キズツケ K視点 05
そこから、しばらく。
俺が鳴海に傷をつけろと言ったらしいということを聞いてから、鳴海はすっかり黙り込んでしまった。
意味がわからない。
鳴海と俺は初対面じゃなかったのか?
それに、同じ傷があるというのもよくわからない。
傷をつけろと命令する理由も、それに従う理由もさっぱりだった。
「あのさ、何も言わないの?」
「……」
「じゃあ、もう服着るけど、いい?」
「…………」
ごそごそと新しい服に着替える。色はほぼ同じだ。
鳴海からの返事はない。
無視されているというよりも、俺と何を話したらいいかわからないといった様子だった。
明らかにこれまでの反応と違う。
さっきまで普通にしてたのに。
なぜだろう。
この傷、さっきの夢と関係があるとしたら……答えは一つしかない。
俺は首を横に振った。
ありえない。
鳴海が、『俺が救いたくて仕方なかった人物』だっただなんて。
偶然にしても、こんな場所で出会う意味がわからない。
第一……。
俺は失敗したのだ。
鳴海を、助けられはしなかったのだ。
「鳴海」
「……」
「服、着替えたら?」
「……あぁ、うん」
ようやく鳴海が行動を始める。
ゆったりとした動作で黒いタンクトップを脱ぎ、新しいものに着替える。
そしてまたあざを隠すようにパーカーを羽織った。
「九条、さ」
「……ん」
「ホントになんも、覚えてないの」
「……なにも」
一度ついてしまった嘘だ。なかなか捻じ曲げる気にならない。
それに、今は鳴海の出方が気になった。
夢の内容が本当に自分の過去であるかどうかすら確信が持てない今、鳴海の言葉のほうが真実味がある。
俺が知らない俺を、鳴海は知っているかもしれないのだ。
「九条は、皆の、俺の神様なの」
「……。…………」
「いなくなったと思ってたけど、ちゃんと生きてたし、なんだ、俺と同い年だったんだ。そっか……」
「そっか……」
「俺は神様なんかじゃないよ」
声が震えないように注意しながら、俺は言う。
「九条は知らないんだもんな」
「普通の人間だって……」
「誰だって、誰かの神様になれるの、お前は多分本当は知ってるよ」
「だから……」
急に哲学的な話になってきた。
頭がついていかない。
夢の俺は俺であって俺じゃない。
まだ、誰かの記憶を覗き見ているような感覚以上の感情がない。
だから、自分のことを他人のように感じてる今、その過去を信仰するようなことを言われても、困惑してしまう。
「九条はさ、俺を昔ちょっとだけ助けてくれたの」
「神様で、恩人」
「そんだけ」
「恩人ね……」
あくまで詳しく語るつもりはなさそうだ。
恐らくは、『彼氏』の暴力と母への愛情で板挟みになって精神を病んだ鳴海が、俺のサイトを一時期見に来ていて……。
そして俺に何かしらコンタクトを取ったのだろう。
それ以外に点と点が繋がる要素がなかった。
「俺さ、感謝してるの、神様に」
「……」
「だから、九条のためならなんでもするよ」
「これから、変な条件出されても、大丈夫。心配しないで」
「俺は九条楓で、神様はない」
鳴海を見つめて言うが、鳴海が俺を見る目が完全に変わってしまっていた。
怖い。
なんだか、背筋が冷えた。
「鳴海の思ってる人間とは別人だ」
