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ドラゴン・パークをつくろう!  作者: 伊栄寿 大好
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スター・ドラゴンはなでなでされたい


 星竜(スター・ドラゴン)は、人間たちが考えた竜格(ランク)でいうところの〝一級〟に相当する竜だ。


 いわゆる()()()()で、個体数も少ない稀少種だが、高位の竜術(ドラコマジック)と言語を操る。


 属性的には光の王である天神竜(イクスフォグド)の眷族で、やつの側近として共に天竜の頂で暮らしている一族だ。だからこのイジェンティアなる星竜が、天神竜の命令で遣わされてきたという話には納得できる。


 が、仮にも自分の護衛としてやってきた竜が、よりにもよって何故こんな子どもなのか。そもそも竜司(りゅうじ)の〝監視〟とはどういうことだ?


 いや、気になることは他にもあるものの、ジュンコがいま最も疑問なのは──通常星竜には()()()()()()()()()()()()()()()だ、という点だ。


「……イジェンティア」

「あ~、ダメダメ、ダメですよぉ~、ファルさま! 地上(ここ)じゃいつ人間に聞かれるか分からないんだから、あんまり真名(エトゥラン)で呼ばないでください~」

「……ならば、ティア。おんしが天神竜(イクス)の使いというのは分かった。だがその姿は一体どういうことじゃ? 長く生きた星竜ならばともかく、まだほんの子どもに過ぎんおんしが、何故人間に化けられるほどの力を持っておるのか」

「ん~、それがティアにもよく分からないんですけどぉ~、イクスさまがおっしゃるには、母大樹の森(オルティペトゥス)でリュージと会ったのが原因じゃないかって話ですぅ~」

「リュージに会ったじゃと?」


 と思わず聞き返すと同時に、ジュンコははたと気がついた。


 そういえば以前竜司が、アゴログンドに転生した直後に母大樹の森で罠にかかった白竜を助けた、というような話をしてはいなかったか?


 その竜の特徴を聞いたとき、ラドニアも「星竜の幼体ではないか」と推測していたし──だとするとティアが竜司にひどくなついている様子なのは、演技ではなく本心だったということか。まったく奇妙な巡り合わせがあったものだと半ば呆れながらも、ジュンコは腕を組んで納得した。


「なるほど。よもやおんしが竜司の助けた仔竜じゃったとはの。あのあとおんしは無事に生き延びただろうかと、あやつもずっと案じておったぞ」

「えっ、ほんとうですかぁ~!? そっかぁ、リュージもティアのこと覚えててくれたんだ~! えへへへ……」

「しかしまだ分からんことがいくつかある。そもそもおんしは何故あのとき、天竜(セルク)の頂(ティクス)を離れて母大樹の森におったのじゃ?」

「それはイクスさまからファルさまの卵の様子を見てくるようにっておねがいされたからですよぅ~。成竜(おとな)じゃ体が大きすぎて目立つけど、子どものティアならこっそり行って帰ってこれるだろうって。でも森に入ったらおいしそうなお肉のにおいがして……」

「……で、まんまと人間の仕掛けた罠にかかったというわけか」

「キュゥ……で、でもでもっ、おかげでティアはリュージに会えたんですっ! 最初はこわい人間かと思ったけど、リュージはほんとうにこわい人間から必死にティアを守ってくれて、最後にはやさしくなでなでもしてくれて……!」

「なでなで……!?」


 と、何故か妙なところで後ろのイヴが反応を示し、ティアの意識がそちらへ向いた。彼女はイヴとよく似た空色の瞳を真ん丸に見開くと、いかにも興味津々といった様子でイヴを眺め出す。


「ほへ~……ところでファルさま、この方がうわさのイヴさまですよね? すごぉい、ほんとのほんとに竜と人間の魂、どっちも持ってるんだぁ……!」

「……待て、ティア。おんし、こやつを知っておるのか?」

「もちろん知ってますよぉ~! ティアが生まれたのはイヴさまよりずっとあとだから、直接お会いしたのは今回がはじめてですけど……イヴさまがむかし、天竜の頂で暮らしてたときのことはお父さまやお母さまから聞きましたぁ~」

「な……イヴが天竜の頂におったじゃと!?」

「へ? は、はい、そう聞いてますけど……ファルさまはイヴさまから聞いてないんですか?」

「残念ながら、見てのとおりこやつは片角が折れておる。そのときに受けたショックのせいか、イヴは人間に捕まる前の記憶があやふやなのじゃ。じゃがかつてはイクスのもとで暮らしていたというのなら、なにゆえこやつは今地上におるのか?」

「それは……」


 とジュンコに問い詰められたティアは左手の人差し指を顎に当て、ちょっと困ったような顔をした。ここまでのティアの言動を見る限り、イヴが天神竜の子であることは彼女も知るところのようだ。


