第一話 『デジタル・ビッチと殺伐とした青春を送る、高校生型クローン兵の日常ってのは……。』 その一
第一話 『デジタル・ビッチと殺伐とした青春を送る、高校生型クローン兵の日常ってのは……。』
……50年も前から、地球ってのは変わっちまったと言われるものの。『17才』の自分からすれば、『生まれた時』から、ずーっと、こんなものなわけで……。
薬物と催眠プログラムに補強されて、戦意を底上げされている。ときどき、大ケガして、腕の一本でも失ったとしても―――こうして、『同系統』の腕を移植されることで戦線復帰も叶うんだ。
敵を400体殺せば、引退出来るというウワサがあるけれど。どうにもこうにも嘘くせえ。『天使』にしろ『悪魔』にしろ、そんなに殺すよりも先に、こっちの方が殺されてしまいそうだな。
『オレたち』のシリーズの『オリジナル』は、400体を本当に殺したのかな?……分からない。分からないし、考えているヒマも無さそうだったよ。
『はーい!!日本男児諸君ッ!!今日も元気に、お仕事、お仕事ッ!!』
日本防衛軍のマスコットである、ツインテールの美少女キャラクター。セーラ服に、短いスカートを装備した、細身のくせに巨乳のキャラクターさんだ。
日本のエリートってのは、アホが多いんだろう。兵士の低年齢化に合わせて、こんな変なキャラクターを使うようになったそうだ。殺伐とした戦場に、せめて可愛いキャラクターを投入しようということなのか?
……理解は出来んが、オレたちの側頭葉に埋め込まれた精密機械のおかげで、半ば強制的に、この美少女キャラクターを見せられている。彼女の名前は『サクラちゃん』。よく分からんが、昔の日本にはよく生えていたバラ科の植物から取ったそうだ。
老人の懐古趣味につき合わされているような気がするけれど。まあ、名前なんて、どうでもいい。
……イヤなのは、この『サクラちゃん』がモテまくっていて、これが頭の中にやって来ると、やけに喜ぶ兵士たちがいるってことだな……。
「うひょおおお!!」
「さ、さ、さ、サクラちゃんだああ!!」
純粋にこの国防省推薦キャラクターを愛しているのか、それともただの性欲のはけ口として見ているのか、よく分からない。強制的にサクラちゃんばかりを見せられるせいで、オレたち日本兵の頭の中にはサクラちゃんが刻まれている……。
高度なAIであるサクラちゃんは、こっちが話しかけると誰よりも親身になって励ましてくれる。『母性』のかたまりらしいよ?……母親ってものを知らないオレたちみたいな培養槽生まれからすれば、神の化身みたいな存在かもな。
慰められときはあるよ?……オレも片腕が吹き飛んだときには、大丈夫!君と同じ遺伝子をもった戦友が、そのうち名誉の戦死を遂げて、君に新しい腕をくれるから!!……って、慰められたものだ。
でも。
オレは『昔』から、この女が好きになれない。
何故か?……公式的には、サクラちゃんは清楚で明るく元気な美少女なんだ。ちなみに設定上は節度もある『人物』だよ。
でも、サクラちゃんファンが多く存在することと、我々のような十代日本兵の性欲とか、妙な情報技術力のおかげで、不正に製作されたサクラちゃんのポルノ動画が死ぬほどあふれているんだ……。
そのせいで、『デジタル・ビッチ』という悪いあだ名が、サクラちゃんにはあるんだよ。清楚もクソもない。可能ならば、脳みそに毎回出演するキャラクターを、サクラちゃん以外にして欲しいところなんだが……。
……かつて、そう言い出した派閥と、サクラちゃんファンの日本兵が、殺し合いをした。86人が死んだ。そして、悲しいことに、オレの新しい右腕の持ち主サンは、サクラちゃんの大ファンだったらしい。
雄々しく戦い、反対派の銃弾に倒れたそうだ。
……悲しい青春だ。なんで、『デジタル・ビッチ』のせいで内輪モメまでやっているんだろう?……オレたちは、人類の存亡をかけて、空から降ってくる100億のバケモノと戦わなければいけないのに……?
