第三十六話 血の流れぬ戦場Ⅱ
「あの、宵月先輩。あのお二人は……」
「うん、財閥に群がるハエね」
「瑠奈は相変わらずキッツイなぁ」
だって、政治だのなんだの関係ない私からすれば、ああいう連中は信頼0だし、めんどくさいし……。
正直、いい印象は無いよね。
「ただ、宵月先輩の気持ちは少し分かります」
「うん? 蒼山家って華族かなんかだっけ?」
「いや、違うと思うけど」
少なくとも、私はそんな情報は持っていない。
そして、桜木家次期当主の恵梨香も知らないとなると、蒼山家は高位の華族とかでは無いだろう。
「いいえ、位持ちではありません。ただ、母が宮廷魔術師傘下の魔術研究チームの所長をしていましたので、やはり母に媚びていた下位の魔術師が居ました。そして、彼らはいざという時に全く手を貸してくれなかった……!」
とても悔しそうな表情をして、俯きながらそう言う。
なるほど、私の推理は当たっていた。
にしても、宮廷魔術師傘下の魔術研究チームか。
あの事件の後もなお、研究内容が明かされていない謎の組織だ。
様々な、主に黒い噂が未だに人々の間で囁かれている。
まぁ、今は置いておこうか。
「なるほど、研究者かー。そういう分野は、アタシにはよく分からないな」
「ま、私とか恵梨香は使う側だからね」
「……そう言うものですか」
「そう言うものよ。確かに、私たちは新たな魔術を生み出しはするけど、自分には関係ない過去の魔術とか魔術の起源を調べたりはしないもの」
「なるほど」
要するに、戦場で自分が得しない事は調べないんだ、私たちは。
というか、自分が得しない事をする暇がない。
そんな暇があるなら、少しでも生存率を上げたいと思ってしまうのが私たちの定めだ。
「さーて、アタシはそろそろ壇上に上がるかね。時間もいい感じだし」
いよいよ、歓迎会の始まりという訳だ。
「いい演説期待してるわよ」
「行ってらっしゃい、恵梨香さん」
私たちへの返事代わりに手を振りながら、壇上へと上がって行く。
さてさて、これから私は忙しくなりそうだ。
私と……というか宵月家の娘と話したいって人がわんさか寄ってくるだろうからね。
はぁ、憂鬱だ。
氷華と話してあげる時間を作ってあげられればいいのだけど。
「本日はお集まりいただいて、ありがとうございます! わたくしが今回の歓迎会主催の桜木恵梨香です。では、これから……」
まぁ、宵月家に引き取られた以上は仕方あるまい。
この、一種の政治的な戦場で生き抜くとしようか。