 実はジュンコは以前、竜の園(ドラゴンメナジェリー)にいる竜たちにイヴと天神竜の関係について知らないかと聞いて回ったことがあるのだが、園にいる竜たちは言語も解さぬ低級種ばかりだからか、有益な情報は得られなかった。


 しかし天神竜に直接仕えるティアならば、子どもといえどもかなり踏み込んだところまで知っているのではないか、と、ジュンコは耳をそばだてる。


「うぅん……イヴさまのことはどこまで勝手に話していいのか分からないので、くわしくは言えませんけど、イクスさまはイヴさまのお母さまに裏切られたんです。そのせいで人間のことがすごくキライになっちゃって……それでイヴさまのことも〝けがれた血だ〟とおっしゃって、天竜の頂から追放されちゃったんですよぅ」

「追放じゃと?」

「はい。今回イクスさまがティアをファルさまのところへつかわしたのも、人間たちがあやしい動きをしてるから? らしくって……だから近くでファルさまをお守りするように言われてきたんですぅ」

「怪しい動き……というのは、竜殺し(ディメルテイヴ)(せがれ)が進めておるドラゴン・パーク計画のことか?」

「どらごんぱーく? は分かりませんけど、今の皇帝──フーヴェルオ三世とかいう人間が本当にイクスさまとの約束を守る気があるのか、ひじょーにあやしく思えてきたらしくってぇ……」

「イクスとの約束?」

「はい。ファルさまは今の皇帝と直接お会いになりましたか?」

「うむ。というか逆に()くが、おんしはあやつの魂がイクスの魂と融合していることを知っておるのか?」

「もちろん知ってますよぅ。あれはイクスさまが竜族を守るために、皇帝にかけた〝呪い〟ですから」

「呪い……じゃと?」

「はい。イクスさまは魂を半分ずつ交換することで皇帝を人質に取ったんですぅ。もしも人間が竜族を滅ぼすつもりなら、皇帝を道連れにして自分も死ぬ、と」


 まるで予想もしていなかったティアの答えに、ジュンコは愕然と立ち尽くした。

 人類による竜族の虐殺を止めるため──兄弟(イクス)が人間と魂を交換しただと?

 そんなことが可能なら、確かに人間側は皇帝を人質に取られたも同然になる。


 何故ならフーヴェルオの魂の半分を天神竜が持っているということは、彼が死ねばフーヴェルオも命を落とすことになるからだ。されどジュンコら古代竜エンシェント・ドラゴンは、たとえ死んでも神竜(グルガオンド)の加護により復活することができる。


 つまり結果的にはフーヴェルオだけが死に、天神竜は再び母大樹の森から生まれて、何事もなかったかのように君臨することとなるだろう。そう考えればフーヴェルオが竜殺しの息子でありながら、父親とは真逆の政策を打ち出したことにも頷ける。やつは自分の命を天神竜に握られて竜族との共存を迫られたのだ。


 おまけに現在フーヴェルオには世継ぎがいない。そのような状況で皇帝が崩御しようものなら、せっかく天下統一を成し遂げた帝国に再び乱が起きるのは火を見るよりも明らかだ。そうした事情があったなら、フーヴェルオが本気で竜族との共生を目指す竜司の言動に比較的寛容なのにも納得がいくというものだろう。


「……なるほど、そういうことじゃったのか。ちなみに、ティア。人間側に呪いの話を知る者はどれほどおるのじゃ?」

「うーん、ティアはくわしく知りませんけど、皇帝は自分が呪われてることをヒミツにしてるみたいだって、イクスさまは言ってましたぁ」

「やはりそうか。皇帝が実質竜の傀儡(かいらい)になっているなどと世に知られれば、反乱や暴動の火種になりかねんからのう。しかしそうなると、竜との共存を(うた)うフーヴェルオの主張は果たしてどこまでが本心なのか……イクスに脅されて仕方なく従っておるのか、あるいは本当に心を入れ替えて竜族との融和を目指しておるのか、そこが分からんことにはな……」

「あーーーっ、それそれ! それですよぅ!」


 と急に声を弾ませるが早いか、ティアはがばりと勢いよく立ち上がった。


 すると彼女の胸に実ったたわわな果実が大きく揺れる。中身が竜のジュンコはその様子を見ても何とも思わないが、人間の(オス)どもにとっては恐らく目に毒だ。


 こやつは何故よりにもよってこのような露出狂に化けて現れたのかと、ジュンコは今更ながらに冷ややかな目を向けた。が、当のティアはジュンコの心境などお構いなしに屈み込んで、胸もとの肉の塊をずずいと急接近させてくる。


