4-2
キョウヤの意志とは関係なく、不運にもアリシアの入浴中に転移させられた。アリシアの裸を見てしまっただけでなく、体にも触れてしまう結果となった。
キョウヤは外に追い出されるものと思っていたが、ソファーで寝かせてもらえることとなった。ただし、体は鎖に縛られたままだった。
鎖に縛られた状態で安眠などできるものかと思っていたが、案外、疲れていたらしく、目を閉じると、すぐに深い眠りに誘われた。
現実が辛い分、夢の中は心地よかった。
ふわふわと気持ちいいものに包まれ、心も体もぽかぽかと温まる。まるで、女神の祝福を受け、抱擁されているようだった。このまま、ずっと眠っていたい気分だった。
アリシアにひどい扱いを受けるキョウヤを見た女神が慈悲で、キョウヤにいい夢を見せてくれているに違いない。だが、明けない夜がないように、夢は儚く消え、意識が現実へと戻される。
キョウヤは目を覚ましたが、まだ、幸せな気分が続いていた。
目の前にキョウヤと同じ年に見える少女がいた。目を瞑って安らかな寝息を立てている。
まだ、夢は続いていたのだと、キョウヤは悟り、再び、夢の世界に戻ろうとして、もう一度、目の前の少女をよく見ると、その少女はアリシアだった。
何も喋らず、ただ、静かに寝息を繰り返すアリシアは純粋にかわいかった。潤んだ唇に視線が引き寄せられる。顔をもうちょっと近づければ、互いの唇が近づきそうなほど近くにあった。
キョウヤはアリシアが眠るベッドにいた。しかも、アリシアに抱きまくらのように抱かれていた。おそらく、昨晩、キョウヤを入浴中のアリシアの元へ転移させたように、同じことが寝ている間にも起こったのだろう。
朝起きて、好きな人が目の前にいる状況に幸せを感じられずにはいられなかった。このまま、アリシアを抱きしめられたら、どれほど幸せなことだろう、とキョウヤは思った。
けれど、それは幻想だ。アリシアに見せられた夢なのだ。
本当のキョウヤ心はアリシアのことなど好きなどではない。ブレスレットにかけられた呪いのせいで、キョウヤの心は歪められているのだ。
アリシアが目覚めて、キョウヤと添い寝している状況を知れば、キョウヤは間違いなく殺される。アリシアに気づかれることなく、ベッドから脱出しなければならない。
幸いにもキョウヤの体を縛っていた鎖は消えていた。アリシアが眠ったことで、鎖が消えたのだろう。
アリシアを起こさないようにそっと、アリシアの腕から抜けるように体を下に移動させた。アリシアが目覚める気配はなく、この調子であれば、脱出は可能だった。ただ、目線が無防備なアリシアの体を見てしまう。
寝間着の上からでもわかる、豊かに盛り上がった双丘に視線が釘付けにされる。だが、一刻も早く脱出しなければならない状況だ。目を閉じて、心を無にして少し急いで下へスライドする。
目を閉じていたせいで、キョウヤの顔がアリシアの胸に当たった。
「やべっ………………」
「…………う、…………んん…………」
アリシアが小さな声を上げたが、再び、すぅーすぅーと静かに寝息を立て始めた。
キョウヤは心臓が止まったかと思うほど緊張していた。ほっと、息を吐いて再び、移動を開始しようとしたときだった。
アリシアがキョウヤの背中側に手を回し、抱きしめるように引き寄せてきた。
キョウヤの頭が柔らかな胸の谷間に埋まった。
キョウヤは息ができなかった。このままでは窒息してしまう。慌てて、顔を胸の谷間から顔を上げた。薄目を開けたアリシアと目が合った。最悪の状況だった。
アリシアはまだ夢と現の狭間にいるようで、開きかけたまぶたが再び閉じていく。そのまま、眠ってくれと切に願ったが、女神は微笑んでくれなかった。
アリシアがぼーっとキョウヤの顔を見て、固まっていた。視界が定まってきたのか、アリシアの目が大きく見開かれた。顔は熟した苺のように真っ赤で、口をパクパクとさせていた。
沈黙が恐ろしくて、キョウヤの方から声を発した。
「お、おはよう………………」
「…………きゃああああああああああああああああああああああああああ!」
鼓膜が破れるかと思うような悲鳴が上がった。
アリシアに手や足でポカポカと殴られ、キョウヤはベッドから転げ落ちた。
ベッドの上からアリシアがキョウヤを軽蔑の目で見下す。
「最低! 出てけぇえええええええええええ!」
アリシアは手当たり次第、物をキョウヤに投げつけてくる。キョウヤに有無を言わせず、部屋から追い出したのだった。




