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ドラゴン・パークをつくろう!  作者: 伊栄寿 大好
9/81

ドラゴンテイマー?(★)


 連中が仕掛けた罠は、実に巧妙で合理的だった。


 思えば俺は文字どおり裸一貫で、身につけていたものと言えば野性味溢れる(ふんどし)だけ。素足を守る靴やそれに代わるものはなく、そんな状態で森の中を歩くのはどうしても限界がある。下草に覆われた森の地面は、尖った枝やら石やらが隠れていて危険だし、地球では〝殺人植物〟の呼び声高いギンピー・ギンピーのような毒草だってまぎれているかもしれないからだ。


 このカナダオオヤマネコ改めペルシャヒョウは、その点を見逃していなかった。そして俺が少しでも安全に歩ける道を求め、遠からず獣道へ出てくると予想した。


 ゆえにここに罠を張り、全裸の俺が喉から手が出るほど欲しているであろう衣類をエサにして、包囲の真ん中へ誘い出したわけだ。ああ、くそ。


 悔しいが完敗だった。人間に狩られる動物の気持ちってきっとこんななんだな。


 そう考えると、密猟者ってやっぱりクソだ。


「これが最後の警告だ。両手を頭に置いて(ひざまず)け」


 さっきの可愛らしい悲鳴はどこへやら。


 樹上から降り注ぐ声色はやはりドスのきいた低音で、俺は表情筋が()()るのを感じながらも両手を上げ、降参の意を示す他なかった。


 こちらがマントを羽織るまで律儀に待ってくれた点は評価に値するものの、それはひとえにこの雌豹(めひょう)が、例の()()を再び視界に入れたくなかったためだろう。


 瞳孔をかっぴらいた雌豹の額にはくっきりと青筋が浮かんでいるし。


「貴様……先程はよくもおぞましいものを見せてくれたな。仮にもゴンデシャル家当主の座にある私にかような乱行を働くとは、よほど命を粗末にしたいと見える。だが恐れを知らぬその度胸だけは褒めてやってもいいぞ」

「は、ははは……そりゃどうも……さっきのには一応、争う意思はないってことを示す意味もあったんですけどね……」

「ほう、私には言外に〝殺してくれ〟と言っているようにしか見えなかったがな。そもそも本当に争う意思がないのなら、陛下の竜を連れて逃げた件は何とする?」

「陛下の竜?」

「そうだ。あの嬰竜(ドラガニトゥ)は我らから偉大なるフーヴェルオ三世陛下への貢ぎものだと言っただろう。それを奪い逃走したということは、陛下への反逆の意思を表明したも同じこと。奪った竜を大人しく返すと言うのなら、命だけは助けてやってもいいが……貴様、竜をどこへやった?」

「……いや、こいつは失礼。そうとは知らず、ずいぶんな無礼を働いちまったようだ。しかし残念、さっきのチビ助なら逃げられちまったよ」

「逃げられただと?」

「ああ、ほら、このとおりガブッと指を噛まれて怯んだ隙に。はあ~、ったく、人がせっかく罠から助けてやったってのに恩知らずな竜だよなあ~。やっぱ小さくても凶暴なやつは凶暴で──」

「な……き、貴様、竜に噛まれただと……!?」

「へ?」


 ところが適当に話を合わせ、こいつらの注意を逸らしつつチビ助の追跡を諦めさせようとしたときだった。少しでも話の信憑性が増すようにと、俺がとぼけながらチビ助に噛まれた右手を見せれば雌豹の顔色が一変する。


 おまけに周りの手下どもまでどよめき出し、たちまちあたりは騒然となった。


 ……あれ? ひょっとしなくても、竜に噛まれるのってまずいのか?


 たとえば竜の唾液は伝染性の感染症を媒介するとか──?


「貴様、傷をよく見せろ!」


 かと思えばいきなり木の上から雌豹が降ってきて、女とは思えぬほどの力で俺の右腕を引っ張った。その膂力(りょりょく)たるや一瞬腕が抜けるかと思ったほどで、この女にだけは逆らってはならないという本能の警告が俺の海馬に刻まれる。


「……確かに先刻の嬰竜の口径と一致しているように見えるが……貴様、本当にやつに噛まれたのか? だがやつは()()()()だぞ……!?」

「〝ハネつき〟って、つまり(ハネ)が生えてる竜ってことか? ハネつきに噛まれるとなんかやばいとか……?」

「き、貴様正気か!? ハネつき、つまり有翼類(ゆうよくるい)に属する竜が、一瞬で人を死に至らしめる毒を持つことは常識だろう! そんなことも知らずにアレを助けたのか!?」

「は……ど、毒……!?」


 まったく予想外の事実を突きつけられて、今度は俺が仰天する番だった。あ、あんな毒気のかけらもないチビ助が、一撃必殺レベルの毒を持ってるって……!?


