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第五章魔獣討伐
マリアに依頼され、キョウヤとアリシア、サクラ、マリアの四人で魔獣討伐に行くことになった。
魔獣は街の外れにある森の奥にいるということで、目的地を目指して進んでいた。
キョウヤはサクラのことをアリシアに簡単に説明した。サクラが鬼の力を持つ少女であること。勝負をして敗北したサクラがキョウヤに付き従っていること。アリシアに話さなかったことがある。それが、サクラが封印の解除方法を知っていることと、その解除方法についてだ。
アリシアはサクラのことどうでもいいというように
「好きにすれば」
と言っただけだった。
アリシアもキョウヤにかけられた封印を解除したいという気持ちは同じだが、その後の行動方針が違った。
アリシアは邪神の完全封印が目的だ。綻びが生じた封印を修復し、世界の秩序を取り戻すために旅を続けるだろう。しかし、キョウヤは邪神のことなどどうでもよかった。
邪神が復活すれば、世界の秩序は失われる。魔獣が好き放題に暴れまわる無秩序な世界が待っているかもしれない。だけど、それがどうしたというのだろうか。
たとえ、世界は混沌の闇に覆い尽くされたとしても、何にも縛られることなく、自由に生きることができるならば、それでいいとキョウヤは思っていた。少なくとも、アリシアに心を束縛されている今よりはマシだ。
封印のブレスレットを外すことができれば、即座に遠くへ行く計画だった。アリシアに再び、変な封印をかけられては面倒だからだ。
サクラから封印の解除方法を聞いて、状況が変わった。
キョウヤの封印を解除するためには、アリシアが死ななければならない。
アリシアは戦闘において、特に強いわけではない。キョウヤが本気で戦えば、余裕で勝てるだろう。けれど、問題はそこではない。
キョウヤはアリシアのことが好きなのだ。本気で戦えるわけがない。そもそも、アリシアを見つめるだけで心がときめいてしまう。傷つけるなんて論外だ。
いくら偽りの感情であるとはいえ、キョウヤがアリシアのことを好きである以上、アリシアが死ぬような状況になれば、体が勝手に反応してアリシアを守ってしまう。
何を犠牲にしても封印を解除すると誓ったが、アリシアを殺して封印を解除することはできない。
だが、このままでは、一生封印が解除されることはない。
死ぬまで、アリシアが好きだという感情に悩まされることになる。
それは避けたいが、アリシアを殺すなんてできない。
キョウヤは出口のない迷宮で、同じ道を何度も行ったり、来たりしていた。
「一体、俺はどうしたらいいんだ……………………」
「キョウ…………サマ…………キョウヤ、様!」
「わぁ、なんだ、急に」
マリアが頬をお餅のように膨らませていた。
「キョウヤ様、さっきから、何を一人で難しい顔をしているんですか? せっかく、こうして一緒にいるのに、お話できず、つまらないです」
「いいだろう、別に。そもそも、話をするためじゃなくて、魔獣を討伐しにきたことをわかっているのか?」
「もちろんです。今回は、キョウヤ様とマリアの初めての共同作業です。私達の愛の前に魔獣なんて一撃で葬り去ってみせましょうね」
「…………んっ!」
キョウヤは背中からアリシアの刺さるような視線を感じた。
アリシアはわざとらしく咳払いをした。
「お二人は、随分と仲がいいのね。キョウヤ、誰を守らなきゃいけないか、わかっているわよね?」
「と、当然だろ。じゃなきゃ、こんな魔獣退治に来るわけないだろ」
「万が一、私が傷一つでも負えば、キョウヤの夕飯は抜きだから」
「そ、そんな…………」
アリシアを怒らせるとロクなことがない。キョウヤはマリアから離れて、アリシアの前を歩いた。夕食抜きとはまたひどいことを考えたものだ。
マリアがキョウヤの隣にやってきて、耳元で囁く。
「大丈夫ですよ。キョウヤ様のことは私が守りますから」
マリアは自信満々の笑みを浮かべていた。
別に、キョウヤは守ってもらわなくても十分強い。それこそ、キョウヤ一人で魔獣討伐に来たほうが楽だったと思えるくらいに。
