第二話 静かな戦場
最新話割とはやく書けたので投稿します。
いつもに増して一層暗いあの日。
私はこの世界で見るはずのない流星を確かに見たのだ。
黒髪の、青を基調とするドレスを着た少女が描いた剣先の軌跡。
あの美しくも、儚い光が忘れられないのだ。
あの剣の輝きを見た後、私はかつてのようにただ力強い光を発するだけの自身の魔剣をみだりに使えなくなった。
だって、私がこの剣を振るうたびにあの輝きを貶しているように感じるから……
「偉大なる13の魔女より我らに授けられし72の術式よ。今ここで、その奇跡を現わしたまえ……不可視領域!」
私がそう唱えると、パン屋の床に神聖さを感じる輝きを発する魔法陣が展開される。
「これは……」
「72の汎用魔術の一つ、不可視領域。これでアイツに見つからずに済むわ」
「……俺の気のせいだったか」
兵士の男はパン屋の中を見渡した後にそう言うと、外に出て行った。
……危機一髪だった。
この魔術を習っていなかったら、アイツを殺すしかなかった。
そしたら、任務失敗。私たちは仲良く減点だ。
「……ふぅ。もう大丈夫そうね」
兵士が出て行ってから数分後。
不可視領域を解除して、私はパン屋の壁にもたれかかり、息を大きく吐き出す。
すっごく緊張した……額から汗出てるし。
もう、こんな心臓に悪い目に合うのはゴメンだ……って言っても、まだ任務が始まってからまだ30分程度しか経っていないのだが。
帰りの時間を考えても、まだ1時間は偵察行動が出来る。
……地獄かな? 勘弁して欲しい。
私は焼くのは得意だけど、別に隠密行動が得意な訳じゃない。
「すみません……先輩の足は引っ張らないと言ったばかりなのに」
しょんぼりとした顔をして俯きながら、氷華が私に謝る。
……ズルい。
正直、彼女に言いたいことはあったが、こんな顔をされたら怒る気もうせるというモノだ。
「氷華、顔を上げなさい」
そう言うと、彼女は顔を上げる。
私は、彼女の青色の瞳をしっかりと見る。
「いい? 貴女は、確かに魔女に選ばれた魔術師だから失敗は基本的に許されない……多くの力なき市民たちの未来を背負ってるからね。ただね、それと同時に貴女はまだ高等部に進学したばかりの新入生に過ぎないわ。初めての実戦に失敗は付きもの。これは仕方ないことなの。……だから、この任務での失敗からよく学んで、そして強くなりなさい。魔術師に相応しい力を手に入れなさい。……いいわね?」
……まったく、柄にもないことをした。
「はい……はい! 私も、誰かを守れる強さを手に入れるように頑張ります!」
てもまあ、彼女のこの笑顔を見れたならいいか。
「よしよし、その意気だよ。さて、休憩は終わり。先に進もうか」
「了解です!」
今回から後書きのとこにちょこっと設定を書いていきます。
・汎用魔術
魔術師ならば誰でも習得可能な72種類の魔術。属性は全て無属性。
・不可視領域
汎用魔術の一つで、術者が指定した範囲内の対象を外部から見えなくする。魔力消費はそこまで多くない。