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唐突に失踪したくなる気持ち
「死なれたのは、どうして?」
「オーロラが、見たくて」
「え……?」
脈絡のない話にキョトンとする面接官に、天使候補は微笑んで見せた。
「オーロラが、見たかったんです」
「オーロラが」
「本当はわたし、ベッドに繋がれてなきゃいけなかったんですけどね」
抜け出しちゃいましたと、大学の講義を自主休講したみたいな気軽さで、天使候補は語る。
「誰にもなにも言わずに病院を抜け出して、残ってた貯金を半分下ろして、パスポートの期限がぎりぎり残っていたから、空いていた席取って飛行機に飛び乗って、北欧に」
「……オーロラは、見れましたか?」
「見れました!すごく、綺麗だったなぁ」
とろりと目を溶かして、天使候補は頬笑んだ。
「リコリス菓子やサルミアッキ、シュールストレミングなんかも食べてみたんです。たまたま開催されてた世界選手権にも参加させて貰って。それで、でも、旅先で死ぬのは迷惑だから戻って、なんか、捜索願いが出されちゃってたみたいで空港で捕まって」
苦笑する天使候補の声は、どこまでも穏やかだった。
「救急車で運ばれて病院に叩き込まれたけど、結局ひと月ももたずに死んじゃいました」
すごく怒られたし泣かれたと、あくまで穏やかに笑いながら天使候補は言う。
「……どうして、そんなこと」
「だって、見たかったし」
あっけらかんと、天使候補は言い放った。
「ベッドに繋がれててもどうせ死ぬなら、やりたいことをやって死んだ方が良いなって。せっかく貯めたお金は、治療費より楽しいことに使いたいなって」
言ったあとで、慌てたように天使候補は付け足した。
「あっ、移るような病気じゃないんですよ?フライトも問題なくて。確かに家族とか病院には多大なる迷惑を掛けてしまいましたし、万一旅先で死んでたらもっとたくさんのひとに迷惑掛けることになったのも理解していますけど、だから、自分で自分の限界は推し量って、その上で行動を、」
「でも、わがままですね」
「それは否定しません」
だからそこを責められるなら反論は出来ないと、天使候補は頷いた。
「でも、自分の命ですから」
言って、微笑んだ表情は、ひどく晴れやかで美しかった。
m(__)m




