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わたしそんな良いひとじゃないから
「死因は?」
「過労死です」
迷いなく、天使候補は答えた。
「過労死?」
それにしては徳が、と面接官は首を傾げる。
「働き過ぎ、ですか」
「ええ、そうです」
天使候補は胸を張ったあとで目を逸らし、
「間違っても、人助けで死んだりしていませんよ。ええ、していませんとも」
早口で言った。
面接官が口を挟む隙も与えず、立て板へ水を流すが如くに滔々と語る。
「あり得ないんです、ええ、大事な会議があるにもかかわらず人助けだなんて、そんな。だって、一分一秒ですら惜しいのに、武術なんてろくに出来やしないのに、放火魔を止めようとするなんて、頭がどうかしていたとしか」
「え、ちょ」
「過労でまともな判断が出来なくなっていたんですよ。警察と消防に通報したんだから、それで良かったはずなのに、保育園が近いとか通学路の途中とか、わたしには関係ないのに、あんなやばそうな男に殴り掛かるとか、スーツを駄目にしてまで火を叩き消そうとするとか、馬鹿でしょう。平静じゃなかった」
「いや、あの」
「だから人助けじゃないんです。わたしは過労死で、誰かを助けようなんて考えていなかった。働き過ぎでイっちゃってたんです。ほら、なにも考えずに、線路に飛び込んじゃうみたいな、アレ」
目を逸らしたまま戯言のように語った天使候補は、不意に視線を転じて面接官を鋭く見据え、言い放った。
「過労死、なんです!!」
鬼気迫る勢いに呑まれ、面接官がびしっと姿勢を正す。
「アッハイ、ワカリマシタ」
反射的に返された答えを聞き、天使候補はほっとしたように微笑んだ。
m(_ _)m