第二十八話 彼女もまた人間である
2022年 4月19日 12:50 秋風武装学園高等部保健室前 Side:蒼山氷華
「……でね、本当に私は死を覚悟してたんだけど。私は、見ての通り生きてる。そう、青いドレスを着ている少女がね……光り輝く刀身を持つ剣でナイフを弾き飛ばして、そのまま瑠衣の偽物を真っ二つにしたの。その時の、その剣筋が……私のフォティアの効果のせいで照明器具のほとんどが破壊されてて暗かったのもあって凄く綺麗だった、まるで昔見えたって言う流星みたいにさ……凄く、あの流星にあこがれた。ただ、あの流星に憧れてから……魔剣を鞘から抜けなくなった……理由は、よく分からない」
そこまで聞いて、私は保健室前から去る。
元々、盗み聞きをする気はなかったのだが、一度宵月先輩の過去語り聞こえてしまって……ついつい全部聞いてしまった。
……にしても、私は大事なことを宵月先輩への強い憧れのせいで忘れていた。
彼女も1人の人間なのだ。
だから、彼女もまた、私と同じように悩みがあるのだ。
ただ……まさか私も宵月先輩も何者かに憧れてるなんて。
今まで、宵月先輩のことは雲の上にいる人のように思えていたが、こう共通点があると、少し親近感が湧く。
……あの話を聞いてからというものの、何か違和感を感じる。
心の中に秘めていた何かが……変わって来ているような……そんな感じ。
ただ、今の私には、何が変わっているかを気づく事は出来なかった。
2022年 4月19日 12:53 秋風武装学園高等部保健室前 Side:宵月瑠奈
「……てな訳よ。私はちゃんと話したわよ……それで、何か思う所は?」
私が話している間、地面に視線を向けて何かを思案しながら聞いていた胡桃がふと顔を上げる。
「……もしかして、貴女って」
「私が?」
「うーん。いや、やっぱなんでもないです」
途中で止められると、かなり気になるのだけど……。
まぁ、いいや。一度言わないと決めたら、胡桃は絶対に話さないだろうし。
「? 変な胡桃」
「いえ……ただ単に、私が言うべき事ではないと言う事です。きっと……私よりこの台詞を言うのに適任な人がいるはずです」
「はぁ……」
……誰ならいいのよ誰なら。
……もういい、考えても何も分からない。
「……んっ」
と、胡桃とそんなやり取りをしていたら、ようやく恵梨香が目覚める。
「アタシ、また負けたのか……」
「そうですね……けど、もう少しのとこまで来ていましたよ」
恵梨香と胡桃のそんなやり取りを聞きながら、私は窓から外を見る。
……相変わらず、黒い雨が降っていた。
私は……いつになったら、流星の束縛から解放されるのだろうか?
某所 Side:学園長
「……ほう、そうか。ついに、原初派の連中も重い腰を上げたか。和美君、あっちの魔女はなんと?」
「D-3地区に我らは行かぬ……との事です」
「ようやく、協定も最終段階……国防軍の連中にも知らせてやらないと、な」
魔術解説
鮮血の舞
土属性上位魔術であり、視界内の地面から土で作った無数の槍を召喚する。土の槍の数、強度及び威力は、術者の魔力量に依存する。




