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恨みを重ねて〜恨みが宿る病院〜

作者: イトユウ

単なる事故であるはずだった。


僕は母さんと一緒に地元の県立病院に来ていた。


夜遅い時間だが、母さんが無理を言ったらしい。


といってもそもそも、ありえない話である。


二週間前、父さんが帰宅中に飛び出した子供を助けようとして車に轢かれ、死んだ。


警察は何を考えたか、事件性があるからと、父の遺体解剖の許可を打診してきた。


親族への許可は、絶対とらなければならないようである。


最初、母さんは猛烈に反対していたようだったけど、最終的には父さんが死んだ原因を明らかにしたいと解剖の許可をした。


遺体の解剖が、いつされたのか。


僕等親族にも知らされなかった。


父さんと会わせてもらえると連絡があったのは、父さんが死んで二週間が経った時のことであった。


死体安置所で、母さんは父さんの亡骸を見たとたん母さんは目の前で泣き崩れた。


僕はと言えば、涙も出てこなかった。


解剖の結果、子供もろとも車道に押されたことが判明した。


何でも、父さんの遺体が子供を庇ったような怪我ではないということだった。


怒りを通り越して恨みにも似た感情だ。


その父さんを押した犯人は、すぐに捕まったようだ。


事件現場近くの会社に勤める男性のサラリーマンで、仕事で大きなミスをし、減俸になり自暴自棄になり、むしゃくしゃして目の前をたまたま歩いていた、父さんと子供を押したとの事だった。


ミスをしたとか減俸とか、こっちからしてみたら何の関係もなく、父さんの命を奪ったその犯人をこの手で殺したい気持ちだ。


そして、その時は来た。


僕と母さんがその県立病院で父さんの遺体の移送場所等を話し合っている時、突然病院に来たのだ。


「安藤さんの家族に会わしてください」


その男は受け付けで大声で叫んでいた。


受け付け嬢は綺麗に化粧した顔を歪め何のことか問い質していた。


「二週間前、ここに運ばれた遺体の家族のことだ!分からないわけがないだろ!」


受け付け嬢はそういうプライベートな事は許可なく教える事は出来ないと突き放していた。


僕はいてもたってもいられず、その男に詰め寄ると男の頬を目一杯握りしめた拳で殴った。


「俺があんたの探している息子だよ!どのツラ下げて来たんだ!」


僕の身体中は何か不思議な熱に包まれていた。


男は倒れたまま泣きながら「すいません、すいません」と何回も頭を床に擦り付けた。


「謝られても、父さんは返ってこないんだよ。お前みたいなクズが生き残って、何で真面目に働いていた父さんが死ななきゃならないんだ!」


すると、僕の呼吸に合わせるかのように、病院全体が揺れだした。


ものすごい揺れで、立っているのがやっとであった。


すると男の遥か真上から、割れた手すりが降ってきた。


僕が危ないというより先に、男の頭に手すりの先端から突き刺さっていた。


こだます悲鳴。


逃げ惑う人々。


上を見ると、割れた手すりがひん曲がり、更に落ちてこようと、ユラユラと揺れていた。


こんなんじゃ足りない。


そう思った瞬間その揺れていた手すりが、今度は男の背中に突き刺さった。


頭に突き刺さった時点で生き絶えていた男の背中に刺さった手すりが真っ直ぐに真上に聳えていた。




その後、僕の周りでは僕が恨んだ人が次々と死んでいった。


僕は恐くなり、再び県立病院に行くと、院長先生に呼び出された。


「君の中には妙なものが住み着いておる。君の周りで起きた出来事は、その仕業じゃ。早く追い出したいところじゃが、それには更なる生贄が必要じゃ。用心する事じゃ」


僕は更に恐くなり、家にこもっていた。


僕は誰とも関わっちゃいけないんだ。


あと何人犠牲者を出せば、僕は普通に戻れるんだ。


あの病院で何が僕にあったんだ。


数日後、院長先生から連絡があり、再び県立病院に行くことになった。


すると院長先生は思いもよらない事を言い出した。


「今から、一緒に死体安置所に行くぞ。どうやら死んでいる人間に、生きている人にすれば死ぬであろう事をすればカウントに入るようじゃ」


「カウントってゲームじゃあるまいし」


「君のその人を恨む心に隙があったんじゃ。ゲームじゃないなどどうでも良い。とにかくそうでないと、犠牲者が増えるだけじゃ」


僕は意を決して死体安置所に院長先生と共に向かった。


数週間前、父が安置されていた部屋には全く別の女性が横たわっていた。


「ほれ、早くやるのじゃ。生前はアイドルはやっておったようで、身体つきは君みたいな思春期の男にとっては触りたくなる身体つきじゃが、情がうつるから、カバーの上から刺すのじゃ」


院長先生は一つのナイフを僕に渡した。


僕は恐る恐る遺体に近づくと、目一杯目を瞑り、ナイフを突き刺した。


すると、次の瞬間その遺体の上のカバーは血で染まっていた。


僕は目を見張り院長先生に怒鳴った。


「どういう事ですか!血が出てるじゃないですか。血が流れてるって事は生きてるって事じゃ」


すると、病院全体が揺れだした。


あの時と同じだ。


僕の院長先生に対する感情が恨みだったのか。


院長先生は高笑いと共に、スライムのように溶け出した。


上から天井の一部がそのスライム目指した落下していく。


しかし、スライムは細かく動き回り、直撃を上手く避けている。


「どうなってるんだ!」


僕は頭を抱えてその場にうずくまった。


すると、女の子の声が僕の耳にこだました。


『よくも私を刺したな!呪ってやる!お前が死ぬまで呪ってやる!』


僕の呼吸は苦しくなり、次第に息ができなくなっていた。


人の恨みは更に別の人の恨みを産む。


この恨みの根源は何処なんだ。


あの犯人の男が恨んでいたのは会社の上司か。


それとも得意先か。


僕は目の前が真っ白になりながらそんな事を考えていた。


そして僕は思いついたんだ。


僕がこんな事に巻き込まれたのは、そもそもこの病院の謎の力のせいだ。


僕の意識が無くなった一時間後、その県立病院に大型飛行機が墜落したのは、僕の知るよしもなかった。




「ほら、ご飯だよ」


私は、一ヶ月もしないうちに二人の大切な人を亡くした。


旦那と息子。


三人で遊びに行った際に撮影した写真は、私の宝物になっていた。


私の前にいるこの子は、誰もが知らなくても良い事だ。


だってそれを知ったら誰も私に話しかけてこなくなるだろうから。


この子は息子が死んだ大型飛行機墜落事故を起こしたパイロットの一人息子なんだから。


そしてその子も今はもう息はしていない。


私が殺したんだ!


あのパイロットに同じ気持ちを味わしてやりたくて。


私は怪しく微笑みながら、その子の前にカレーライスを置いたのであった。


そしてその翌日、私は車の玉突き事故に巻き込まれて……死んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] いろいろと惜しさを感じます。 もっと練り上げて組み立てればよいホラーストーリーとなると思いました。
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