 けれども通常、身を守る手段として毒を持つ生き物は、危険を感じると自分が毒持ちであることをアピールし相手を退けようとする。


 ヤマカガシが天敵に対して背中の模様を見せつけるのも、ミノカサゴが驚くと毒針のある背鰭(せびれ)を立てるのも、自分には毒があるぞと脅して窮地を逃れるためだ。


 また〝密林の宝石〟と名高いヤドクガエルや、身近な毒虫であるハチのように、派手な体色そのものが毒持ちの証である生き物も多い。


 これを〝警告色〟と言うのだが、少なくともさっきのチビ助は冬毛のユキウサギのように真っ白で、見た目から毒々しさは微塵も感じられなかった。


 威嚇時の行動だって、翼を広げてアリクイのように体を大きく見せようとしていただけだったし……あ、あるいはあれは〝自分は()()()()だぞ!〟という警告だったのか? いや、そもそも異世界の生物の生態を、地球生物の例に()()めて考えること自体が間違いなのかもしれないが……くそ!


 せっかく手に入れた第二の人生も、始まって早々閉幕かよ……!?


 これじゃジュンコとの約束が……あいつの仲間を絶滅から救ってやるなんて大見得を切ったってのに、たった一匹、竜の子どもを助けただけで終わりだなんて──


「おい」

「……」

「おい、貴様、答えろ! 名は? 貴様の名はなんという!?」


 が、俺はそこでようやく我に返った。動揺のあまりしばらく呆けてしまっていたのか、俺の右手を掴んだままの雌豹が苛立たしげに声を荒げている。


「あ……な、名前……? 名前は、竜司(りゅうじ)……八俣(やまた)竜司だ」

「リュージ、か。覚えのない氏族名だが、しかし……」

「いや、けどこのままだと俺、死ぬんだろ? なら何か血清とか解毒薬とかないのか!? さっきの件は本気で謝るし、俺にできることなら何でもするから……!」

「……待て。貴様、今〝何でもする〟と言ったか?」

「あ? あ、ああ……あくまで俺にできることなら、だけど……」


 しまった。つい勢いで何でもするなんて言っちまったが、もしかして失言だったか? いや、けど〝俺にできることなら〟って条件つきだし、何か不都合なことを押しつけられそうになったらできないと断ればいいよな……?


 などと俺が冷や汗をかいている間にも、雌豹は何やら思案顔で「ふむ……」と考え込んでいた。かと思えば不意にじっとこちらを見つめ、再び眼光を鋭くする。


「ならばまず正直に答えろ。先程からとぼけた言動ばかりしているが、貴様──さては〝竜使い(ドラゴンテイマー)〟の生き残りではないのか?」

「……どらごんていまあ?」


 てっきりもう一度あのチビ助を捕まえてこいとか、そういう無理難題を突きつけられるのではと身構えていた俺の脳ミソは、突拍子もなく投げかけられた質問に反応できなかった。結果、意図せず幼児退行気味のオウム返しをする羽目になってしまい、雌豹の顔はたちまち呆れと失望に彩られていく。


「いや、愚問だったか……こんなアホ丸出しの男が先帝の〝竜族狩り(ドラゴンズフォール)〟を生き延びられたとは到底思えん……が、竜毒(ドラコヴェノム)を受けたところで何ともないということは、少なくともやつらの血を引いている可能性はある……のか?」


 恐らくその疑問は俺に投げかけられたものではなく、単なる自問自答だったのだろう。が、俺はまたしてもぽかんと口を開けて雌豹の顔を見上げてしまった。


 いや、だって今こいつ、俺を見て〝竜毒を受けても何ともない〟って──それってつまり、竜の毒は致死性と速効性が極めて高いってことだよな?


