ってしまうことに気づき、ライは苦笑する。

 そうしたことをずっと続けてきたのだと自覚しての笑みだった。


 そのまま大岩の上に寝転んで、ライは空を見上げた。

 と言っても大森林では、空を覆うように幾重にも重なる木の枝によって、空自体はほとんど見えない。木漏れ日のちらつく、黒い天井のような景色が眼前に広がった。


「……」


 不思議と、頭は空っぽだった。

 リリーとの会話で、大森林に惹かれるものがあると気づいてここに来たのに、胸に去来するもは何もなかった。


 ぼんやりと景色を眺めながら、なんとなく、彼は自身の人生を反芻した。

 ドブ浚いでのこと、ナイフのこと。清らかな水、毎日食べられる食事。失敗のこと、鍛錬のこと。そして……関わって来た人々のこと。


 それらのことを、ゆっくりと考え巡らせた。




 いつしかライは、大森林でうたたねをしていた。


 気が付いて、はっと飛び起きる。

 大森林と言う場所で、あまりにも無防備を晒したことに少し心拍数が上がったが、大森林はわずかな小動物の音以外には、あいかわらず静まり返っていた。


「……はぁ、何やってんだ、俺は」


 言いながら、彼は何やら不思議な感覚があることに気が付いた。

 寝起きのふわふわした思考ゆえかもしれなかったが、空間の広さがありありと感じられる。

 同時に、その広大な大森林という空間に存在している自分、そのちっぽけさも。


 自分というものは世界に対して、あまりにも小さきものだった。

 しかしながら、呼吸をして大森林の空気を吸い込めば、それと一体になったかのような錯覚を覚える。


 なんだか稀有な感覚だなと思って、よりそれを味わうためにライは深呼吸をした。

 すると、


「……うっ、わっ」


 ぐるりと。

 意識の天地が逆さまなるような感覚を得て、ライは座っていながらその場で転倒した。

 大岩の表面に打ち付けた顔面の痛みを無視して、起き上がる。


「なんだ……今の?」


 もう一度目を深呼吸をしても、同じ感覚は訪れなかった。

 深呼吸をした時の大森林との一体感も、霧散している。


 寝ぼけていたせいだろうか。

 そんな風にも思った。

 空を見上げると陽が傾いきていることに気が付き、ライはしかたなく帰路につくことにした。



 大森林での、一瞬の白昼夢のような体験。


 けれどそれが理由なのだろうか。

 ライは数日後に再開した修練において魔力と聖気功の知覚に成功し、しかる後、小さな火とわずかな治癒術を習得するに至るのであった。


少々短いですが、一旦ここで。

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