「じゃあなんでお揃いの傷があんの?」
言葉が通じなくなってきた。
鳴海がこんなに危うい人間だったとは……。
いや、今までの言動からもその片鱗は見てきたかもしれない。
「そもそも、その傷が出来た理由を俺は知らない」
「これは、神様と繋がってる印なんだ」
「はあ……」
「これがあれば、俺は辛いことも耐えられるし、いつだって神様のことを思い出せる」
「それに神様は『いつかきっと、同じ傷がある"私"に会える』って約束をくれたんだ」
「……なるほどな」
過去の自分……中学生の自分はとんでもない馬鹿で愚かで酷い人間だったらしい。
「半分くらいしか信じてなかったけど、でも実際この傷のおかげで持ち直したことあったし」
「それはただの気の持ちようなんじゃないか?」
「錯覚でも良かった」
「自分のことを気にかけてくれる人と繋がってるかもしれないっていう、期待が、俺には必要だったから」
「そんなの、その『神様』ってやつじゃなくても……」
「あの時の俺には、誰もいなかったんだよ」
「……」
救われたいときに、救ってくれる人が現れることは、とんでもなく甘美な依存と信仰を招くんだろう。
「友だちとかさ」
「……」
友だち、というワードを口にした瞬間、空気が変わった。
あ、と思った。
「いっぱいいそうなもんなのに」
だが口はそのまま言葉を続けてしまった。
「本当に、九条は何も覚えてないんだな」
「俺は神様じゃないから。鳴海が例えば俺の何かを知ってたとしても、俺は鳴海のことをなんも知らないよ」
本心だった。
「また話すよ……そうだな。この変なゲームが終わった後とかに」
「それまでは、何があっても九条を俺が守るから」
「守るって」
なんだよ。
俺は苛立つ。
会話が成り立たなくなったことも、急に自己完結で話を進めるようになったことも、どちらにも苛々していた。
おまけに、守るだって?
変わらず自分だけが傷つこうとしているのか、という部分。
俺は一方的に守られるような弱い人間ではない、という部分。
なんだかもう感情が無茶苦茶だった。
「俺は、ずっと傷つける側に回るの、嫌だよ」
「俺は九条の身体に傷なんてつけられないよ」
恐れ多くて、と続きそうな有様だ。
急激に頭が痛くなってきた。
「やっとわかった。俺がここに連れてこられた理由」
「は?」
「九条をここから出すために、俺が必要だったんだ」
「なんでだよ」
突っ込まずにはいられない。
頭を抱えてしまう。
「なんか食べよう」
「え?」
急に、何を言い出すのかと思った。
「俺が毒味するから、大丈夫そうだったら、九条も食べて」
「……お前」
おかしいよ。ちょっと冷静になれって。
そう言う前に、もう鳴海はモニターの前へ走っていってしまった。
俺は、どうしたらいいかわからなかった。
どうすべきなのか、自分がどうしたいのかもよくわからなかった。
ただ、現状があまり良くないことだけはわかる。
このままだと、多分、鳴海は無茶をするだろう。
それはなんとなく、嫌だった。
これ以上傷つけたいわけでも、ないのに。
がこがこと、鳴海がゼリー飲料を排出口に落としているのをなんとなく遠い目で見ていた。
どうしたらいい。
どうしたら、『今度こそ正しく救える』?