 〝ヴェノム〟という英単語が生物毒を意味することくらいは俺にだって分かる。


 ああ、そうか。だからこいつらは俺が竜に噛まれたと聞いて血相を変えたのか。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。


「……まあ、いい。ともかく貴様、名をリュージと言ったな?」

「あ、ああ」

「では、リュージ。貴様には我らと共に帝都メアレストへ来てもらう。だがその前に私も名乗ろう。我が名はフリーダ・ゴンデシャル──皇属竜狩猟団インペリアル・ニムロダムの現団長にして、アゴログンド最古の竜狩人(ドラゴンハンター)と名高いゴトリーブ・ゴンデシャルの末裔だ」


▼ギンピー・ギンピー

挿絵(By みてみん)


 主にオーストラリア北東部の熱帯雨林に自生するイラクサ科の植物。葉、茎、根のすべてが細かい刺毛(しもう)に覆われており、この刺毛が毒を持つ。一度刺さった刺毛を取り除くことはほぼ不可能で、体内に入ると想像を絶する激痛をもたらす。

 この痛みは数ヶ月に渡って続き、患者が耐えられずに自殺した例も。ただし現地にはこの毒への抗体を持ち、食料としている哺乳類や鳥類、虫類も存在する。


参考・画像引用元:

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%BB%E3%82%AE%E3%83%B3%E3%83%94

https://botanica-media.jp/373


▼ヤマカガシ

挿絵(By みてみん)


 日本固有種の毒蛇。全長60~120cm。本州から四国、九州まで全国に広く分布する。溶血毒と呼ばれる独特な毒を持ち、噛まれると血が止まらなくなる。これにより全身に皮下出血、内臓出血、内臓の機能不全や脳内出血を引き起こし、重篤な場合死に至る。1970年代まで毒蛇として認知されていなかった。上野動物園(東京都台東区)にて飼育展示されていたものの、現在は非展示?


参考・画像引用元:

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%AB%E3%82%AC%E3%82%B7

https://tenki.jp/suppl/kous4/2017/08/30/25381.html


▼ミノカサゴ

挿絵(By みてみん)


 太平洋南西部とインド洋にかけて広く生息する海水魚。日本では北海道南部以南の沿岸部の岩礁に生息する。体長25cm〜30cm。背鰭の中心に毒を持ち、威嚇の際には毒針を立てて向かってくる。刺されると患部は赤く腫れ上がり、眩暈(めまい)、発熱、発汗、頭痛、吐気、手足麻痺、呼吸困難などを引き起こす。

 全国の水族館で飼育展示されているため、身近に観察することができる。 


参考・画像引用元:

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8E%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B4


▼ヤドクガエル

挿絵(By みてみん)


 中南米の熱帯雨林に生息する毒ガエル。「密林の宝石」と呼ばれるほど美しい体色を持つが、これは外敵に対し毒があることを知らせるための警告色。

 アメリカ大陸の先住民がこのカエルの毒を採取して吹き矢に利用し、狩猟を行っていたことから「ヤドク(矢毒)」の名がついた(ヤドクガエル科にはフキヤガエル属と呼ばれる分類も存在する。最も有名なのは写真のモウドクフキヤガエル)。

 なおヤドクガエルの毒は餌となる昆虫から体内に取り込まれるものであり、飼育下で毒のない餌を与え続ける限りは毒を持たない。

 日本国内では円山動物園(北海道札幌市)、男鹿水族館(秋田県男鹿市)、サンシャイン水族館(東京都豊島区)、鳥羽水族館(三重県鳥羽市)、大分マリーンパレス水族館(大分県大分市)などで飼育展示されている。


参考・画像引用元:

https://ikimall.ikimonopal.jp/blog/post-1737/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%82%A6%E3%83%89%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%AD%E3%83%A4%E3%82%AC%E3%82%A8%E3%83%AB


▼アリクイ

挿絵(By みてみん)


 中南米の森林・草原地帯に生息する哺乳類。名前のとおり主食は(あり)。ミミズのように細長い舌を蟻の巣に差し込み、粘着力のある唾液で絡め取って捕食する。

 威嚇の際には写真のように仁王立ちして体を大きく見せようとするが、人間から見ると脅威に感じるどころかむしろかわいいと話題。日本国内では那須どうぶつ公園(栃木県那須町)、上野動物園(東京都台東区)、伊豆シャボテン動物公園(静岡県伊東市)、東山動植物園(愛知県名古屋市)などで飼育展示されている。


参考・画像引用元:

https://izushaboten.com/news/5723/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%82%A4

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