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黄昏の巫女と恋のレーギャルン  作者: のんびりにゃんこ
第四章封印の解除方法
15/27

4-5


 サクラは己の勝利を確信した。

確信したという表現は適切ではない。キョウヤがサクラの勝負を受けた時点でサクラの勝利は確定していたのだから。

 サクラの勝利への秒読みが始まった、というのが正しい表現かもしれない。

 キョウヤのパワーや戦略に驚かされることがあったサクラだったが、そのどれもが、サクラの勝利を揺るがすものではなかった。現に、キョウヤの策は全て打ち破った。

 キョウヤの相手が鬼のサクラでなければ、勝者はキョウヤだっただろう。キョウヤが勝負している相手が悪かった。ただ、それだけなのだ。

 キョウヤは鬼のことをよく知らないのか、少女の外見に騙されたのか、よほど腕に自信があるのか、鬼との勝負に乗っかってきた。

 鬼と単純な力勝負をする人間など、キョウヤ以外にいないのではないだろうか。

 そんなキョウヤも今や、万策が尽き、敗北を待つのみとなっている。必死に堪えているようだが、サクラが本気を出せば一瞬で勝敗が決まる。

 でも、そうしないのは、サクラがキョウヤに期待しているからだった。

 キョウヤはサクラを何度も驚かしてくれた。人間を超えるパワーを見せつけられた。次に、店を燃やすという常識では考えられない行動にも出た。

 サクラの心はワクワクと踊っていた。

 キョウヤは次にどんな手を打ってくるのだろう。何を見せてくれるのだろう。私をどうやって、驚かしてくれるのだろう。

 サクラは単純に心を満たしたかった。

 だが、キョウヤがこれ以上、サクラの心を動かすことはないだろう。

 キョウヤは下に顔を向けていたため、表情は読み取れないが、悔しさと苦しさが混じったひどい顔をしているだろう。

この状況を逆転できる一手は残されていない。ただ、敗北を待つことしかできないキョウヤを見て、サクラの心にあった熱が冷めた。

(所詮、人間の力などこの程度。鬼が本気を出せば、勝負ではなく、暴力になってしまう。だから、鬼呪を解放したくなかったけど、解放した以上、勝負はもう終わり)

 鬼は鬼神から心の力を受け継いでいる。そのせいか、鬼は感受性が人より強い。心の力を使う鬼にとって、感受性が強いことで力が増すメリットもあるが、デメリットもある。

 強すぎる感情は周りに影響を及ぼすだけでなく、自身を傷つけてしまう。

 鬼の力は人の体で使うには強すぎるのだ。

 強力なパワーを使う反動は肉体に跳ね返ってくる。特殊な現象を起こす鬼呪は心を蝕む。

 鬼呪は心を喰らう力だ。心に住む鬼に心を喰らわれるということは、自身の感情を取られるということだ。

 鬼が鬼呪を使えば使うほど、感情が奪われてしまう。完全に心を鬼に喰らわれたら、無感情な人間になってしまう。心を失えば、二度と鬼の力を使うことはできない。

 昔、鬼は人間をよく知るために、人の心を欲したという。そのため、鬼は感情が大好きなのだ。喜び、怒り、悲しみ、楽しみ――全ての感情が鬼の食料だった。

 サクラは通常時は心を持つ人間だ。心に住む鬼を解放することで鬼の力を手にしているに過ぎない。

 鬼の力を使いすぎれば、己の身を滅ぼす。

鬼の力とは、言わば、諸刃の剣なのだ。

 サクラが鬼を解放し続けている限り、サクラの心は鬼に喰らわれている。

 サクラの大切な感情が鬼に奪われていく。

 鬼呪を解放した以上、勝負を長引かせるわけにはいかなかった。

 サクラは温存していた力を全て発揮し、キョウヤの手を押し倒した。


「これで、終わりっ!」


 大地をも砕く鬼の怪力が振るわれた。

キョウヤの体ごと地面に叩きつけられ、地面を震わす振動が起こるはずだった。なのに、キョウヤの手は未だに机との間に僅かな隙間を残し、動かなかった、否、動かせなかった。もちろん、サクラは手加減などしていなかった。キョウヤが力を入れて耐えていた。

サクラは目を丸くした。


「ありえない。どうして、耐えられるの? 人が鬼の怪力を受け止められるわけない。魔術? それとも、恩恵? 何を…………」



「――これが、鬼の怪力だと?」


 サクラは背筋をぞっとさせた。炎に囲まれ暑いはずなのに、氷点下の極寒に放り込まれたかのような肌を刺すような寒さを感じていた。

サクラの腕が震えていた。腕だけではない。体全身が小刻みに震えている。震源は体のもっと奥にある心だった。心に宿る鬼が怯えていた。


「恐れ? そんなばかなことが……鬼が人に恐れをなすなど断じて…………」


 キョウヤから黒い闘気が溢れ出している。目の前にいる少年は本当にただの人間なのだろうか。サクラは疑問を抱かずにはいられなかった。

 サクラの心に余裕はなかった。鬼に心をさらに喰らわせ、鬼の力をさらに解放する。鬼の闘気が放たれ、キョウヤの黒い闘気に対抗する。


「――ありえないっ! 鬼の怪力が人間の力如きに負けるわけないっ! くたばれええええええええええええええええ!」


 サクラの腕が鬼の力に耐えきれず、悲鳴を上げる。けれど、サクラは力を緩めることなく、キョウヤにぶつけた。キョウヤの手の骨など簡単に砕けてしまうほどの力だ。

 サクラが本気を出しているにも関わらず、キョウヤの手はびくともしなかった。まるで、空間そのものに手が固定されているかのようだった。


「嘘…………鬼の力が、怪力がびくともしない…………」


 キョウヤがふっと笑った。


「鬼の力、恐れるほどじゃないな」


 キョウヤがサクラの手を痛いほどに握りしめてきた。


「――本当の怪力ってやつを見せてやる!」


 その瞬間、サクラの腕に抗えないほどの絶対的な力が加わった。全身に響くような衝撃に襲われ、世界が一転する。サクラは何が起きたのか理解できなかった。

サクラはいつの間にか仰向けに倒れていた。横を向くと、轟々と燃える店がある。その店の壁がなくなっていた。


「……そうか、私、負けたんだ……」


 全身から力が抜けていく。解放された鬼呪が再び封じられ、鬼の闘気が消える。額にあった角もその存在が感じられなくなった。

 サラクが首を戻すと、目の前に青空が広がっていた。どこまでも広く、雲ひとつない清々しい空だった。


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