第二十七話 空っぽな戦士
「……中々厄介な能力ですね」
私は、思わずそう呟く。
そもそも、目の前のコイツはただの操り人形だし、もう既にあの槍も持っていないから勝っても私たちの得るものはない。
しかも、偽物の総数は未知数。
最悪の状況が綺麗に噛み合ってしまっている、嬉しくない噛み合いだ。
魔術師も楽じゃないね。
さらに、私と和美先輩は今分断されている……さて、どうしたものか。
……まぁ、やる事は一つだけ。
速やかに、あの目の前の偽物を排除する。
M9A3をショルダーホルスターに仕舞い、私は転移魔術を使用する。
コイツの後ろを取った。
それに、対応しようと瑠衣の偽物は振り向く。
もう、遅い。
腰に差していた、白銀の剣の柄を右手で握りしめる。
この剣を引き抜く前にチラッと和美先輩の方を見る。
……私のやろうとしている事を察したのか、防御魔術を既に展開していた。
さて、やるか。
「目覚めなさい……魔剣フォティア」
「ほう……その剣は」
……瞬間、辺り一体が爆ぜる。
焦げ臭いにおい、荒れ狂う熱風、宙を舞う火の粉。
魔剣フォティア最大の強み……それは、抜刀時にフレイムⅢ/壊という強力な火属性爆裂魔術が自動発動する点だ。
初めて、私と戦う者の9割はこれにより屠られる。
魔剣フォティアは、正しく初見殺しの剣である。
……抜刀直前、瑠衣の偽物は如何なる魔術も使っていなかったし、先ほどの一体目の偽物の強度から鑑みるにフレイムⅢ/壊の直撃には耐えられまい。
そう思った私は、フォティアを鞘に戻そうとする。
そんな時……。
「瑠奈、後ろ!」
和美先輩の必死の叫び声が響き渡る。
言われた通り、後ろを振り返る。
そこには……何故か生きている偽物が私の心臓に大型ナイフを突き刺そうとしていた。
「クッ……なんで⁈」
ギリギリの所で、ナイフをフォティアで食い止める。
ガギィィィンという、金属と金属が勢いよくぶつかった時の嫌な音が響く。
「芯がないですね、その剣には……いや、貴女には」
「芯がない……一体どう言う意味?」
何のことかよく分からない。
よく分からないのだが……何故か胸の奥が痛む。
何で?
「そのままの意味ですが……分かりやすくいいましょう、貴女に戦う理由はありませんよね?」
「あっ」
何かが……心の中の大事な何かがポキッと折れた気がした。
いや……そんな訳……理由も無く戦う人なんていない。
そうに決まっている……そのはず……。
そのはずなのに……。
どうしてこんなに、胸が痛いのだろうか?
「貴女の戦う理由は?」
「戦う理由、は……」
私の戦う理由は……
宵月家のため。
親に言われたから。
親に期待されているから。
魔術師として生まれてきてしまったから。
いずれも……私が戦うことの理由にはならない。
ただただ……私は何も考えずに他人の言われるがままに歩んできた。
それだけなんだ。
本当に……私は空っぽなんだ。
身体から力が抜けて、剣が手から滑り落ちる、膝が地面に着く。
彼のナイフを妨害するものはなくなった。
だから……迫って来る……私に。
防ぐ術はない。
防ぐ気もない。
「瑠奈ぁぁぁぁ!!!」
私はそっと目を閉じる。
せめて……痛みなく死ねますように。




