第三十八話 氷の悪魔と呼ばれた魔術師
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さて、向こうはやる気十分。
ただ、私は目を調整する間は弱いフリをしてやらなければ……。
とりあえず、偽りの適合属性である火属性で戦いましょうか。
あとは……汎用魔術は、まぁ適当に詠唱をきちんとして熟練度不足を装うことにしよう。
彼女は、拳銃の引き金に力を入れる。
魔力反応を銃から感じる。ってことは、あれは……魔弾ね。
属性は、多分土。
「偉大なる13の魔女より我らに授けられし72の術式よ。今ここで、その奇跡を現わしたまえ……絶対防壁」
詠唱の途中で彼女の拳銃が火を吹く。
ただし、銃弾が私の額を貫く直前に目の前に大型魔法陣が展開され、飛来して来た銃弾を弾く。
間に合って良かった……けどかなりギリギリだった。
やっぱ弱いフリって危ない、けど本気出されても困るし……大変だけど、頑張るしかないか。
「公安のデータベース通り本当に貴女弱いのねぇ。汎用魔術……それも多くの人が真っ先に詠唱しなくても発動できるようになるはずの防御魔術にすら詠唱が必要だなんて。可哀想な子……ふふっ、ハハハハッ。せいぜい、惨めに逃げ回りなさい」
「えぇ、そうさせてもらいますよ……!」
彼女の言う通り、今は逃げた回っている方が生き残れるわね。
調整は……40%までしか完了してない。
早くしないと……!
絶対防壁を解除して、レッグホルスターから引き抜いた銀色のルガーで牽制しつつ、彼女の銃弾を交わすために路地裏に駆け込む。
そして、彼女がこの路地裏に入って来る前に無詠唱でいくつかトラップ術式を仕込む。
「あらあら、逃げても無駄よ? 」
……彼女、索敵魔術を使ったか。
でも、この術式反応からするとこの魔術は生体反応を感知するもの……つまり、トラップの存在はバレない。
「さーて、こっちに逃げこ……ッ⁈」
私の背後から眩しい光が差し込む。
無事、目潰しのトラップにかかってくれたみたいだ。
光が落ち着いてから、通常弾を二、三発彼女に撃ち込むが……不可視の壁に防がれた。
流石、元Aクラスの先輩。
この程度は防ぐか。
ま、これは想定済み。
次からはトラップにもかかってくれないだろうなぁ。
でも、目の調整が終わった。
もう、偽る必要もない。
そう、彼女……遠崎和美は致命的な選択をした。
私が本気を出せないうちに、彼女が本気で私を殺しに来るべきだった。
「さぁ、鬼ごっこはこれで終わり、ですね」
左目の眼帯に手をかけて、それを取る。
ここからは、本気で相手にしよう。
「舐めやがって……劣等魔術師如きガァァッ」
冷静さを欠いていた彼女は、気づかなかった。
既に、私の勝ちが確定している事が。
「……神眼起動」
ルガーをホルスターにしまってからそう呟いた瞬間、彼女の全身が一瞬で凍りつく。
呆気ない最後だった。
このまま放置して去れば、和美は死ぬだろう。
私は惨めな氷のオブジェと化した彼女の横を、眼帯を付け直しながら通り過ぎる。
「さようなら、和美先輩」




