6-3
デーモンが炎を放った街では必死の避難誘導がされていた。
「皆さん、押し合わず逃げてください。こちらから街の外に出られます」
人々が避難指示に従って歩いていくなか、座り込んだ小さな女の子がいた。
一人の神官の少女が声をかける。
「どうしたんですか? 足をくじいたのですか?」
女の子は涙目で頷いた。
神官の少女は女の子が手で押さえている足に手をかざした。
「女神よ、傷を負った者の痛みを癒やし給え」
淡い光が女の子の足を包み込んだ。
「はい、治療完了です。もう、動けますよ」
女の子が立ち上がると、治った足で数歩歩き、飛び跳ねた。
「ありがとう。神官のおねえさん」
「お母さんかお父さんと一緒に逃げてこなかったの?」
「お母さんとはぐれて…………あっ、お母さん」
女の子が母親を見つけたのか、走ってその人物の足に抱きついた。
「怖かったよ」
「もう、あれほど、迷子にならないようにって言ったのに。今度は手を離したらダメよ」
「うん」
女性が神官の少女に頭を下げると、避難する人々の列に消えていった。
神官の少女の後ろから少女が声をかけてきた。
「――あっ、こんなところにいた! テリーヌ! 探したのよ」
「リエット。どうしてここに? 避難誘導はいいの?」
テリーヌと同じ衣装をまとった神官の少女――リエットが錫杖を地面についた。
「この地区の避難誘導はもう終わったわ。どうしてそんなにのんびりしているの? 今は緊急事態なのよ! もうちょっと緊張感を持ちなさい」
「そんなこと言われても、性格だから」
「はいはい、わかりました。とにかく次の地区へ移動するわよ。もしかしたら逃げ遅れた住民が残っているかもしれないから」
リエットがテリーヌの手を引っ張って、移動を開始する。
リエットに連れられてテリーヌが少し駆け足になる。
「ねぇ、リエット。お姉さまはどこにいるのかな?」
「そんなこと私が知るわけないでしょ。でも、心配しなくても大丈夫よ」
リエットがテリーヌの手を強く抱きしめる。
「お姉さまのことだから、困っている人のために救済の手を差し伸べているに違いないわ。もしかしたら、あの黒い球体の対処に当たっているかもね。お姉さまが頑張っているのだから、私達も頑張りましょう。私達にしかできないことがあるはずよ」
「そうだね。女神の恩恵は神官である私達にしか届けられないからね」
テリーヌはリエットに引きつられながら、後ろの黒い球体を振り返った。
光を一切反射せず、中がどうなっているかもわからない謎の球体。
テリーヌは首にかけたロザリオを片手で握った。
「お姉さま……どうかご無事で」
それからテリーヌが後ろを振り返ることはなかった。