「あれっ!?」
「どうした」
モニターを凝視していた鳴海が大声を上げる。
まさか。
「条件のボタンもう押せるみたい」
俺は急いで鳴海のもとに駆け寄る。
「え?何でだ?」
「いっぱいボタン押してたからかな……?」
「今急に押せるようになった?」
「そう」
「……もしかすると、これ、注文する対価が『時間』なのかもしれない」
「タダじゃなかったってこと?」
「そういうこと」
「え?そもそれなら最初からガンガン何か頼んどけばとっとと出られたかもしれなかったってことだよな」
「可能性の話だから、正しいかはわかんないけど、そうなる」
「はー。このゲーム、意地悪いな」
「早く押そう」
鳴海は『条件を表示』ボタンに触れた。
画面が切り替わる。
『時間となりましたので第二ステージの条件を告知いたします』
『この部屋の条件は以下の項目になります』
『"この条件を見てから三十分以内に傷つける側が傷つけられる側の肉体に画鋲を刺すこと"』
『第一ステージの立場と同一でなければ、条件クリアにはなりません』
『画面に表示されるくじを引き、刺す部位と個数を決定してください』
『該当箇所以外に画鋲を使用した場合、自動的にゲーム失敗となります』
『ゲームに失敗した場合、部屋の扉は開かれません』
『今回条件のクリアに必要な画鋲は支給されます』
画鋲。
一気に慣れ親しんだ文房具になった。
それを、刺す。
しかも、個数の指定まであるようだ。
「またさ、場所のくじ俺引いてもいい?」
鳴海が見上げながら聞いてくる。
そんなの、許可なんて取らないで欲しい。
自分が傷つけられるのに。
「一気に引くのかな、場所と個数」
「どうだろ」
鳴海がモニターに触ると、今度は一度目のときのような神社のくじの筒ではなく、ルーレットが表示された。
「うわ、ゲームっぽい」
「……」
悪趣味さが上がった、と思った。
ルーレットは六分割されている。
『右腕七個』
『左手手のひら六個』
『右太もも九個』
『左ふくらはぎ五個』
『右肩四個』
『腹八個』
もともとない食欲がマイナスまで落ちる。
切りつける、目に見えて痛いタイプとは違う。
けれど、普段使っている道具を正しくない用途で使わせるこの条件、酷く性格が悪い、と思った。
カシャン、と音がして、排出口に小さなプラスチックのケースが落ちてくる。
中には、金色の画鋲が十数個入っていた。
「どこが一番マシかな」
「どこにだって、画鋲は人の体に刺すものじゃない」
「脂肪があるとこのほうが痛くなさそうだけど、太ももとか腹は数が多いなー」
鳴海は俺の言葉を聞いちゃいない。
すっかりまたやられる気でいる。
やらないって選択肢はないみたいな。
自分は傷つけられて当然みたいな。
やめて欲しい。
やめて欲しいのに。
「じゃあ回すね」
ルーレットをタップすると、ぐるぐると回転しだす。
どこがいいだろう。
ましな箇所なんてあるんだろうか。
もう一度画面に指が触れて、ルーレットが止まる。
画面に『腹八個』の文字がピカピカと点滅する。
鳴海はただ淡々とそれを見ている。
「太ももが良かったけど、しゃーないか」
「脂肪の多いとこって言ってたけど、お前全然肉ないよな?」
「肩とかよりはましな気がする」
「まし、ね」
一部屋目の課題でも思ったことだが、こんな風に一方のみを傷つけていくゲームに、一体なんの意味があるのだろう。
まためまいがしてきた。
鳴海が排出口に手を突っ込む。
画鋲の入ったケースがかしゃかしゃと音を立てる。
「はい」
「……」
気が重い。
「あ」
「……ん?どうした」
「突っ立ってたら刺しにくいよな?横になったほうがいい?」
「……言われてみれば……」
鳴海がベッドに向かって歩いていく。
俺は、そっちへついていくのが嫌だった。
けれど、やらない訳にはいかない。
制限時間は消費されるばかりだ。
八個。
八個も刺さなければいけない。
色んな話を聞いた後だと、余計に鳴海を傷つけるのに罪悪感がある。
「はやく来いって」
鳴海はそんな俺の気持ちを知りもしないで、さっさとベッドに横になっている。