「さすがはファルさま、イクスさまが気にされてたのもまさにそれなんです~! なんでも皇帝はイクスさまの(グローヴィ)を利用して、結構好き勝手やってるらしいじゃないですかぁ~。人間はどうがんばってもご神裔(エオグラルテ)の力には逆らえないからって、言霊(ネセス)でムリヤリ従わせたり、心読(レフィタヘト)で相手の心をあばいたりして……」

「ほう……ということは、やはりフーヴェルオは己の中にあるイクスの魂を使うことができるのじゃな? どうりでわしの正体も瞬時に見抜いてきたわけじゃ……」

「そうそう、そうなんですぅ~! だからイクスさまはファルさまを心配して……皇帝がイクスさまの氣を使えば、イクスさまにもちゃんと分かりますからね。ファルさまが今、皇帝のところにおられるって分かったのもそのおかげで……というかファルさま、火竜の淵(オヴナロク)に戻るおつもりはないんですか? 皇帝に正体がバレちゃったのに、いつまでもこんなところにいたら危険ですよぅ」

「分かっておる。されどわしはイクスとは違うやり方で竜族を救うべく、異界から竜司を連れてきた。ゆえに当面は傍で力を貸すつもりなのじゃ。フーヴェルオの真意の在処(ありか)は気になるが、ここにおればそちらも(おの)ずと見定められるやもしれん」

「むぅ……でも皇帝は少なくとも、ファルさまの存在をよく思ってはいないみたいですよ? ティアがファルさまの卵の様子を見てくるように言われたのだって、皇帝の命令を受けたこわい人たちが、覚醒後の母大樹の森に何度も出入りしてたからですしぃ……」

「……何じゃと?」

「ティアがケガをした罠だって、ほんとは生まれたばかりでおなかを空かせたファルさまが、お肉につられて寄ってくるようにしかけられたものじゃないかってイクスさまは疑ってました。あの人たちがファルさまを殺そうとしてたのか、生け捕りにしようとしてたのかまでは分かりませんけどぉ……」

「……」

「とにかくそういうわけなので、これからはティアがイクスさまに代わってファルさまのお傍を守るのです! ティアはリュージのおかげで成竜(おとな)顔負けのすんごいパワーをゲットしたので、きっとファルさまのお役に立てると思いますよぉ~!」

「……待て。そういえばおんしは先刻も似たようなことを言っておったが、竜司のおかげで力を手に入れたというのはどういうことじゃ?」

「へ? ファルさまは知っててリュージを連れてきたんじゃないんです?」

「わしは……」

「イクスさまも言ってましたよ、()()()()()()()()()()って。だって皇帝がイクスさまの氣を使ってムリヤリ従わせようとしたときも、リュージには効かなかったんですもん! いくら皇帝が持ってるのはイクスさまの魂の半分だけって言っても、そんなことができる人間は見たことがないってイクスさまもおどろいてました!」

「……じゃがそれとおんしが力を得たことと、何の関係がある?」

「そこはティアには分かりませんけど~、リュージの魂に触れたことで、ティアの魂が変化した可能性があるってイクスさまが……でもでも、ティアもそうかもって思うんです~! だってリュージの魂ってすごくあったかくて、お日さまみたいなにおいがしますよね!? あんなイイにおいがする魂と出会ったの、ティアははじめてですぅ!」

「わかる! リュージ、とっても、ぽかぽか!」

「はっ……! やっぱりイヴさまもそう思いますか~!? リュージの傍にいるとなんだかあったかくて、喉をごろごろしたくなりますよねっ!?」

「なる! イヴもよく、ごろごろする! なでなでされると、もっとする!」

「キュゥ~! 分かりますぅ! ティアももう一度、リュージになでなでしてほしいですぅ!」


 と、何やら一人と一匹がなでなで談義で盛り上がり始めたものの、ジュンコは彼女たちとは裏腹に、心に暗い影が落ちるのを感じた。


 そうだ。八俣(やまた)竜司の魂は特別だ。


 地球にいたときからそうだった。だからジュンコは彼に竜族の──否、()()()()()()()()の希望を見出だし、それらしい理由をつけてこの世界へ連れてきた。


 しかし竜司にはまだ真実を話していない。


 つまり自分は彼を騙しているも同然だ。だのに竜司はそんなジュンコを手放しで信用し、前世で交わした約束のために命懸けで竜を救おうとしてくれている。その事実が今更(とげ)のようにちくりとジュンコの胸を刺し、ひどく心を掻き乱した。


 ああ、まったく、らしくもない。


 相手はたかが人間で、自分は尊貴なる火神竜(エドゥ・ファルグム)だというのに。


(されど、まだ……まだ人間に知られるわけにはゆかぬのじゃ)


 これ以上人類の憎しみが竜族に向けられることがないように。


 やつの──冥神竜(アグドザード)の存在だけは。


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