第十五話 井の中の蛙大海を知らず
Side:桜木恵梨香
……アタシは天才、天才と周りから担がれて育ってきた。
ただでさえ火属性と無属性の二重属性持ちだった上、その無属性魔術は最強格の神獣"不死鳥"の召喚魔術だったから、そう言われるのは当然だった。
不死鳥使いの桜木恵梨香、そう持て囃されて育ったアタシは、徐々に増長していった。
そして終いには、私たち桜木家が代々社長をしている四大財閥の企業の一つである桜木証券の傘下にいない魔術師は全員劣っていると思うようになった。
今思えば、恥ずかしくて滑稽な話だ。
タチが悪いのは、アタシが実際にそれなりの実力があった点だ。
しかし、そんなアタシに世界の広さを教えてくれた魔術師がいた。
そう、あれは……アタシがちょうど15歳になった日だった。
アタシが成人したことを祝うために、桜木家の別荘に4大財閥の面々が来ていた。
大体の人は、アタシに敬意を持って接してくれた。
丁寧に挨拶をしてくれた。
ただ……1人。
アタシと同年代の、今まで見たことのなかった金髪の少女だけは普通の挨拶をした。
「こんにちは、恵梨香さん。お誕生日、おめでとう」
自身を神かなんかだと思っていたアタシは、この敬意のこもっていない挨拶にキレた。
「お前、名前は?」
「ん? 私?」
「そうだよ、お前以外の誰がいるんだよ?」
「私は、宵月瑠奈」
宵月……あぁ、月詠重工の。
アタシたちの傘下に入らない愚民一家らしい不遜な態度だ。
「これからよろしく」
そう言って、微笑みながら宵月瑠奈は握手をするためにこちらに右手を伸ばしてきた。
アタシは、その手を叩いた。
なんて、図々しい。
「……痛い。私、何かあなたを怒らせるような事をしたかしら? それなら、謝りたいのだけど」
「ならアタシに敬語を使わなかった事を詫びなさい」
「あぁ、初対面の人には失礼でしたね。ごめんなさい、恵梨香さん」
「ふんっ。次からは気をつける事ね」
宵月瑠奈は、その場から去ろうとする。
それをアタシは……敢えて呼び止めた。
そう、この罪人に処罰を与えようと考えたのだ。
「ねぇ、宵月瑠奈」
彼女は、それに応じて振り返る。
「なんでしょうか?」
「あなた、魔術師?」
「そうですけど……それが何か?」
そう……この子が宵月家の秘蔵っ子ってわけ。
アタシを差し置いて宮廷魔術師の座を狙うなんて舐めた考えはへし折ってやらないと……ね。
「なら、宵月瑠奈……戦いましょう」
「……どういうことですか?」
「だから、同じ4大財閥の魔術師として親善試合でもしましょうと提案してるのよ。少しは、アタシも楽しめるでしょうし。観客もいっぱいいることだしね。さ、外に出ましょ」
「……お母様。この試合、受けても良いでしょうか」
「もちろんよ。ただ、本気でやりなさい」
「……わかりました」
……宵月瑠奈は、彼女の母から何やら白銀の剣を受け取っていたが、まぁ、大した問題にはなるまい。
「話は終わった?」
「えぇ、終わったわ」
チッ、また敬語じゃない。
ま、良いでしょう。
今から、大勢の観客の前で恥をかくのだから。
「付いてきなさい。良い場所に行くわ」




