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5-2

 アリシアが目を覚ました。どうやら意識を失っていたようだ。

 アリシアはヌメヌメした床から上体を起こした。胴体を縛るように幾重にも植物のつるのようなものが巻き付いていた。


「ちょっと、何よ、これ? …………それに何、この液体」


体に付着した液体がドロっと床に垂れた。


「ヌメヌメして気持ち悪い…………早く、脱出しないと」


 アリシアは身をひねり、片腕を蔦から抜いた。もう片方の腕も蔦から取り出し、胴体に絡みついた蔦から脱出する。

 アリシアは手で体にまとわりつくスライムのような液体を払う。


「ヌメヌメした液体のおかげで、簡単に蔦から抜けられたけど、ここは、どこよ? キョウヤ、いるなら返事をしなさいっ!」


 返答はなかった。


「やっぱり、近くにはいないみたいね。それにしても、ここはどこなの? 本当に森の中?」


 辺りは壁に覆われていた。アリシアは壁に触れてみた。


「壁もヌルヌルしてるわね…………っん! 動いた!」


 壁が波打つように鼓動したのだ。壁だけでなく床も鼓動し、ぐにゃっと歪む。アリシアはバランスを崩し、尻もちをついた。


「イタタタ。一体、どうなっているのよ! このっ!」


 アリシアが壁を蹴る。壁は柔らかく、バネのようにアリシアの足を弾き返す。

 再び、壁と床が振動し、アリシアは転倒する。


「もうっ、ここは、一体、どこなのよっ!」


 アリシアが怒鳴り散らすが、それに応える者は誰もいない。

 ピトッと一滴の液体が頭上から降ってきた。天上が雨漏りでもしているかのように、複数箇所から液体が垂れてきていた。

 液体の一滴がアリシアの肩に落ちた。


「痛っ。今度は何?」


 アリシアは肩に針が刺さったような鋭い痛みと焼けるような痛みを感じた。肩に触れると、衣服が溶けていた。先程の痛みは液体が肌に触れたことによる痛みだった。

 落ちてくる液体を避けるようにアリシアは壁に背中をくっつけた。

 液体が垂れてくるスピードは衰えるどころか、ポタポタと次第に量を増していた。


「これって、まさか………………」


 床に溜まってきた液体の中に骨が転がっていた。それを見て、アリシアの予想が確信に変わった。


「消化液! ここは、植物の中なの? 冗談じゃないわ。植物に消化させられるなんて、ごめんよ」


 アリシアが手を掲げて叫ぶ。


「来て、キョウヤ!」


 だが、アリシアの叫びも虚しく、何も起こらなかった。


「何よ、呼んでもいないときに来るくせに、肝心なときには来ないんだから。キョウヤのバカ!」


 アリシアはキョウヤを呼ぶことをあきらめる。自身の周りに結界を張り、消化液を防ぐ。


「これで、消化液はなんとかなったけど、どうやって脱出したらいいのかしら? キョウヤ達が来るのを待つしか…………」


 アリシアはかぶりをブンブンと横に振った。


「いやいや、どうして、キョウヤに頼っているのよ、私」


 アリシアは両手で自分の頬を叩いて気合を入れる。


「今まで、一人で生きてきたじゃない。魔女も鬼も神官も信用できない。もちろん、ただの人間も。キョウヤが助けに来る保証なんてない。むしろ、キョウヤは私が消えてくれた方がいいと思っているに違いないわ。思えば、キョウヤには色々とひどいことをしてきた。嫌われて当然よね。キョウヤだけじゃない…………この世界に住む全ての人が私の死を望んでいる。どうして、誰もが抱く願いを叶えることすら許されないのかしら」


 突然、頭がくらっとした。アリシアは頭を押さえる。


「あれっ、どうしたんだろう。視界がぼやける。なんだかとても眠い…………」


 今まで気が付かなかったが、辺りにキラキラと輝く粉が舞っていた。

結界の効果で内と外を分離している。結界の外から内へ物質が移動することはできない。しかし、分離する前に入り込んだ空気の中に既に何かが入り込んでいたとしたら。


「…………これは、まずいかも。睡眠作用があるみたいね。意識が保てない…………でも、意識を保っていないと結界が消える」


 アリシアは朦朧とする意識を保ちながら、結界の維持に意識を集中させる。もし、結界が解けてしまえば、消化液に肉を溶かされ、床に転がる骨と同じ結末を迎えてしまう。それだけは避けなければならなかった。

 アリシアは何度も閉じかけるまぶたを必死に持ち上げる。


「…………キョウヤ…………早く、来……て…………」



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