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巡り愛  作者: 心ノ音
1/3

ビールとハイボールと餃子と

 ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ…

 枕元に置いたスマートフォンが一定のリズムで機械音を響かせる。仮眠室の外に漏れぬよう控えめに設定された音量を守り、決して急かすわけでもなくただ一定のリズムを刻む。ここ数年で一気に普及したスマートフォンの所有率は80%を超え、スマホと呼ばれ人々の生活に欠かせないものとなった。機械音をOFFにし、今野ありさは重たい体を起こす。窓のない仮眠室には朝日が差し込むこともなく、本当に朝がきているのか確認する術はない。肌ざわりの良いふわふわの自分の布団とは違い、仮眠室の薄っぺらいかけ布団とごわごわしたバスタオルを畳みありさはスマホに表示された時間を確認する。今日は三人の中で最後に仮眠を取ったため、勤務時間は残り3時間弱だ。スマホの画面にうっすら映り込む自分の顔を見ると、きのう出勤前に施したメイクはとっくに崩れている。

 仮眠室を出て更衣室で軽くメイクを直していると、後輩の内田愛莉が入ってきた。

「ありさ先輩、おはようございます!」

 その顔は夜勤明けと思えないほどばっちりメイクが施されている。

「おはよう。いつも朝からちゃんとメイクしててえらいねー。」

 言い訳をするつもりはないが、ありさにもそんな時代はあったのだ。仮眠前に一度きちんとメイクを落とし、少し早めに起きてメイクする。愛莉を見ていると入職一年目の頃の自分を思い出す。しかし、それも一年目までのことだった。うちの病棟では三人体制で夜勤を担当し、一人二時間ずつ交代で仮眠を取ることになっている。たった二時間しかない仮眠時間に、メイクを落として仮眠を取り、またメイクするとなれば当然仮眠を取れる時間はその分少なくなる。最初はそれでも、すっぴんに近い崩れたメイクを他人にさらすことのないよう、毎回しっかりメイクした。しかし、いつからか仮眠時間を削ってメイクするより、時間いっぱい仮眠を取ることを選ぶようになった。今ではメイクを落とさず仮眠し、朝は崩れかけたメイクを軽く直すだけになった。それは誰しもが通る道らしく、新人時代は毎回ばっちりメイクを決めていた人でも、だんだんそうなるらしい。もちろん中には、歳を重ねても新人時代から変わらずきちんと毎回メイクする女子力の高い人もいる。

「内田さん、私の仮眠中何もなかった?」

 更衣室には何か取りに来たらしい愛莉にありさは尋ねる。

「八号室の橋本さんからナースコールあって、喉が渇いたから水を下さいって言われたくらいですねー。」

 自分のロッカーをガサゴソしながら愛莉が答える。どうやらありさの仮眠中は病棟も平和だったらしい。三人が交代で仮眠を取る間、基本的には残った二人が深夜業務を行う。カルテの整理や翌日の薬や処置の準備などを行い、二時間に一回ラウンドと呼ばれる見回りを行う。患者のほとんどは入眠しているが、夜中でもナースコールは鳴る。夜中に急変が起こることも少なくない。二人で対応できない場合、仮眠中の看護師が起こされることもある。病院や病棟によって勤務体制は様々だ。

 ありさの勤務する星野宮総合病院は、名前の通り星野宮市にある総合病院だ。病床数300症程度はさほど大きい病院というわけではないが、患者は多くほとんど満床状態が続いている。ありさが配属されている七階病棟は主に整形外科の患者が入院している。患者の高齢化率は病院内でも上位に位置しているが、若い患者や子どもも少なくはない。高齢患者の中には認知症を患っている患者も多く、骨折がきっかけで寝たきりになり、残念なことのそのまま亡くなることも多い。看護師になって三年目、多くの患者を見送ってきた。元気になって退院していく患者を見送ることは喜ばしいが、患者の最期の時を見送ることも多かった。そしてこれからもきっと、たくさんの患者を見送ることになる。それが、ありさが選んだ仕事だ。

