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3-1

太陽は沈み、空には無数の明るい星が輝いていた。

 月明かりの差し込む部屋にキングサイズのベッドが置かれていた。そこに、巫女服を着た少女が寝ている。

 雪のように白い肌に、頬が仄かに桜色に染まっていた。柔らかそうな唇から安らかな寝息が漏れている。

見ているキョウヤまで思わず眠りに誘われそうになる。

 しばらくアリシアを眺めていると、閉じられていたまぶたが静かに開かれる。

「…………んん……こ、ここは………………」

「ようやく起きたか?」

「ん? キョウヤ?」

「随分うなされていたみたいだけど、大丈夫か?」

「あっ、そっか…………私、鬼と魔女の戦いを止めて、それで…………」

 アリシアが上半身を起こした。

「キョウヤが助けてくれたの?」

「そうだよ。他に誰がいるんだよ」

「そ、そう………………」

 アリシアは何か考え込むようにしばらく黙った後、布団を体に抱き寄せて、顔を赤くする。

「って、私が寝ている間に、え、エッチ、なこととかしてないわよね?」

「するわけないだろう! ったく、どこまで俺のことを信用してないんだよ。ただ見ていただけだから安心しろよな」

「それはそれで、寝顔をずっと見られていたのも恥ずかしい気がするわ………………」

 アリシアは真っ赤になった顔を隠すようにさらに布団を引き寄せた。

「じゃあ、どうして、ベッドが一つしかない部屋を選んだの? もしかして、キョウヤは私と一緒に寝たいの?」

「ち、違う! この部屋しか空いてなかったんだよ」

 アリシアはジト目でキョウヤを見てくる。

「本当に?」

「本当だって。なんなら後で受付の人に確かめてみろよ。なんでも急に魔獣が増えて、襲われて怪我した商人や観光客のせいで、近くの宿もいっぱいだったんだ」

「魔獣………………………………」

 アリシアが落ち込むように顔を伏せる。枕を手に取りぎゅっと抱いた。

 アリシアも森で狼の魔獣に襲われていたから、襲われた人の恐怖や痛みがわかるのだろう。

「とにかく、今日はしっかり休めよ。明日からこの封印を解くための方法を探して忙しくなるからな」

 キョウヤは左手首にはまったブレスレットを指す。

 アリシアの右手首にもキョウヤと同じブレスレットが月明かりを受けて光っていた。

 封印といってもキョウヤ自身、何かを封印されている雰囲気はない。

 炎を生み出し、操ることもできる。アリシアが好きという気持ちを除いて、今のところ異常は見つからない。

 邪神を封印するための封印具らしいから、おそらく、邪神にしか効果がないのだろう。

 このブレスレットのせいで、キョウヤがどれほど苦しんだことか。

 アリシアのことが好きという感情を心に刻まれたせいで、アリシアを見るだけで心がときめいてしまう。アリシアは寝ていたとはいえ、部屋にアリシアと二人きりという状況は変わりなかった。

 何度、アリシアを抱きしめたいという衝動に駆られ、抑えたことか。部屋を出てもよかったが、眠ったままのアリシアを一人にすることが心配で心配でしょうがなかった。

結局、アリシアが起きるまでずっと寝顔を見ていることになったのだった。

アリシアにはキョウヤの苦しみが少しもわかっていないだろう。アリシアは暑そうに上着をはためかせていた。

ちらりと見える胸元が目に毒だった。キョウヤは目を逸した。

アリシアは胸元がキョウヤに見えていることなど全然気にしていないようだった。単純に気づいていないからかもしれない。

「ちょっと、汗かいたみたいだからお風呂に入るわね。だから………………」

「だから?」

 アリシアが恥ずかしそうに、もじもじとしている。

 アリシアは次にこういうであろうと予想した。「ぜ、絶対に、覗かないでよ……覗いたら許さないんだから…………」と。

 キョウヤがアリシアのお風呂に入っているところを覗くとでも思われているのだろうか。当然のことか。アリシアはキョウヤのことを信用していないのだから。

もちろん、キョウヤはアリシアの入浴を覗こうだなんて思っていない。アリシアにはゆっくりと休んで欲しかった。

アリシアの行動は概ねキョウヤの予想通りだったが、予想のさらに上をいった。

 キョウヤは部屋から追い出され、ガチャリと部屋の鍵が閉まる音が聞こえた。

「おいおい、これは…………俺って、とことん信用されていなんだな……………」

 キョウヤの心が少し傷ついた。



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