サクラもキョウヤの隣に近寄ってきた。
「魔獣討伐なんて、私、一人で十分だから。マスターは見ているだけでいい」
それを聞いてマリアがムッとする。
「言いますね。一人だけ、キョウヤ様にかっこいいところを見せようとするとは、鬼は油断できませんね」
「いや、そんなつもりでは…………」
「いいえ、そんなことあります。私が魔獣を華麗に倒すところをご覧にいれましょう。見ていてくださいね」
マリアがウィンクをし、ハートマークを浮かべていた。
キョウヤはなんと返していいかわからず、引きつった笑いを返した。
「――痛っ! って、なぜ、つねるんだよ」
アリシアがキョウヤの背中をつねっていた。
「ふんっだ。なんかムカついたからよ」
「なんだよ、それ?」
キョウヤが肩を落とし、やれやれと手を振った。
その時だった。場の雰囲気が変わった。邪悪な気配を感じる。
サクラが腰の刀に手を当てる。
「――来るっ!」
サクラは姿勢を低くし、いつでも刀を抜ける状態にしていた。マリアも何かを感じとったのか、眉間にシワを寄せる。手には愛銃が握られていた。
前方の茂みがガザガザと揺れた。次の瞬間、黒い狼の群れが飛び出してきた。十数匹はいる。獰猛な牙を見せ、獲物を狙うようにキョウヤ達を凝視していた。
「やっと、出番か」
キョウヤが虚空からレーヴァテインを取り出そうと手を上げたとき、サクラがキョウヤに顔を向けずに手のひらで制した。
「その必要はない」
「そうですよ。この程度なら、私一人でもいけます」
サクラとマリアが一歩、前に出た。
キョウヤは虚空から剣を取り出すことを止めた。剣を取り出さなくても炎を生み出すことはできる。それに、この程度の狼相手なら、サクラとマリアで十分だ。キョウヤの出番はないだろう。
それを証明するように勝負は一瞬で終わった。
狼達が一斉にサクラに向かって飛びかかる。
サクラが刀を抜くと、宙にいた狼達がバタバタと地上に落ちる。残りの狼達もマリアが放った銃弾で、地面に倒れた。狼達の残骸が全て、光の粒子となって消える。
サクラが抜いた刀を鞘に収めた。
「準備運動にもならなかった」
「……………………………………」
マリアは黙り、顎に手を当てていた。
「妙ですね」
「何か、おかしかったのか?」
「普通、魔獣はこんな森の入り口付近にはいません。それに、あの魔獣達、何かに怯えているように見えました。もしかしたら、この奥に、他の魔獣達を怯えさせている元凶がいるのかもしれませんね」
「考えすぎだろう。さっさと終わらせて帰ろうぜ」
キョウヤはアリシアの元を離れ、先を急いだ。
どんな魔獣が現れようとも、負ける気がしない。レーヴァテインを使わなくても楽勝だ。
「ほら、アリシアも早く――」
「――きゃっああああああああああああ!」
突然、悲鳴が上がった。アリシアの声だ。
キョウヤが振り向くと、アリシアが立っていた地面が砕け、陥没していた。
「キョウヤ!」
アリシアがキョウヤに向かって手を伸ばした。
キョウヤもアリシアに向かって手を伸ばそうとし、その手に迷いが生じた。
もし、このままアリシアが落下して死ねば、キョウヤの封印は解除されるのではないかと。
キョウヤは浮かんだ考えを払拭し、急いでアリシアに手を伸ばす。けれど、一瞬の迷いが命運を分けた。
キョウヤの指先がアリシアの指先に触れただけで、キョウヤはアリシアの手を掴むことができなかった。
アリシアの下に巨大な植物が口を開けていた。陥没した地面もろとも、アリシアを飲み込んだ。
「アリシアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアアアア!」
植物は口を固く閉じると、ものすごい勢いで地中を移動していった。
「マスター、急いで。今ならまだ気配が追える」
サクラが森の奥へ走っていく。
キョウヤもその後へ続いた。
マリアはその場に立ちすくんでいた。
「どうして、アリシアさんだけを狙ったのでしょうか? 獲物ならまだ三人も残っているのに………………」
「マリア、行くぞ!」
「はい、今はアリシアさんを追いかける方が優先ですね」
キョウヤとマリアはサクラを追って、森の奥へ進んだ。