 仮眠に病棟に戻り患者に起床を呼びかけ、朝食を配膳する頃には日勤帯看護師が出勤し始める。新人ほど出勤時間は早く、朝のカンファレンス前に担当患者の情報を収集している。朝食の配膳を終え、日勤帯の看護師に申し送りするまでが夜勤看護師の任務だ。大きなトラブルや急変なく今日も夜勤を終えた。それは当たり前のようで意外と難しいことであったりする。

 帰り支度を終えたありさが更衣室を出ようとすると、膝丈のワンピースの裾をひら付かせながら愛莉が追いかけるように駆け寄ってくる。

「先輩、途中まで一緒に帰りましょう!」

 人懐っこく誰からも可愛がられるタイプの愛莉は、先輩看護師はもちろん患者からも人気者だ。特に高齢患者からは自分の孫のよう可愛がってもらっているらしい。入職して半年が経ち、業務や夜勤にも慣れてきたころだ。ありさは今年、愛莉のプリセプターをしている。いわゆる指導係的なことで、看護師の世界では近年多くの病院で取り入れている。新人看護師一人につき、三~四年目の看護師が指導係となり一年間かけて教育を行う。とは言ってもそこまで堅苦しいものでもない。少し前まで新人看護師の離職率の高さが社会的に問題になっていた。せっかく苦労して看護師国家資格を取得しても、業務の負担や対人関係の悩み、理想と現実のギャップに耐えられず一年以内に辞めてしまう看護師が増えていた。そこで、業務指導や悩み相談を行える指導看護師をつける制度が採り入れられた。あえてベテランではない、数年前まで新人だった三~四年目看護師を担当させることで、より新人看護師に寄り添うことができる。さらに、担当する側にも指導する立場に立つことで責任感や後輩を育成する力を養うことができるというメリットがあるらしい。

「愛莉ちゃん、最近仕事どう?悩みとかない?」

 ありさは、プライベートでのみ愛莉のことを「愛莉ちゃん」と呼ぶことにしている。仕事中、病院内で基本的にスタッフ同士は苗字で呼び合うことになっている。患者やその家族の前でスタッフ同士を下の名前やあだ名で呼び合うことを良しとしない風潮は、恐らくどこの病院も同じだ。

「大丈夫ですよ!仕事、楽しいです!」

 就職して半年となれば、仕事や対人関係に悩む人は多い。看護師に限らず、どんな社会人にも起こり得る。しかし、愛莉の表情に嘘はないらしい。中学卒業後、高校から五年一貫の看護過程のある学校を卒業して看護師になった愛莉はまだ二十歳を過ぎたばかりの今時女子だ。看護師としてはギリギリラインの明るく染められた髪にはゆるくパーマがかけられ、毎日最近流行りのファッションで通勤してくる。

「そう?なんかあったら何でも話してね。」

「はい!じゃあ、お疲れさまでした!」

 病院の正面玄関を出ると、愛莉はありさとは反対方向に向かって颯爽と歩き出す。病院近くの看護師寮に住む愛莉と、同じく病院近くではあるがアパートで一人暮らしするありさは帰る方向が違う。去っていく愛莉を見送り、ありさも自宅へと向かって歩き始める。九月も終わりに近づこうというのに、残暑は厳しく夜勤明けの重たい体に太陽がさんさんと降り注ぐ。帰ったら、溜まっている洗濯物をベランダいっぱいに広げよう。絶好の洗濯日和の空を見上げながら、ありさは家路につく。今日は金曜日。夕方いつものようにやってくるであろう彼のために夕飯の買い出しにも行きたいが、この暑さでは外に出るのもなかなか気が滅入りそうだ。二時間しっかり仮眠を取れたおかげで、体は重たいが頭はすっきり目覚めている。午前中のうちに家のことを済ませて、午後はのんびり読書でもしながら過ごすのがありさの夜勤明けの定番になっている。もちろん用事があれば夜勤明けでも出かけるし、十分な仮眠が取れなかった日には家に着くと同時にベッドに倒れこむこともある。元々睡眠時間が短くても平気な体質のありさだが、年齢には逆らえないらしく、夜勤明けの体に疲労が蓄積するのを年々感じるようになった。ちょっと前まで夜勤明けの夜は市街に繰り出し朝まで飲み明かしても平気だったが、最近は飲酒の量も減り外で飲むこと自体随分減った。気付けばあと数日で二十八歳になろうとしている。