俺が寝てた側だ。
「腹、どこがいいかな……って、うげ」
「なに」
「あー……いや、あざのこと忘れてた」
「……馬鹿」
パーカーのジップを下げ、タンクトップをめくった鳴海の腹があらわになっている。
その腹の、右側にも左側にも、青黒いあざが残っている。
「どうしよ」
「あざは極力避けるしかないだろ」
「悪いな」
「なんで鳴海が謝る」
「どんどんテンション落ちてるなーと思って」
「それは」
そうなるだろう、普通。
俺は普通だ。
鳴海が異常なんだ。
と考えて、またハッとする。
こういう考え方は、いけない。
自分は相手を責められる立場では、ないのだから。
だいたい、元々は鳴海のせいじゃない。
「こっからだとモニターの時計が見れないのが不安だよな」
「……早く終わらせよう」
「お、やる気になってくれた?」
「そんなに嬉しそうに言うんじゃない」
俺は鳴海のデコをぺしりと叩いた。
「……はは」
「なにがおかしいの」
「いや、誰かの役に立てるかもって思ったら全然怖くねーの」
「あのさ」
俺は少し語気を強めに、食い気味に言う。
「お前はもっと自分のこと大事にして」
「なんで」
「なんでって、心配だから」
「心配?なんで?」
「なんでって……」
なんでだろう。
『記憶喪失』の俺にとっては出会ってから二十四時間も経ってない同い年の男を、これだけ心配する必要なんて、あるんだろうか。
いや、あるだろ。
「それが普通」
「普通」
鳴海は、言葉を噛み砕いている。
「そっか」
「……なんか大事にされてるみたいだな」
「俺は別に酷いこと、したくてやってるわけじゃない」
「わかってるよ」
「ほら早く。無駄話してたら終わっちゃうかも」
「ああ……」
ケースの蓋を開ける。
軽い音を立てて、金色の針が揺れる。
八個数えて、ベッドの上に置く。
数を間違えないように。
「じゃあ、やるぞ」
「うん」
まず、右側の腹。
へそよりも上の部分にあざがあるから、その下。
皮膚に触れる。
「……くっ」
「くすぐってるわけじゃないから」
「わかってるけどね、くすぐったいんですよこっちは」
思った以上に肉がない。
ペラペラだ。
骨と皮と、ほんの僅かに筋肉といった具合だった。
刺したくない。
刺す。
刺したくない。
刺すんだ。
俺は画鋲の一つを右手に持って、その針を腹部の皮膚の上に押し付ける。
「痛かったらごめん」
「我慢する」
「……」
ためらうと、失敗しかねない。一気にやろう。
瞬間、右手の親指に力を込める。
「っ……」
ぶつ、と薄い何かが破れるような感覚がして、意外と簡単に、それは肉に突き刺さった。
俺は身を起こす。
金色の円が、腹部にくっついている。
奇妙な光景だった。
「ごめん」
「大丈夫。全然痛くないから」
「嘘つけ」
「痛いの一瞬だけだよ。見た目はちょっとなんかアレだけどさ」
青黒いあざの横に金色がピカピカときらめいているのがアンバランスで、気持ちが悪かった。
「残りもやっちゃって」
「……」
俺は、なるべく色々な情報を頭に浮かべないように努力しながら、心を落ち着かせて、順番に画鋲を刺していった。
ぶつっ。
刺すたびに、指に伝わる皮膚に穴が開く感覚。
どうしても、慣れない。
四つ刺し終わったあたりで、左側の腹に移動する。
左側は、へその下辺りにあざがあるので、へそよりも上。
「半分終わった」
「うん」
「もうちょっと、頑張って」
「うん」
鳴海の顔を見る。意外と平気そうな顔をしている。
が、少し鳥肌が立っているのを見逃さなかった。
本当は痛いのか。
それとも少し寒いのか。
どちらもかもしれなかった。
深呼吸をして、また取り掛かる。
穴が、空いていく。
最後の一つになったときに、鳴海が言った。
「もう終わり?」
「そんな名残惜しいみたいに言うなよ」
俺はうなだれてしまった。
「いや意外とあっけなかったなと思って。別に、もっとして欲しいわけじゃないよ」
「ホントか……?」
「信用ないなー」
「鳴海のことは信用してるけど、自分を大事するかどうかって部分だけは信用してない」
「ひでーの」