しかし、『パーツ』を付け替えられるぐらいに遺伝子が、そっくりなのに。どうしてサクラちゃんに対しては、意見が分かれるのかね?
まあ、どうでもいいけど。
今日も死なないように、頑張るだけだ。
『さあ!!皆で、元気よく!!お国のために、滅私奉公ッ!!』
「滅私奉公っ!!」
「滅私奉公ッ!!」
サクラちゃんファンたちの絶叫が、せまいトレーラーの中で響く。一種の信仰だと思う。非合法系のネット情報によると、こういうのって国際的に見ると洗脳あつかいらしい。
……まあ、そうなのかもしれないけれど。
そもそもクローンに人権もクソもないような気もする。400、400、400、それだけが大事なことだ。あと、150匹、バケモノをぶっ殺して、退職金をゲットして引退してやる。
それだけぶっ殺して、オレは引退するんだよ。そして、遺伝子に損傷度の少ない、一級市民サマたちみたいに、学校とかに通ってみたい。そして、経営学を学び、ラーメン屋になるんだよ。安い金で、あこぎに稼ぎたいんだ。
伝説によると、学校には生きた女がいるらしいしな。『デジタル・ビッチ』のサクラちゃんとオサラバして、生身の女と話してみたいんだよ……エロVRの方が理想的な女子でいいっていう話もあるけど、さすがにそんなことないんじゃないかな。
学校、学校、学校。
オレたち高校生型男子クローンにとっては、深層心理にプログラミングされている。日本政府が望む、理想的な日本人の男って、高校に通っているもんらしい。
20ヶ月前に、タンパク質から合成されたばかりの、自称17才のオレでさえ、その本能から逃れられない。だから行ってみたい気がする。
培養槽でグロテスクに構成されながらも、VR装置に脳細胞は連結されていた。そのおかげで、オレたちには『記憶』がすり込まれている。あるはずもない記憶が、オレに小学校生活を思い出させることもある。
本当に17才みたいな気がするよ、生誕してから、まだ20ヶ月のくせにな。しかも、オレはちょっと変わり者らしい。サクラちゃんにピンと来ないのも、そうなのかもしれないけど……なんか、周りよりオッサンくさい気がするんだよ。
……VR装置が海馬に刻み込むデータってのは、ランダムに製造される。同じ遺伝子でも、個性的に存在しています!日本政府は、そんな言葉で国際的な批判を躱したいらしい。
クローン兵士は、世界各国に誕生しているらしいけど。日本は、かなり多い方だ。アメリカに次ぐんじゃないかな?……あっちは、数より質らしいけど。国がデカいせいか、結局、オレたちよりも数だって多いはずだよ。
人権という観点から見れば、オレたちみたいなクローンってのは、タブーな存在らしい。だが、生まれちまったものはしょうがないさ。日本じゃ、戦線を担っているのはオレたち高校生型クローン兵士だしな……。
とにかく、オレの『記憶』を作ったVR装置は、オレのときだけ手を抜いたのか、オレは、ずいぶんとひねくれてしまっているんだ。
愚痴っぽいオレを乗せたトレーラーが停車する。
戦場についてしまったらしい。視界の中で、サクラちゃんがラッパを吹きながら決めポーズを取っている。サクラちゃんに興味が無いはずのオレも、何となく見えそうで、見えなさそうなミニスカートを気にしたりするんだ。
男子高校生型クローン兵士ってのは、なんと情けない存在なのだろう……。
サクラちゃんが、元気に発言している。
『さて、戦場に、到着だよ!!サクラのためにも、お国のためにも!!いざ、滅私奉公ッ!!』
「滅私奉公ッ!!」
「滅私奉公っ!!」
……さて、今日も元気にバケモノと戦うことになるぞ。
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