 看護師になって三年目の秋。仕事には慣れたし、後輩もできた。遠回りした分、年齢は少し上になってしまったが、同期や友人にも恵まれ毎日充実している。ありさは高校卒業後の四年間を資格を持たない看護助手として働いていた。母親の真由美が看護師として働く姿を見て育ったため、看護師という職業は最も身近ではあった。しかしなんとなく看護師になる決意を持てないまま、とりあえず看護助手として病院で働く道を選んだ。気付けば四年が経っていた。看護助手として病院で働き、患者と触れ合い、看護師の働く姿を一番近くで見るうちにいつの間にか新人看護師より病院のことに詳しくなり、看護師と変わらないレベルの知識や技術が身についていた。しかし、看護助手に資格はない。看護師と同じように働くことはできない。当然、給料も低くもどかしさを感じるようになった。同じように看護助手として働くスタッフの多くは、パートタイムでしか働くことのできない子育て中の主婦や、お小遣い稼ぎにと働きに出る主婦がほとんどだ。まだ若く、結婚もしていないありさが看護助手として働くことに疑問を持つ人も多かった。周囲の後押しもあり、ありさが社会人でも入学できる看護専門学校を受験することを決めたのは二十三歳になる年のことだった。高校卒業後に看護師を目指して進学していればとっくに看護師として就職していることになる歳だ。実際、中学や高校の同級生の中には看護師として国家資格を持って働き始めている友人もいた。三年間の看護学校生活は、看護助手時代に身に着けた知識と技術のおかげもあり、若い同級生に負けず劣らずの優秀な成績で過ごすことができた。以外にも社会人経験をしたのちに看護師を目指す人は少なくないらしく、クラスの二割程はありさと同じように社会人枠で入学していた。結婚して子どもを育てながら通う人、看護とは全く関係ない仕事から転職を決意した人、親の介護をきっかけに看護師を目指した人、理由も経歴も様々な生徒が看護師を目指す場所だった。

 看護学校に進むと決めた時、誰よりも応援してくれたのが母の真由美だった。ありさには父親がいない。正確には、ありさがこの世に存在する以上、この世界のどこか生物学上父親と呼ばれる人は存在する。しかし、ありさはそれがどこの誰かを知らない。会ったことはもちろん、名前もどこで何をしているのか、現在生きているのか死んでいるのかさえ知らない。生まれた時からありさには母親しかいなかった。看護師をしながら女手一つでありさを育ててくれた真由美が、母親であり父親だった。父親について真由美から聞いたことはない。小さい頃、一度だけありさは真由美に聞いたことがある。

「どうして私にはお父さんいないの?」

 ありさの問いに真由美は小さなその体を抱きしめて言った。

「ごめんね。でも、ありさのお母さんは私で、お父さんも私だからね。」

 その声が震えていることにありさは気づいていた。初めて見る母親の目に光る涙をありさは忘れることはなかった。それ以来、ありさが父親について口にすることはなかった。ただ一度だけ、真由美の鏡台で遊んでいた時、引き出しっをひっくり返してしまったことがある。キラキラ輝くネックレスやピアスと一緒に、引き出しの一番奥にあった一枚の写真。そこには、真由美にそっくりの若い女性と、スーツ姿の男性が肩を寄せ合い微笑んでいた。ありさは母親の秘密を覗いてしまったような気がして、慌ててその写真を元に戻した。今思えば、あれは若い頃の真由美だったのだろう。しかしそれ以来、二度とその引き出しを開けることはなかった。写真に写る男性はもしかしたらありさの父親だったかもしれない。しかし、それはもうどうでも良いような気がした。例えそうであったとしても、それを知って何になるというのか。真由美が笑顔でいてくれればそれで良い。だからありさは今も、父親について何も知らないままだ。


