脳筋大魔王
《脳筋大魔王》の伝説は、悪口から始まった。
危険だが無限の魔力を放つ滅水晶を巨鬼の死体に埋め込んだ、究極の肉造兵として造られた彼だが、魔王軍四天王では最弱だった。
魔力を与えれば無限に筋肥大する肉体は、比類なき筋力と再生力を誇る。
けれど頭は愚鈍で、「脳筋」と嘲られていた。
彼に気付きを与えたのは、その揶揄だ。
もし脳が筋肉なら、そこも肥大できるのでは?
試みは、成功だった。
滅水晶で加速された脳は、彼に底なしの知能を与えた。
魔王城の蔵書を一夜で読破し、政治と軍学を極めた彼を、「脳筋」と呼ぶ者はもはやいなかった。
魔王が伝説の勇者と対峙した際も、彼は右腕として傍にいた。
巧妙に立ち回り、相討ちを演出した彼は、首尾よく玉座を手に入れた。
《脳筋大魔王》の誕生である。
魔王となった彼の初仕事は、勇者対策だった。
彼ら神託の刺客は、魔族の支配ある限り現れ続ける。
そこで彼は、勇者に玉座を譲り渡した。
魔王は勇者の下で治世に務める。いわば天皇制である。
魔族の支配は形式上終わり、勇者の数は激減した。
迎合した勇者は酒池肉林に溺れ、抗う者は魔王に粉砕された。
転生者の対処は、より簡単だった。
高い見識を持つ彼らは、理不尽な中世社会より知的な魔王と馬が合った。
協力者は多く、抗う者は魔王に粉砕された。
恋愛系や隠居系は無視された。
魔王の執政は非情だが、徹底して合理的だった。
富国強兵の容赦ない施策も、万人に平等故、受け入れられた。
汚職や犯罪は魔王に粉砕された。
魔族が占有する高等魔法を人類に解放もした。
文明水準は劇的に向上し、国は栄えた。
圧倒的軍事力で周辺国を併呑し、数年で大陸制覇を成し遂げた。
そして彼は、魔王の座に飽いた。
無限の闘争心を無限の知力で抑える限界が来た。
もはや敵はない。それでも戦いたい。
この日のために育て上げたのだ。
《脳筋大魔王》は咆哮した。
覇権国家への宣戦布告だった。