弟と戦い
メキリ、メキリ、バリッ。
実が割れる音。その中には小さな木が生えている。
「ガ、アア?」
「おい、言葉分かっかよ?」
「ガアアアアアアアア!」
「おいおい、同族だろ?さらに、兄弟だろ?」
「ガアアアアアアアアアアアア!」
「こりゃダメだ。またゴーんときと同じで言葉わかってねーぜ」
グーが話しかけてくる。
あ、グー、ギー、ゴーってのは俺らがお互いにつけたあだ名。
鳴き声由来だがらわかりやすい。しかも何通りもできる。俺の場合はゴー。
ギーが言う。
「まあ僕たちもおんなじようなものだったじゃん」
「はあー、じゃ会話を重ねておしえればいいんだろ?わーったぜ」
「ガア?」
その後言葉を理解して、、、、、
「グー」
「ギー」
「ゴー」
「ガー」
「ワシャアアアアアアアアアアアア!」
「一回多くなかったか?」
「トレントの声じゃなかった気が、、、」
「ワシャアアアアアア!」
「「「「レッサーマジックワームだ!」」」」
木の影から青く巨大な芋虫が現れる。この何日かの俺たちの鬼ごっこの相手だ。
「ワ、シャ」
芋虫の口の前に水の玉が現れる。
そう、この芋虫の厄介な点は魔法を使うのだ。
とはいえ威力は低く、当たっても俺たちは防御力が高いので1か2程度の
ダメージしかならないから〈サンド〉の魔法で足止めして逃げる、と言うのが戦法だった。
〈サンド〉の魔法はMPを使用して近くの土や砂を好きな形に出来る。
この場合地を這うしか能のないレッサーマジックワームに合わせて地面から土の針を生やす。
しかし、今回は敵さんも本気だった。
「シャアアアアアア!」
土の針が出た時点で諦めるはずのワームは、水の玉を連打する事で針をたやすく壊し、
次の水の玉を浮かべる。
「アイツ今回本気だ!」
グーが焦る。
「ど、どうする?」
ギーが慌てる。
「倒すか?」
倒して見ようぜ。
「「「無理だろ!」」」
やっぱりか。
「だがこのままでは、、、」
ワームは今にも土の針を突破しそうだ。
「ッチ、よーし、やったろーじゃねえか!」
グーは決断したようだ。
ギーも、
「延々と追いかけられるよりかはマシかな」
戦う気満々である。
一番年下のガーさえ、
「やって見ましょう!」
と言ってくれた。
そしてギーが指示を出す。
「ゴーとガーは〈サンド〉で足止めに徹しろ!俺とグーで戦うぞ!」
「戦うって、どうやって?」
「〈マナスフィア〉だ!使ったことはねえが能力は分かっだろ!」
「う、うん!」
〈マナスフィア〉はMPを魔力として固めて打つ高威力の魔法だ。
MPが2しかないのでまともな威力を稼げるとは思わないが、
最終的には枝で殴ってもダメージは通るだろうし。
「「〈サンド〉!」」
深く根を張り、ワームの周りの土を変化させる。新しい土の針が生えてくる。
「「〈マナスフィア〉!」」
グーたちの顔の前にグーたちの体表と同じ色の球体が出来上がる。
その球体が飛んでいき、ワームを挟み込むように飛び、ワームの右側と左側でそれぞれ炸裂した。
ワームが宙を舞い、
「ワジャアアアアアア!」
落ちる。
「ジャアアアアアア!」
俺たちが作った土の針の上に。
ワーム肉が抉れ、土の上に散らばる。
「ジャアアアアアア!シャアアアアアア!ワシャアアアアアア!」
ワームが吠える。
ワームを淡い優しげな光が包み、飛び散った分の肉が再生していく。
「か、回復しやがった!」
グーが言う。
所詮魔法の使える芋虫と、侮っていた。
この世界では魔法の有無で勝敗が決まったであろう戦いもあっただろう。
今魔法の有用性を突きつけられて見に染みて分かった。
皮膚が剥がれ肉が削げた後からでも完全に復活できるとは。
「ワシャアアアアアア!ワシャアアアアアア!」
肉が再生して戦意を再燃したワームは戦いを続行するつもりらしい。
頭部を上げて後ろで踏ん張り、立ち上がるような体勢になる。
こちらを見てくる両目には湧き上がるような怒りがあった。
「グワジャアアアアアアアアアアアアアア!シャアア!」
顔の前に火の玉を作り出し、大口を開けてそれを飲み込む。
口から赤いエネルギーが溢れ出し、こちらを睨む目には赤い光が灯る。
「ジャ、ア」
そして口を開ける。
その口からさっき飲み込んだ光の塊と同じ色のエネルギー塊が光のレーザーとなって発射される。掠っただけで目の前の石を粉砕した。
本能が告げた。
あれに当たったら、終わる、と。
今の俺のステータスは、、、
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種族:チャイルドトレント
状態異常:なし
Lv :1/5
HP :5/5
MP :0/2
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体力はあるが防御力云々を超越したものがあのエネルギー塊にはある。
当たったら一撃で終わる。
しかし避けるようなスピードなんてこの木の体にはない。
MPもないから〈サンド〉で壁を作るなんてこともできない。
「あ!何!」
「奴を倒せ!」
「うおおおおお!」
ギーが枝を振り落ろす。
あの枝で奴が倒れるのが早いか、あのエネルギー塊で俺のHPが0になるのが早いかだ。
「まてえええ!」
ガーが枝を俺の前に伸ばす。
ガーの枝で一瞬だけレーザーが止まる。
その次の瞬間にはワームの体にグーの枝が振り下ろされた。
「ギイシャアアアアアアアアアアアア!」
ワームの体が大きくへこんだ。