  いつの間にか眠ってしまったらしい。傍らには読みかけの文庫本が落ちている。ふと見上げた壁かけ時計は夕方四時を指している。ほんの少し居眠りした程度と思っていたが、どうやら二時間近くも眠ってしまっていたらしい。さっきまで降り注いでいた夏の日差しは、西へと傾きかけている。買い物に行って夕飯の支度を始める時間だ。今夜は彼の好きな餃子を作ろう。ビールとハイボールも準備しておこうか。

 寝汗で湿ったTシャツを着替え、近所のスーパーに向かう。すれ違うカラフルなランドセルの集団を眺めながら、あの頃当たり前だった赤や黒のランドセルを背負う子どもの少なさに驚く。青や黄色、ピンクや紫のカラフルなランドセルが最近の流行りらしい。ありさのランドセルはもちろん赤色だった。真由美とランドセルを買いに行った日のことは不思議と今でも覚えている。特に何か特別なエピソードがあるわけではない。ただ、真由美と手を繋いで、いつもは外観を眺めて通り過ぎるだけのデパートに行って、たくさん並んだランドセルの中から、一番気に入った物を買ってもらった。最近は近場のショッピングモールなんかでもランドセルが販売されているが、あの頃は滅多に訪れることのないデパートに連れて行ってもらい、高級な衣料品や宝石が並ぶ売り場を抜けて季節限定で開設されたランドセル売り場に人々が殺到したものだ。

 スーパーで餃子の材料を買揃え、ビールとハイボールも買った。そろそろ彼の仕事も終わる時間だ。しかし、定時と同時に帰路につくことのできる仕事ではない。ありさ自身もそうであるため、お互い仕事に対する理解はしている方だと思う。ただ、曜日関係なく出勤するため曜日感覚に乏しいありさに比べ、土日休みで夜勤もない彼は週末に飲み会やイベントを楽しむことができる。そのため、ありさが仕事でない限りなるべく週末は二人で過ごすことにしている。お互いインドア派で特に用事がなければ出かけることもないため、いわゆるおうちデートがほとんどだ。しかも、共通の趣味と呼べるものが読書くらいしかないため、一緒にいてもお互い好きな本を読んで過ごすこともしばしばだ。友達や後輩には、それで楽しいの?と聞かれることもあるけれど、ありさにとっては同じ空間で背中合わせに彼の熱を感じながら好きな本を読む週末はこの上なく幸せな時間だ。

 作り終えた餃子はあとはフライパンに並べて焼くだけの状態にして、冷蔵庫に余っていた野菜で中華風スープを作ることにした。中学生の頃から、仕事で帰りが遅くなることも多い真由美に代わって軽い食事くらいは作っていたし、高校生になってからは毎日自分で弁当を作っていたこともあり、ありさは料理が好きだ。特別料理の腕が良いわけではないが、雑誌や料理番組の見よう見まねで人並程度の料理なら作れるようになった。真由美が休みの日や帰りが早い日には一緒に台所に立ち、食事の準備をすることもあった。家庭の味と呼ぶほどのものではなかったが、真由美が作ってくれていた料理のほとんどをありさは自然と覚えていった。最近ではネットで様々なレシピを検索できる。食材の名前で検索するだけで、超簡単お手頃のものから、レストラン顔負けの本格料理まで素人でもそれなりの料理ができるようになった。

 ブーブーブー

 ポケットでスマホが震え、取り出したスマホには彼からのラインを知らせる通知が画面に表示される。

”今から行くね。今日は先にお風呂入りたいな。”

