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綜錬の剣―ドブ浚いの少年が世界樹に至るまで―  作者: とんび


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 翌日からライに課されたのは、狂ったような厳しい体力錬成だった。

 重量物を身につけての反復動作で、体を壊すんじゃないかと思うほどに肉体をいじめ抜いていく。


 その時点で過去に経験した以上のものだったが、ライが限界になって次の反復動作に一切移れなくなってからが本番だった。


「力なんてのは絞ったら出てくんだよ! 気合で絞り出せ! 絞り出てきたもんがお前の気だ! 絶対に見逃すんじゃねぇぞ!」


 トラッドから、そんな怒号が何度も飛ぶ。


 限界なのに動けるのは気のおかげ。

 であるならば、限界で動けた時にどこから力がでたのかを認識できれば、気の知覚に近づく。

 要するにそういう理屈であるらしい。


「めちゃくちゃだろ、こんなの」


 訓練後の愚痴ならともかく、訓練時間中には一度も吐いたことのない弱音が、ライの口から出るほどであった。


 もちろん、このような訓練を連日できるはずもない。

 もし続けていれば体を壊すのは自明である。


 そのためトラッドは、その翌日と翌々日には別の訓練をライに課した。


 午前中に筋肉の腱などを伸ばす軽い回復運動を行う。

 次に昼から夕方にかけて老師(ライはそう呼ぶように言われた)の元に赴き、魔法の勉強を実施する。

 最後に夕方からリーネの元で聖気功の修練をするという流れである。



 老師の元での勉強に際しては、最初に文字と計算を教えられた。


 魔力はゆがめ、壊す力。

 であるならば、もともとの(ことわり)を理解していなければ、その力を扱うことはできない。

 そのために老師は自然学と歴史をライに学習させるつもりのようだった。

 だがその前提として、文章を読んだり、数字を絡めた論理的思考力が必要だったのである。


「自然学は世界の法則を、歴史は人間の法則を理解するうえで重要じゃからの」


 そんな風に、老師は語った。


 それらの勉強は、もちろん魔法習得のための修練の一環で行われたものである。

 しかしライにとって、世界を知ることができる経験は未知のもの。そして余談と言いながら色々な話をしてくれる老師の語りの上手さもあって、少し楽しくもある修練であった。


 昼から夕方にかけて勉強し、最後に少し魔法の実演をしてもらって、老師による修練は終了となる。



 治癒院のリーネの元では、ライは手始めに絵を描かされた。

 それが終われば、次に作るのは粘土細工だ。

 いずれも最初に作るモノを見せられ、その後その見本を布で隠された状態で行われる。


 聖気功は復元の力であるがゆえ、元の形を正確に再現するための修練であった。


「これで聖気功が扱えるようになるのか?」


 気や魔力と違い、使えるようになった後のための訓練ばかりであることに疑問をもったライが、リーネにそんな質問をした。


「残念だけど、聖気功は修練で扱えるようになるものじゃないのよ」


 リーネからの回答は、苦笑交じりのものだった。

 どうやら何らかのきっかけで使えるようになることはあるが、それは適性次第。不完全でも徐々に使えるようになる、というようなものではないらしい。使えるなら使える、でなければゼロ。そういうことのようだ。


「私が与えてあげられるのはきっかけだけ。絵を描いたりするのが辛かったら、いつでもやめていいからね。適性が無ければ全部無駄になっちゃうから」

「感じ取れるようには……なるのか?」

「さあ、どうかしら」


 適性が無ければ、その「きっかけ」を得ようとする試みもやめてしまうのが普通らしい。


 自信満々にトラッドが依頼した割にかなりの博打だ。

 ライはそう思ったが、逆にこうも考える。

 魔力と聖気功の知覚から気の知覚に繋げるように、聖気功もまた他の不可視のエネルギーに対する感覚に導かれることもあるのではないか、と。


 一日の最後にライの掌を傷つけて治癒術を掛け、その感覚を植え付けることをして、リーネの元での修練は終了となる。



 これらの修練を積み重ねるようにして、ライの日々は過ぎていった。


 時折休息日が挟まったり、剣術自体の訓練や、毛色を変えて大森林最外縁部で体力錬成が行われたこともあったが、再び実践で剣を抜く機会が訪れるまで、およそ三十日の時間が経過することとなった。

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