最後の一つを手に取る。
ぐ、と力を込める。
「……っ」
終わった。
腹に、キラキラと輝く画鋲が八個。
下手くそな装飾みたいだった。
「おー……すご……」
鳴海が状態を起こして自分の腹をじっくり見る。
自分の身体に文房具が突き刺さってるのは一体どういう感覚なんだろうか。
知りたい気もするし、一生知りたくない気もする。
「クリアかな?」
「多分」
「いつまで刺してなきゃいけないんだろ、これ」
「さあ……」
そこで、また一部屋目と同じアラーム音が部屋に鳴り響いた。
「あ、終わったな」
「モニター見に行く?休んでる?」
「行く。これ抜いたらまずいかな。見たあとでいっか」
起き上がって鳴海はタンクトップを下げた。
腹に画鋲を刺したまま、行くらしい。
複雑な心境だったが、もしも抜いてしまったあとに条件未達成と言われても困る。
ので、俺は黙って鳴海のするようにしてもらった。
鳴海がベッドから降りるのを待って、一緒にモニターの方へ歩いていく。
モニターに文字が浮かんでいる。
『条件達成おめでとうございます!』
『達成者の二名に第二報酬が与えられます』
『今回の報酬は・第二ステージの扉の解錠・第三ステージでのボーナスゲームのチャレンジ権の二点です』
『扉を出て通路を右折してください。第三ステージに繋がっています』
『なお、今回扉は六時間後に開かれます。それまで次ステージの準備をしてください』
「次ステージの準備……?」
「睡眠とか、食事は今のうちに済ませておけってことかな」
「次のとこはもう水とか食事ないってこと?」
「一部屋目みたいに『約束』されてないからな」
「えぇ……もうこの部屋戻ってこれないのかな」
「多分な」
「……服とか余分に持ってったら駄目かな」
「荷物が増えてもあんまりいいことないと思うけど……」
「そっか」
「でも、水くらいは持ってったほうがいいかもな」
「なにか入ってるんじゃなかったっけ」
「手洗い場で中身一旦捨てて、容器洗って、蛇口の水入れてったら少しは安全かなって」
「よく考えるね、九条やっぱり」
「神様じゃない」
「へへ……」
「あ、そうだ、でも六時間あるなら、もっかい仮眠してもいいよな?」
「次の部屋で眠れる保証もないからな」
「ならやっぱりちょっと食べ物胃に入れておこうかな……」
と、鳴海が腹をさする。
「痛っ」
「あー……ほら、一旦それ全部抜こう。で、傷口洗おう」
「……うん」
俺たちはいくつかの栄養補助食品を持ってベッドに移動した。
「待ってて。濡らしてくる」
Tシャツを持って手洗い場へ行く。
布を濡らして、足早に戻ると鳴海が一つずつ画鋲を抜いているところだった。
「なんか変な感じ」
「痛い?」
「そんなに血も大したことないし」
鳴海の腹は、青あざと画鋲の穴の斑点とで悲惨なことになっていた。
濡らしたTシャツを鳴海に渡す。
「ありがと」
「冷たいけど」
「大丈夫大丈夫」
鮮やかな赤が、少しだけ濡らしたTシャツに色移りする。
鳴海はついでに、左腕のカミソリの傷口もその布でぬぐった。
左腕の傷口の血はすでに乾いていて、塊になっている。
その塊が剥がれて、白いTシャツが僅かに赤黒く汚れるのを見ていた。
「気になる?」
「そりゃあ」
「怪我したの気にされるの、久しぶりかも」
「……それはお前が傷を人に見せないからじゃないか?」
「そうかも」
鳴海はへらへらと笑う。
中学の頃の体育の着替えとか、一体どうしていたんだろう。
過去のことなんて、考えてもやり直しが効くわけでもないし、仕方のないことだけど。
「眠っちゃうかもしれないけど、食べてもいい?」
傷口を綺麗にし終わった鳴海はパーカーを羽織り直し、ゼリー飲料を目線まで持ち上げて左右に揺らす。
「眠るだけならいいんだけどな」
毒とか入ってたらシャレにならない。
「でももう腹減って倒れそう……」
「いいよ。俺、食べないし、起きてるから」
苦笑して、言う。
また寝たら悪夢を見そうで、眠る気にはなれない。
「悪いな」
「全然」
こんな僅かな空腹、俺が鳴海にしていることに比べたら。