第五十話後編+ 欠落
2022年 5月5日 05:56 D-3地区内集合指定場所
Side:蒼山氷華
「……宵月先輩、ここが集合場所ですね」
「……え? あ、う、うん。そうね、うん。まだ、輸送車は来てないわね。ちょっと待ちましょうか」
「了解です」
……うーん、やっぱりあの砲を見てからというもの、宵月先輩の気分はかなり悪そうだ。
しかも、意識もどっかにとんじゃってる感じ。
戦闘の時とか、大丈夫かな?
まぁ、トラウマ持ちの私が言えたことでもないかもしれないけど。
個人的には、ゆっくり記憶を思い出して、緩やかに覚醒へと向かって欲しいのだけれど。
ただまぁ、さっさと覚醒させろっていうが上司の指示。
仕方ないし、私からアクションをするとしよう。
と、そんな事を考えていたら遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。
エンジン音が聞こえた方は、連合皇国軍のD-3地区前線基地がある向きだから確実にこちらの迎えだろう。
さてさて……車内でちょっと仕込むとしましょうか。
もちろん、魔術で。
???
Side:宵月瑠奈(幼少期)
金髪の女性が、幼き頃の私に優しく語りかける。
「これから語るのは……そうね。人間が引き起こした……いや、この言い方は正しくないわね。神によって、起きることが定められた第三次世界大戦後の話し。あの頃の人間は、全面核戦争のせいで滅びかけていたのよね。だから、彼らは生き延びるために出来ることはなんでもした。まずは、人間総数の更なる削減、その次には地下施設の拡充、最後に……胡散臭い棺の研究。この研究のおかげで、私たち魔女と彼ら人間は出会うことが出来たのよ」
「そうなんだ! 良かったね、私たちが人と出会えて」
「そう、ね。人と出会えて……良かったわ」
あぁ、なんだろう。
この日常、この庭、この女性。
これらを眺めていると……すごく、すごく。
懐かしく感じてしまう。
不思議だ。
この記憶、突然頭に浮かんで来ただけなのに。




