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【単話】紙飛行機の導き

作者: 良月 心白

年に1度の感謝祭

この日は大切な人と手紙を交換する日なのです。

拝啓

桜が散り、梅雨目前の季節。風がなく日差しのみが肌に暖かい日に思い出すことがあります。先生、あの時のことを覚えていますか。


お世話になった小学校では感謝祭という、独自のイベントがありましたね。

「普段言えない気持ちを手紙に乗せて」

授業で[ありがとうの手紙]を書くだけだったのを、ある年の児童会が企画し、相手に渡すようになったのだとか。当然その年も手紙を書く授業がありました。


あの頃はたしか、1番仲の良かった友達が遠くへ引っ越し、手紙を渡したい相手がいませんでした。先生は「近くに渡したい友達はいないのか」と聞いてくれました。それでも「その友達に手紙を書く」といって譲らなかったのです。


ちょうどその頃、国語の授業では風が噂を運んでいく物語を勉強していました。

幼い私はそれを信じ、風が手紙を運んでくれると思ったのです。

幼い私は、飛びやすい紙飛行機をたくさん考えました。多くの折り方を試し、何回も実験しては一番遠くまで飛ぶ紙飛行機を選んでいたのです。


感謝祭当日は風一つない快晴でした。

私は風が吹くのをじっと待っていました。しかし、髪の毛が揺れない程度の風が吹くばかりで、とても手紙を運んでくれそうになかったのです。ゆっくりと流れる雲に泣いた子供は私くらいなものでしょう。どうしようもなくて泣いてしまいました。手のきれいに折られた手紙飛行機のことなど忘れてたくさん目をこすったら、手紙飛行機がびしょびしょで。それを見ては号泣したものです。私の思いが届くことはないのだと諦めてしまったのです。


泣いて廊下を歩いていたら、先生が私を見つけてくれました。「どうしたの?」という質問に、私は何と答えたのでしょうか。きっと、「風が吹いてくれない。」とまじめにいったのでしょうね。手に持った手紙飛行機に気が付いたからか、ないてる私を無視できなかったのか、私にはわかりません。ですが、先生は私のために車を取りに行き、強引に連れ出してくれました。「手紙を渡しに行くぞ」といって。今の時代では考えられないですね。


その時初めて、友人の引っ越し先が隣の市だったことを知りました。

彼の家につき、折れ目と涙でぐしゃぐしゃの手紙を渡した私はその時に知ったのです。

想いが届くことの喜びを。


わたしは今、配達の仕事をしています。手紙を届ける仕事です。

あの紙飛行機に導かれ、今日も想いを運ぶのです。


お体ご自愛下さい。

敬具






読んでいただきありがとうございます。

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