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3-3

満月の輝く夜。森にそれは美しい氷の結晶があった。木々の高さを遥かに超える氷が月明かりを受けてダイヤモンドのような輝きを見せていた。

 目の前に輝く氷の結晶を見ていたクロが杖を下ろした。


「終わったか。ちょっと、大人気なかったかのぉ。ついつい本気を出してしまったのじゃ。そもそも、キョーヤが悪いのじゃ。あんな炎の魔術を見せつけおって。魔神の魔力を継承した魔女の元長として、あれ以上の魔術で応えるしかないではないか」


 キョウヤは氷の結晶の中にいた。まるで、時間が静止したように氷の中では、一切の動きがなかった。もちろん、キョウヤの心臓の鼓動もない。

 クロがキョウヤを閉じ込めた氷の結晶に近づいた。


「時間が止まっているだけだから、死んではない。しばらくすれば解けるじゃろ。思った以上に楽しかった。感謝するのじゃ」


 クロが回れ右をして、ぐっと腕を頭上に伸ばす。


「結構、魔力を消費したのじゃ。今日はもう帰って寝るとするかのぉ」


 クロが足を踏み出したとき、地面の僅かな変化に気づいた。小さな石がカタカタと揺れていたのだった。変化はそれだけではなかった。木々がざわめくようにガザガザと不気味な音を立てていた。


「地面が揺れている。地震か。いや、この揺れはまさか……」


 クロがキョウヤの方を慌てて振り返った。

 キョウヤを閉じ込めた氷の結晶がピキピキとひび割れ、亀裂が除々に大きくなっていた。


「ば、馬鹿なっ! 時が止まった世界では、全てが無効化されているのじゃ。一体、何が起きている?」


 氷の結晶に入った亀裂が新たな亀裂を生み、亀裂が広がっていく。そうして、結晶が徐々に割れ、ガラスが割れるように結晶が砕け散った。

 氷の結晶に閉じ込められていたキョウヤが開放される。瞑っていた目が静かに開く。

 その瞬間、残っていた氷の結晶の破片が一瞬で消滅した。あまりの炎の熱量に氷が液体になったのが分からなほど一瞬で気化した。

 さっきまでの炎とは比べ物にならないほどの威力だった。


「これは、危険なのじゃ!」


 クロは転移魔術でキョウヤと距離をとった。

 キョウヤの周りにあった木々が水分を失い、枯れ木となり、一瞬で燃え、灰と化す。まるで、生命が奪われていくように、木々や大地が枯れていく。

 キョウヤを中心に世界が滅んでいくようだった。

 立ち上る炎の中に一瞬、黒い炎が見えた。


「黒い炎、まさか、キョ―ヤ、お主…………いや、さっきまでは何も感じなかった。考えられるとすれば…………あのブレスレットか」



「さっきのが、魔術だと?」


キョウヤが静かに剣先を持ち上げた。


「本当の魔術ってやつを見せてやろう」


複雑な幾何学模様が描かれた魔法陣がキョウヤを中心に広がる。魔法陣は一つだけではなかった。大小様々な魔法陣組み合わさるように描かれていた。

クロは目を大きく見開いた。


「何だ、この魔術式は…………見たことがないのじゃ。いや、これは…………禁忌の魔術。そ、そんなはずがないっ!」


 クロの頬を汗が流れた。

 杖を構えると、クロの頭上に数十本の氷の槍が出現する。

 クロが杖を振るうと、それに合わせて、氷の槍が一斉に発射される。

 キョウヤを狙った氷の槍だったが、それら全てがキョウヤに触れることもなく、炎の熱気により一瞬で消滅した。キョウヤの周りに見えないバリアでもあるかのようだった。

 クロが舌打ちをした。


「ただの魔術では、歯がたたないか……」


 クロが突如、身を震わせた。


「っ! なんだ、この魔力は……圧倒的な存在感。魔力を持たない者にでもわかるほど、絶対的な強者のみが持つことを許される力。侮った。まさか、こんな近くにいるとは…………」


 キョウヤの持つ剣に魔力が収束し、荒ぶる炎が一点に集中する。小さな太陽が生まれた瞬間だった。


「――レーヴァ…………」



「もはや、ここまでか」


 クロが転移の魔法陣を展開し、逃走しようとしていたが、変化は突然、訪れた。

 九色のクリスタルがキョウヤの周りに展開され、キョウヤを包み込むように半球状の術式が現れる。

 剣の先で収束していた小さな太陽が消滅し、炎も陽炎のように消えた。

 九色のクリスタルが高速で半球状の術式の上を回転し、キョウヤの左手首に収まった。

 ブレスレットが光り輝くと、キョウヤは一瞬でその場から姿を消した。

 クロは展開していた転移魔術を解除し、しばらく状況を眺めていた。


「一体、何が起こったのじゃ……」


 月が輝く夜空の下で、クロは一人ぽつんと立ち尽くしていた。



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