第三十話 嘘か真か
「……氷華」
私は、重い口を開く。
「はい、何ですか?」
「私の実家にある昔のドレスなら、貴女に会うヤツがあるかもしれない」
これが最善。
これが一番いいドレスの調達法なのは、分かってるけど……。
心のどこかで、実家に行くのを嫌がっている自分がいる。
大丈夫、大丈夫……ただ、ドレスを取りに行く。
ただ……取りに行くためなんだから、大丈夫だ。
そう、自分に言い聞かせる。
「え、いや、それは宵月先輩に悪いですよ」
「大丈夫、私たち上級生が貴女たちを歓迎するパーティーなんだから、私がドレスくらい貸して上げるわよ」
「……なら、借りちゃいます。でも、似合うかなぁ私なんかに」
少し俯きながら、彼女はそう呟く。
「……似合うのを見つけてあげるから、大丈夫」
と、私は氷華の頭にポンと手を置く。
なんか、いいな……こういうの。
妹が出来たみたいで。
……家族、家族かぁ。
普通の家族、それは私の憧れるもの……。
「ところで、宵月さんの家ってどこにあるんですか?」
「えっとね、ここから割と近いよ。歩いて15分くらいかなぁ」
四大財閥の中でも、私たち宵月家の人間が経営している月詠重工と学園長の家系である秋風家の人間によって経営されている秋風コーポレーションの間には深い関係性がある。
それもあって、私の実家も学園のすぐそばにある秋風の館の近くにあるのだろう。
「……あの、もしかして宵月先輩ってあの宵月のご令嬢様ですか?」
まぁ、そりゃ分かるよね。
私も別に隠したかった訳でもないし。
ただ、言いふらす事でもあるまいと思って言わなかっただけなのだから。
「えぇ、そうよ」
「うわぁ、すごい人のバディになれたんですね、私。もっと頑張らないと」
「ハハ、別にそんな身構えなくても大丈夫。貴女のペースで頑張ってくれれば良いから」
なんだろう、違和感を感じる。
氷華は、普通に反応してるだけ……のはず。
はずなんだけど……若干の芝居臭さを感じる。
あと、前から気になっていた事がある。
やけに引っかかるのだ、蒼山氷華という名前が。
どこかで、そして何度か聞いたことがあった気がする。
はっきりとは、覚えていないけど、何かがあったような……そんな気がしてならないのだ。
……気にしすぎ、かしら?
それに、氷華に何かあるならどうせ今日の夜には分かる事。
そのために、あの情報屋に依頼をしたのだから。
だから、今は……今はパーティーを楽しむことにしましょう。
「さ、氷華。さっさと、私の実家に行ってドレスを選びましょう」
「……はい、分かりましたー」
「じゃ、私に着いてきてね」