 彼の職場からここまでバスで十程だ。彼はだいたいバスに乗り込むと同時にラインを送ってくる。職場を出る時にラインをしても、バスを待つ時間次第では必要以上にありさを待たせることのなるからだと言っていた。確かに、バスに乗ってしまえば十分ほどで到着するため、待つ側としても効率は良い。彼は何事も、いかに効率的に物事を進めるか考えている節がある。限られた時間や物を無駄にしないという彼の考えにありさとしても関心させられることがある。到着と同時に食事またはお風呂の準備が整えられるようにと、ラインには必ずどちらを先にするかまで示されている。それに従い、ありさはお風呂を入れる準備を始める。ここだけ聞くと、自分の帰宅に合わせて食事やお風呂の準備を整えろと言っているようで、亭主関白に思われがちだが、逆の場合も同様のやり取りがなされる。つまり、ありさが彼の自宅に行く場合、どちらを先にするかありさが示すことになっている。もちろん待つ側にも選択の権利はあり、料理の準備が間に合っていない場合など、お風呂から先にしてほしいと伝えることもある。ありさとしてもこのやり取りは効率良く準備をすることができ、結果として時間を有効活用することで一緒に過ごす時間を増やすことに繋がっていると感じている。

 ピーンポーン

「はーい」

 インターフォン越しに彼の姿を確認し、オートロックの解除ボタンを押す。付き合ってもうすぐ一年が経つが、合鍵は渡していない。

「ただいまー」

 ドアを開けると同時に彼、結城涼介がありさに抱き着く。受け止めるようにありさもまた涼介の腰に腕を回す。短い抱擁を交わし、ありさは涼介から仕事用のカバンを受け取った。革靴を脱ぎ、きちんと玄関に揃えて、涼介が部屋に入ってくる。

「あー疲れたー」

 スーツに肘までまくった白シャツのネクタイを緩めながら、涼介が天を仰ぐ。涼介がネクタイを緩める姿が、ありさは一番好きだ。世に言うスーツフェチというわけではないが、びしっと決めていたスーツ姿から、無防備な姿に変わっていく瞬間。自分しか知らないその姿が愛しく、壊れるほど激しく抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。

「ん?どうした?」

 ありさの視線に気づいた涼介が目線を合わせてくる。涼介は背が高い。女性の平均身長のありさと目線を合わせる時、涼介は少し前かがみになる。キスをする時も、涼介は首を曲げてありさの顔を包み込むように持ち上げるのに対し、ありさは少し背伸びをする。まるで人気女性シンガーの恋愛ソングの歌詞みたいなキス。

「なんでもないよ。お風呂、準備できてるよ。」

「ありがと。ありさも一緒に入ろ?」

 ありさの顔を覗き込みながら、涼介が甘えた声を出す。その手はすでに、ありさのTシャツの裾も持ち上げ始めている。

「自分で脱げるよ~」

 結局お互いの服を脱がせ合いながら浴室へ向かった。涼介の細い腰のラインがはだけた白シャツの下から露わになる。部屋から浴室まで、二人の洋服が道標のように脱ぎ捨てられていく。普段なら絶対にこんなことしないのに、今はそんなこと気にならない。とにかく一秒でも長く触れ合っていたい。

 明日は休みを取った。さすがに毎週末というわけにはいかないが、月に何回か週末の休みを合わせることにしている。今夜と明日の夜まで一緒に過ごす。

「なあ、明日は久しぶり出かけない?」

 二人で体を洗い合ったあと、小さな浴槽に二人で浸かりながら涼介が言う。小さなアパートの小さな浴槽で身を寄せ合いながら、翌日の計画を立てる時間。寄せ合った肌のぬくもりと心地よい温度のお湯が体を包み込み、それだけで幸せな気持ちになる。

「どこか行きたい所あるの?」

「ありさ、ひまわり好き?隣町にひまわり畑があって、今が見頃らしいよ。」

 隣町のひまわり畑ならありさも聞いたことがある。職場で先輩達が話していた。ひまわりといえば八月のイメージだったが、少し涼しくなってきた九月頃はより見頃らしい。いつも家の中で過ごすだけだから、たまには外に出るのも良い。

「行きたい!行こう!」

「よし、決まり!その近くに古民家カフェがあるみたいで、そこもお薦めって聞いたからそこでランチしようか?」

「うん!楽しみ~」

 お風呂から上がったら、ビールとハイボールを飲みながら餃子を食べよう。明日は何を着て行こうかな。大好きな人と過ごす休日が始まる。


 


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