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ドラゴン・パークをつくろう!  作者: 伊栄寿 大好
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全裸スタート


 俺が初めて『ジュラシック・パーク』を観たのは六歳のとき、つまり一九九三年の夏だった。特撮好きの親父に手を引かれ、恐竜がたくさん出てくる映画、という触れ込み以外何の予備知識もないまま、キンキンに冷えたコーラと山盛りのポップコーンを手に、スクリーンの前に座ったあの日が人生の原点だ。


 言わずと知れたハリウッド映画界の巨匠、スティーヴン・スピルバーグ。


 彼が生み出した機械仕掛けの、あるいは映画界に革命を起こした最先端CG技術により(よみがえ)った恐竜たちは、まるで今もこの世に実在しているかのごとく躍動し、当時まだ小学一年生だった俺の人生を軽々と変えてしまった。


 大袈裟に聞こえるかもしれないが、本当にそうとしか言いようがない。


 何故なら俺が子どもながらに大人顔負けの恐竜マニアとなり、恐竜そっくりの()虫類(ちゅうるい)や彼らの子孫だという鳥類に取り憑かれ、あげくの果てには東大に合格するよりも難しいとまで言われる動物園の飼育員を志し、夢を叶えて──


 そして今、すさまじい形相で弓を構えた大女(おおおんな)と愉快な仲間たちを前に、腰から下げた葉っぱ一枚という格好で絶体絶命の窮地に陥っているのも全部、あの映画と出会ってしまったせいだ。


 気分はさながら『ジュラシック』シリーズの四作目『ジュラシック・ワールド』で、主演のクリス・プラット演じる動物行動学者のオーウェンが、興奮した三頭の肉食恐竜(ヴェロキラプトル)をなだめるべく両手を広げ「下がれ」と言い聞かせるあのシーン。


 まあ、相手は恐竜ではなく血走った目をかっぴらいてこちらを睨む人間の集団なわけだが、連中が揃いも揃って俺の心臓に狙いを定めているのはどうやら、俺が先程から背にかばっているものが原因らしい。


「もう一度だけ言う。両手を頭に置いて(ひざまず)き、大人しく竜を渡せ」


 ああ、くそ。やっぱり言葉は通じてるよな。

 なのに俺の言い分はまるで無視かよ。こいつら一体何者だ?

 低くドスのきいた声で警告してきたのは連中のリーダーらしい巨体の女。

 身長はたぶん俺より高く、一八〇センチに迫るのではないかと思われる。


 見開かれた金色の瞳はまさしく狩人(ハンター)のそれで、たぶん俺が一歩でも身じろぎすれば、やつは本気で弓弦から手を放すだろう──いや、かと言ってじっとしていても最終的には()たれるか。こっちは今、クワズイモっぽい何かの葉っぱで辛うじて()を隠しているだけの、パンイチならぬイモイチだってのに。


 こう言うと年代がバレるだろうが、はっきり言ってはっぱ隊も真っ青の丸腰だ。


 というかほぼ全裸だ。


 だというのにこのまったく容赦のない殺気。あれを見る限り恐らく俺の助かる道は、言われたとおり無抵抗で降伏する以外にない。だが、たとえ軽く死にたくなるレベルの生き恥を晒そうとも、俺には退()けない理由があった。


 ちら、と肩越しに目をやれば、俺のすぐ後ろには柴犬(シバイヌ)の成犬くらいの大きさの白い(うろこ)を持った生き物。小型の獣脚類(じゅうきゃくるい)に似た後肢からは赤い血を流しており、サギのように長い首を竦めて完全に怯え切っている。俺もつい一時間ほど前に()()()()ばかりで、にわかには信じ難いが──やはり〝(ドラゴン)〟。そうとしか形容できない。


 何しろ背中に生えた飛膜状の翼も、角の生えた頭頂から背中にかけて走る銀色の(たてがみ)も、俺の記憶の中にあるいかなる恐竜、動物の知識とも合致しないのだ。ただひとつ、地球ではずっと空想上の生物と信じられてきたかの生き物を除いては。


「ってことはやっぱりここがジュンコの言ってた〝異世界(アゴログンド)〟ってことだよな……」


 ならば俺は退くわけにはいかない。何故なら()()()と約束したのだ。


 ここは竜と人間が同じ大地で生きる異世界、アゴログンド。


 俺はそのアゴログンドの竜たちを絶滅の危機から救うため、今、ここにいる。


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