第十一話 ありし日の記憶Ⅰ
……私は、4大財閥の令嬢とか政治家の娘とかそういう裕福な家の生まれではなかった。
かと言って、スラム街生まれとか傭兵の両親の元生まれたとかそういう貧しい生まれでもない。
私、蒼山氷華は、平和だった時代にはたくさんあったが今や逆に珍しくなってしまった中間層という家庭に生まれた。
父親は国防軍の士官で、母親は本州連合に仕える魔術師だった。
2人とも、そこまでして位が高かった訳ではない。
それでも、普通に暮らす分には十分な暮らしは出来た。
私たちは、幸せだった。
そう、そして、その幸せはずっと、ずっと……続いていく。
そう私は信じていた。
この残酷な世界は……もちろん私のような勘違いをした人にその過酷さを見せつけてくる。
はじめは……私が10歳の時。
そして、私が姉になった日。
父親の勤めていたD-03地区国防軍司令部に突如原初派側の魔女である第二の魔女が出現。
そこにいた国防軍の軍人は一瞬で全滅した。
もちろん、私の父親も例外なく。
母親は立ち直れなくなって、何もしなくなった。
だから、私は働き始めた。
幸い、私にはそこそこ高い魔術師としての適正があったので、仕事はあった。
この時ほど、この世界が荒廃していることに感謝したことはない。
幼い自分でも、働けるから。
妹は、母の親戚の家に預けた。
誰も世話が出来ないからだ。
一応、時々妹の様子は見に行った。
……まだ、私は世界を恨みきれずにいた。
残っていたからだ。
母と妹が。
一回だけなら耐えられたのだ、そう一回だけなら。
「……先輩」
誰かが呼んでいる。
私は、さっきまで何を見ていたのだろうか。
あれは……誰の記憶だったのだろうか?
もう、夢の記憶はあいまいになっていた。
「宵月先輩! 起きてください」
私は、目を開ける。
カーテンの隙間から眩しい光が一瞬視界を覆うがすぐに慣れた。
私の顔を覗き込んでいる、まだあどけなさの残る少女の顔が見える。
短かめ茶色の髪、右目の青い瞳、左目の部分に付けられた白い医療用の眼帯。
「……あぁ、氷華。おはよう。ところで、今何時かしら」
「もう8時ですよ! いくら寮と学園の距離が近いと言ってもそろそろ起きないと一限の授業に間に合わないですよ!」
あぁ、そのこと。
私、別に早くに行かなくてもいいのだけど……。
うーん、説明するのもめんどくさいし……寝よ。
私は再び瞼を閉じる。
「おやすみ、氷華」
「ちょっと先輩! はぁ……私はもう行きますよ」
「行ってらっしゃい。ちなみに、私は午後からしか授業無いから」
「え、そうなんですか! すいませんでした……はぁ、私っていつも……行ってきます……」
……帰って来たら、励ましとこ。




